【対談】三菱UFJアセットマネジメント 代田常務(4)
「eMAXIS Slim(イーマクシス・スリム)シリーズ」生みの親・代田秀雄さんへの取材の全貌を全5回にわたって紹介します。第3回では代田さんが「eMAXIS Slimシリーズ」の旗を掲げ、リーダシップを発揮する際のポイントについてお話いただいきましたが、第4回では投資をする上では欠かせない、リスク対応の考え方と、代田さんの今までのご経験・キャリアや世界の見方などについて迫ります!
【略歴】
代田秀雄(しろたひでお)さん
三菱UFJアセットマネジメント 常務取締役 マーケティング部門長
1985年三菱信託銀行入社。1996年以降年金資金や投資信託の運用業務に従事。
全国信託銀行従業員組合連合会書記長、三菱UFJ投信商品企画部長、三菱UFJ信託投資企画部長(三菱UFJトラスト投資工学研究所取締役、エムユー投資顧問取締役いずれも兼務)、三菱UFJフィナンシャルグループ受託業務企画部部長等を経て、2015年から三菱UFJ国際投信取締役。2018 年に同社常務執行役員 商品マーケティング部門副部門長 企画ライン長、2019年から常務取締役 商品マーケティング部門長、2023年にエムユー投資顧問と合併し三菱UFJアセットマネジメントに。2024年から現職。公募株式投信(除くETF)(=個人向け投資信託)の業界順位を4位から首位に、私募投信(=法人向け投資信託)の業界順位を8位から首位に引き上げる。2017年に設定したeMAXIS Slimシリーズは2024年6月に11兆円を突破。
※全5回シリーズです。
第1回 新規サービス「eMAXIS Slim」立ち上げ背景
第2回 マーケティング戦略はファンとともに
第3回 代田流リーダーシップ~両利きの経営を成功させるために大切なこと~
第4回 リベラルアーツの実践〜視野を広げ、独自の視点を持つための工夫〜←今回はここです。
第5回 対談を終えて(グローバル人材戦略研究所の視点)
【第4回】リベラルアーツの実践〜視野を広げ、独自の視点を持つための工夫〜
ブラック・スワンの飼い慣らし方(1)~長期・分散思考〜
小平:ここまで、「eMAXIS Slimシリーズ」生みの親・代田さんにその立ち上げ背景、マーケティング戦略、そして社内におけるリーダーシップ発揮について伺ってきました。投資にはリスクはつきものだと思うのですが今回はこの点を率直にお伺いしたいです。タレブ(元ヘッジファンド経営者で現在は作家、思想家、リスク・不確実性の研究者)は、ありえない事象のことをブラック・スワンとし、未来は過去の延長線上にはないということを指摘しました。この数年を見ても世界的なパンデミックやロシアのウクライナ侵攻、国内では多発する地震や歴史的な円安などがあります。他方、ここからが大事でぜひ代田さんのお考えを聞かせていただきたいのですが『ありえない事象としてのブラック・スワンは、本当にありえないのか』ということです。視野を広くし、多様な視点でものを見ればブラック・スワンはある程度飼い慣らせるのではないか、ブラック・スワンだからしょうが無い、と簡単に諦めるのではなく、できることがいろいろあるのではないか、というのが私の考えです。代田さんにお伺いしたいのは、オルカンこと「eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)」の長期・国際分散投資には、ブラック・スワンを飼い慣らすような、リスク対応の思想があるのではないかと思うのですがいかがでしょうか。
代田さん:私なりのブラックスワンの解釈から言えば、短期的ではなく、長期的な成長を信じることができればブラック・スワンは飼い慣らすことができると考えます。以前からモダンポートフォリオ理論に基づく分散投資効果、リスク管理などは事象の発生確率などが正規分布であることをベースとして語られていました。しかし2001年9月11日に起きたアメリカ同時多発テロ事件や2008〜2009年のリーマン・ショックの際に世界の株式市場は約半分に下落しました。このようなファットテイル部分、外れ値が起こる可能性は十分にあり得るのです。経済が長期的に成長するからこそ株価は上がります。経済が成長すると信じるのならば、一時的に株価が半分になっても20年、30年と投資を続ければ、経済成長と同様かそれ以上に株価も上昇すると信じて我慢できるかが鍵です。下落した時に我慢できずに売却してしまえば何も残りませんが、投資を続けた先には成功があるかもしれません。リスクを取らなければ高いリターンは得られません。長期の成長を信じて投資家の皆さんと同じ船に乗り、株価の下落局面でも支えあっていきたいと思いますし、それこそが私たちがやるべき使命であると考えています。
