総合基金解散における従業員の不利益の回避
1 基金解散を促す法改正
2014年4月の厚生年金保険法改正に伴い、総合型厚生年金基金の解散の動きが目立っている。年金財政が不健全な基金に対して、5年間、解散しやすい優遇期間を設けるのが改正の趣旨である。ちなみに解散せず継続する基金は、優遇期間が経過した5年後からは国から財政の健全性を常に問われることになる。
厚生年金基金は、バブル崩壊とリーマンショックによる株価の下落の影響のため、一部の基金を除き年金財政は健全とはいえず、今後の回復が見込めないと基金が判断すれば解散せざるを得ない。
2 企業にとっての選択肢
基金が解散した場合、加入企業には以下の選択肢がある。
①企業が、独自で確定拠出年金、確定給付企業年金を導入・開始する。
②解散した基金が再度、加入企業に声をかけて新たな代替の総合型企業年金を立ち上げる場合、各企業の判断で加入する。
③基金ではなく金融機関等が立ち上げている総合型企業年金に加入する。
④中退共(中小企業退職金共済)に加入する(規模要件に該当した場合)。
⑤代替的な企業年金制度は実施しない(なお、解散に伴い残余財産を従業員に分配できる可能性がある)。
従業員にとって⑤は不利益な選択肢であることから、①から④が望まれる。しかし、①は収益の不安定な小規模企業にとって継続性が求められる企業年金を単独で実施するのは、負担が大きい。②③④はスケールメリットが期待できる分①より負担が少ないものの、やはり継続的な掛金負担を伴うため小規模企業としては選択しにくい。現行の総合型厚生年金基金の掛金を負担できているのだから引き続き代替制度の掛金を負担するのも不可能ではないが、負担の大きさを考えると、ためらってしまう。
3 移行できない企業が多数
総合型厚生年金基金には約10万社、400万名が加入しているが、①から④の選択肢を選べる企業がどの程度あるだろうか?
実は従業員の年金受給権が脅かされるのは今回が2度目であり、税制適格退職年金の廃止が決定した2002年4月が一度目である。当時、政府としては適格退職年金から確定拠出年金または確定給付企業年金、中退共へ移行できるよう法制を整備した。廃止前においては、社数で約7万社、対象従業員数で約900万名が適格退職年金に加入していたが、何らかの退職給付制度に移行できたのは、7万社のうち4.8万社、全体の2/3にとどまった。残りの1/3は適格退職年金を廃止したが、後継制度には移行していない。従業員にとっては、企業年金がなくなってしまう不利益な状況となった。
総合型厚生年金基金に加入する企業の従業員規模は、適格退職年金実施企業に比べて、平均して小さいため、他の年金への移行は一層困難と想定される(適格退職年金は128名/社、総合基金は40名/社)。
4 福利厚生という選択
上記①から④を選択できない企業の従業員の不利益をできる限り回避し会社にとってもメリットのある選択肢として、福利厚生の充実がある。解散に伴い拠出が不要となる掛金(加算掛金、事務費掛金、特別掛金等)相当の原資を、解散後は福利厚生の充実に振り替える。不要となる掛金額は、標準報酬額や基金の財政状況によっても異なるが、少なくとも6,000円~10,000円/名・月は見込まれる。
一般に、企業において福利厚生費に充当される額は、退職給付費の4割程度である。掛金相当額の一部を振り替えるだけでも、十分、従業員が満足する福利厚生を提供できる。とくに、スケールメリットを生かした福利厚生アウトソーシング(福利厚生パッケージ)を採用すれば、1,000円/名・月以下であらゆる分野の福利厚生を充実できる。また選択制福利厚生であるカフェテリアプランさえも原資的には導入可能である。
基本給の引き上げ原資に振り替える選択肢もあるが、社会保険料や残業代、退職金額等、他の人件費へ波及するだけでなく、将来的な引き下げも困難である。
厚生年金基金が解散した後は別の企業年金で代替するのが望ましいのはいうまでもないが、適格退職年金の先例が示すように、現実的には困難な企業も多い。また人事的な効果として、企業年金は採用した従業員の長期勤続を促す効果があるといわれているが、福利厚生は入社希望者に対しても訴求しやすいため、人材確保が困難な現在において効果が期待できる。従業員の不利益感の軽減、従業員満足度の向上も期待できることから、福利厚生の充実は現実性の高い選択肢であり、それを検討している企業もみられる。
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