中小企業の経営者のための人事戦略入門【第5回】
本コラムは【第1回】で述べたように、秋山がみのり経営研究所ホームページに発表した記事を転載するものです。
「中小企業の経営者のための人事戦略入門」
【第5回】役割:経営戦略と人事制度のかすがい(1)
(1)仕事とは何か?
どんな会社にも組織図はあります。大きな会社には職務分掌規定と言う分厚い書類があり、組織図の中の課、部、本部、事業部などがそれぞれ何をやるかが詳細に規定されています。小さな会社では組織図上に機能毎の単位として課とか部とかが決められていますが、それぞれが何をやるかは極めて大まかにしか規定されていません。
どちらの場合もその規定の内容を検討してみると、実際の仕事を進めていくときに不都合が生ずる場合が大変多い。基本に戻って仕事とは何かを考えてみると、どうして不都合が発生するかその理由が分かります。技術的な話になりますが、仕事は分解してみると次の要素で構成されています。仕事の置かれた環境、その環境対応のための日々の諸々の業務活動、その業務活動を通して生み出される成果、それら成果を統合する概念としてのその仕事の存在する目的、これ4つの要素です。環境以外の三要素が明確に定義された仕事を組織における「役割」と呼びます。
どんな社員も朝規定の時間に出社してからは、パソコンのメールの確認から始まり、関連書類に眼を通し、求められた報告書を作成、必要な会議の準備、出席・議論、外部の関係者との面談、それらの報告・・・あっという間に退社時間になり、次の日の準備があれば残業という多忙な生活をしています。これらは業務活動と呼ばれる仕事の一要素です。仕事を取り巻く環境は日々変化しており、その対応のための業務活動は、やり始めれば膨大な量になります。また内容的にはどのような階層の社員でも同じ種類の業務活動が行なわれています。大きな会社の分掌規定にはこれらの業務活動が、関連部署との関係を配慮しつつ、どのような条件の下で行なわれるかが詳細に規定されています。
しかしながら業務活動の内容は同じでも、組織上の位置づけにより求められる成果は異なります。同じ会議に出席しても、単にその会議のアレンジをしている社員と、その参加者として参画が求められる社員、議長として結論をまとめ上げることが求められる社員、などそれぞれ結果として求められるものは異なります。その成果が明示されないと、会議に出席した事だけで仕事が済んだことになってしまいます。大きな会社で、皆が忙しく働いている割に成果が出ないと言われるのはこの成果の定義が曖昧なケースが多いからです。
逆に小さな会社では、組織構造とその中に位置づけられた課や部の目的のみが示されているケースが見受けられます。例えば営業組織を作るときに担当商品を割り当て、それを売る事が目的の課や部を作る場合です。大きな会社と異なり、業務活動の規定が無く自由度が大きい反面、その特定商品を売る事だけが唯一の成果となります。しかし組織として理念を追求する企業であるためには、営業の存在は他の組織と切り離された、単に売れれば良いという機能ではないはずです。経営者は営業にもっと広範な成果を期待していると思われます。他の機能においても同じ事が言えます。
両方の事例で欠けているのは、仕事の第三の要素である、業務活動を通じて生み出されるべき成果の定義です。目的を達成するために、経営者が期待する成果が何であるか、あるルールの下に明確に定義する事で上記のようなケースを避けることが出来るのです。
これは同時に前回説明した目標の設定を意味のあるものにする出発点となります。上記の業務活動を中心とした組織では、目標はどうしてもメール・報告書の数、顧客訪問回数、会議時間など、一見数値目標ですが、結果として何を求めているのか疑問を感じざるを得ないものになりがちです。また逆のケースでは、目標は売上高に偏重しがちで、顧客との長期的な信頼関係や将来有望な商品開発への市場情報の提供などは二の次となる傾向があります。
では第三の要素である成果をどんなルールで定義すればいいのか?次回は組織の中における仕事を「役割」として定義していく方法について説明をして行きます。
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秋山 健一郎(アキヤマ ケンイチロウ) 株式会社みのり経営研究所 代表取締役
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