ブラック・スワンの飼い慣らし方(2)~視野を広げるために・代田流リベラルアーツ〜
小平:なるほど。ありがとうございます。グローバル人材戦略研究所が行っている次世代リーダー育成の選抜型研修『グローバルゼミ』ではまさに今お話いただいたような、独自の視点・論点設定のために受講者同士が切磋琢磨していますが、代田さん独自の視点・論点のためには前提として広い視野が必要となると思います。リベラルアーツとは文字通り「解放するための技術」であり、何から解放するかというと、自分自身のものの見方からの解放だと思いますが、代田さんが視野を広げる、もっというと自分が既に持っているものの見方・認知フレーム・バイアスから解放され、多様な視点・論点を検討するために日常的に意識していることはどのようなことでしょうか。
代田さん:組織の中でポストが上がるほど複雑な方程式を描かなくてはならないので、視座、視野、視点は重要です。会社の中では社員と同じ数だけの視座、視野、視点があります。視座、視野、視点には多様性があっていいと思います。全員が一本化するのがいいわけでもなく、それぞれの見方を尊重しながら、組織としては企業の業務執行方針として統合したものを示していかなくてはなりません。社員その人なりの視座、視野、視点をどれだけ拾えるかということを考えたとき、やはり会社の中を歩き回って対話をすることが大切だと思います。一人ひとりの背景・人生は当然ながら異なりますので、このような対話をすることによってはじめて、より多くの人にとってのやりがいや幸福感を生み出すことができるのではないでしょうか。また社内だけでなく投資家やメディア、評論家の方々、そしてグローバル人材戦略研究所の公開講座のような社外の場で出会う方々など、守りに入らずにどれだけいろいろな人の考えを聞くかを常に意識しています。
小平:ダイバーシティには性別や国籍など属性が異なる「属性の多様性」と、たとえ同じものを見たとしても、それぞれの立場・視座によってとらえ方が異なる「認知的多様性」があります。変化を創造し、持続的に成長していくためにはまさに認知的多様性が大切になってくるのですが、代田さんのおっしゃる会社の中を歩き回って対話する、というのはまさに認知的多様性の向上につながりますね。先ほど、リベラルアーツとは自分自身のものの見方からの解放だとお伝えしましたが、今回、代田さんが視野を広げ、多様な視点・論点を検討するために日常的に意識していることを教えていただきありがとうございます。また、代田さんは日本スキー連盟公認 スキー指導員もされるほどの腕前で、昨年末はニュージーランドのミルフォード・トラックでトレッキングをされたとのことですが、社内にとどまらず、国内外を文字通り歩きまわり、いろいろな人と対話を重ねることが視野拡大につながる、いわば代田流リベラルアーツ論だとお見受けしました。
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次世代リーダー育成をはじめ世界で通用する人づくり、組織づくりをテーマに活動。グローバル経営、外国籍社員の活用/ダイバーシティマネジメント等。
「企業と人材」「賃金事情」「人事実務」「労政時報」「人事マネジメント」「グローバル経営」寄稿、「外国人社員の証言 日本の会社40の弱点」(文藝春秋)。政府会議有識者、大学講師、防災士、富士スピードウェイ走行ライセンス所持、グリーフケア勉強中
小平達也(コダイラタツヤ) 株式会社グローバル人材戦略研究所
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