中小企業の経営者のための人事戦略入門【第7回】
本コラムは【第1回】で述べたように、秋山がみのり経営研究所ホームページに発表した記事を転載するものです。
「中小企業の経営者のための人事戦略入門」
【第7回】役割:経営戦略と人事制度のかすがい(3)
(3)組織設計の原点としての役割
前二回で役割定義の仕方を説明しました。非常に単純なルールなので、多くのひとは「そんなやり方で仕事の定義が出来るはずがない」と懐疑的な反応を示します。しかし一度このプロセスが始まると、組織の問題点があちらこちらに見えて来ます。人事制度設計のプロジェクトとしてスタートした作業が、いつの間にか組織作りのプロジェクトの様相を呈してくるケースが大変多いのです。
仕事とは何かと言う基本的な理解無く組織設計をすると、入れものとしての組織構造の議論が中心となり、出来上がった組織は実効性の低いものになる傾向が大きいと言えます。大会社におけるヒトの処遇のための組織作りは論外としても、配置されるヒトが何を期待されているか分からないような組織では会社として狙う成果が期待できないのは当然と言えます。一般的に組織の目的あるいは業務活動レベルで何をすべきかの理解に大きな乖離があることは少ない。しかし貢献責任として何が求められるかを問い掛けると、その理解のギャップの大きさに驚かされることが多いのです。
経営トップ直下の会社の命運を左右するような事業を預かる大きな仕事でも、このようなギャップが散見されます。財務的な視点あるいは顧客の視点からの貢献責任を忘れる事は少ないのですが、育成の視点、内部のビジネスプロセス的な視点での重要な貢献責任を見落としているケースです。長期的な視点での組織の収益力向上を考えると、社員の育成あるいは会社のビジネスプロセスの変革は上位職であればあるほど重要度が高いはずです。経営トップからもそのような期待が高いのですが、それを明確に認識している社員あるいは執行役員は意外と少ないのです。
役割・貢献責任の特定に対する批判として「責任範囲を限定することによる仕事の柔軟性が無くなり臨機応変の対応が出来なくなる」というものが一番多い。しかし現実には非常に大きな貢献責任さえ明確に認識されていないケースが多いと言えます。また貢献責任の定義は責任範囲を狭く限定するものでないことは、多くの会社での実施例から認められています。貢献責任が明確になることにより、その達成のための業務活動の取捨選択の自由度が高まり、これがその仕事の生産性を上げる契機ともなっているのです。
多くの会社でこのプロセスが評価されているのは、結果としての人事制度もさることながら、経営戦略実現の第一歩である組織構造の実効性を再点検し、不足部分があればそれを強化できる点にあると思います。
このコラムでの解説の目的はあくまでも人事制度を設計する上での役割の持つ重要性です。
人事制度の目的は経営戦略を支え、社員を採用・動機付け・育成し、会社業績の向上に貢献する事です。その中心概念は役割・貢献責任です。この概念無しに制度設計を行なえば、恣意的・年功的な運用に流れる事は必至です。評価制度を例に取ればお分かりいただけるように、社員の評価基準は役割・貢献責任を除いてはありえないのです。業績はまさに役割・貢献責任の達成度合いそのものです。よく能力が大切と言う議論があるのですが、能力とは組織においては与えられた役割・貢献責任を遂行するための能力であり、能力を評価対象とするためにはまず役割・貢献責任を明確にする必要があるのです。
既に述べてきた方法で役割・貢献責任を定義すると、初めて成果に基づく人事制度設計の出発点が出来上がった事になります。次回「役割:経営戦略と人事制度のかすがい」の締めくくりとして貢献責任の具体例をお見せしたいと思います。
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秋山 健一郎(アキヤマ ケンイチロウ) 株式会社みのり経営研究所 代表取締役
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