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【後編】問いが変われば景色が変わる | 原理原則で読み解く

ここで、とても大切なことがあります。
それは、この状態に陥るのは、能力が足りないからではない、ということです。

むしろ、経験が増え、判断が速くなった人ほど、この罠に入りやすい。
なぜなら、過去の成功体験が、「きっと今回も同じだろう」という安心感を生むからです。

これは、人間として、とても自然な反応です。
脳は、確実な道を選びたがります。
未知の領域より、知っている領域を好みます。
だからこそ、「知らない可能性」や「見えていない条件」を、無意識のうちに外してしまう。

その結果、本当は重要だったはずの現象や原因が、議論の外に置かれてしまいます。
ここまで読んで、少し胸が痛くなった方もいるかもしれません。

「うちの会議、そのままだ」

そう感じたとしても、自分や職場を責める必要はありません。
これは、どの組織でも起きうる、ごく普通の現象です。
では、どうすればいいのでしょうか。

答えは、意外なほどシンプルです。
結論を急がないこと。
そして、分からない状態を、少しだけ許すこと。

原理原則の視点に立つと、すぐに答えが出ない時間が、自然に生まれます。

「まだ、仕組みを見切れていないかもしれない」
「条件を、全部拾えていないかもしれない」
この「かもしれない」を、場の中に残す。

それだけで、思考は、少しずつ動き出します。
ここで役に立つのが、手を動かすことです。
頭の中だけで考え続けると、思考は同じところを回りがちです。

一方で、現場を歩く、清掃をする、物に触れる。
そうした行為は、思考の位置を、自然と「具体」に戻してくれます。

 次のステップでは、この「手を動かすこと」が、なぜ思考の筋トレになるのか。
そして、どうやって原理原則で考える力を日常の中で育てていけるのかを、新5S思考術の「清掃」を軸に、お話ししていきたいと思います。

今は、前に進めていないと感じていても、大丈夫です。
それは、止まっているのではなく、立ち位置を探している途中なのですから。 

「問いが変わると、景色が変わる」原理原則に近づく、問いの立て方

会議の途中で、ふと空気が重くなる瞬間があります。
誰かが、こう言ったときです。「で、結局、誰が悪かったんでしょうか」

その言葉が出た瞬間、それまで活発だった議論が、すっと静かになる。
誰も反論はしないけれど、誰も前に出てこない。
そんな場面を、あなたも一度は見たことがあるのではないでしょうか。

この時、人は何も考えていないわけではありません。
むしろ、頭の中では一斉に、同じことが起きています。

ここで何を言えばいいんだろう
余計なことを言うと面倒になりそうだ
早くこの話が終わってほしい

問い一つで、人の思考は、驚くほど簡単に止まってしまいます。

ここで大切なのは、「誰が悪いのか」という問いを立てた人を責めないことです。
その問い自体、多くの職場で、長い間使われてきたものだからです。

ただ、原理原則の視点で見ると、この問いは、少しだけ立ち位置がずれています。
問いが、人に向いているのです。

人に向いた問いは、分かりやすい反面、視野を一気に狭めます。
カメラで言えば、被写体にぐっと寄りすぎて、背景がすべて切り落とされてしまう状態です。
すると、仕組みも、条件も、環境も見えなくなる。
結果として、「いつもの答え」にたどり着くことになります。

ここで、少しだけ問いの立ち位置をずらしてみましょう。
たとえば、こんな問いです。
「本来、この仕事は、どういう流れで進む設計だったんだろう」
「この作業が、うまくいく前提条件は、何だっただろう」

この問いは、人ではなく、仕組みと条件に向いています。
不思議なことに、この問いが出ると、場の空気が少し変わります。

誰かを守ろうとする緊張が、ふっと緩む。
正解を当てに行く空気が、少し薄れる。

人は、責められそうだと感じた瞬間、思考より先に、防御に入ります。
逆に、仕組みや条件の話になると、安心して話し始める。

これは、心理学やコーチングの分野でもよく知られている現象です。
人は、評価されていると感じると、思考が狭くなる。
安全だと感じると、思考が広がる。
つまり、問いの向きは、思考の広さを決めるのです。

ここで、もう一つ、よくある問いの落とし穴があります。
それは、問いが曖昧なまま進んでしまうことです。
「なぜ、うまくいかなかったのか」
「なぜ、ミスが起きたのか」

これらは、一見、とても正しい問いです。
でも、この問いのまま議論を始めると、話は拡散しがちになります。

人の話。環境の話。過去の事例。個人の印象。

気づけば、どれも正しそうで、どれも決め手に欠ける。
結果として、「いろいろ要因はあるけど、引き続き注意していきましょう」という結論に落ち着く。

このとき、考えた感覚はあります。
でも、前に進んだ実感は、あまり残りません。

原理原則で考えるというのは、問いを増やすことではありません。
むしろ、問いの流れを整えることです。

順番は、とてもシンプルです。
まず、「本来、どういう仕組みだったのか。」
次に、「その仕組みが成立するための条件は何か。」
その上で、「どこで、その条件が崩れたのか。」

この流れに沿って問いを立てると、思考は、自然と深さを持ち始めます。
ここで大切なのは、結果から原因を探さないことです。

「ミスが起きた」という結果から、直接原因を探そうとすると、どうしても視野が狭くなります。
一方で、原理から問いを立てると、「ミス」という言葉に縛られず、その前段階に目を向けることができます。
すると、これまで気づかなかった現象が、少しずつ見えてきます。

例えば
作業自体は正しくても、情報が届くタイミングが遅れていた
配置は変わっていなくても、周囲の環境が変わっていた

こうしたことは、結果だけを見ていても、なかなか浮かび上がってきません。
原理原則に立ち戻ることで、問いが、「犯人探し」から「構造の理解」へと静かに移動していきます。

そして、この変化は、人の表情にも表れます。
話す声が、少し柔らかくなる。
「それ、言っていいんですか?」という戸惑いが減る。

その瞬間、場は、もう一度考える場に戻ります。
ここまで読んで、「でも、忙しい現場では難しい」そう感じた方もいるかもしれません。
その感覚も、とても自然です。

だからこそ、問いを変える時は、完璧を目指さなくていいのです。
たった一つ、問いの向きを人から仕組みにずらす。
たった一度、「本来どうだったか」を確認する。
それだけで、景色は少し変わります。

そして、この問いの感覚を、どうやって日常の中で鍛えていくのか。
5S思考術の「清掃」が、なぜ思考の筋トレになるのかを、具体的な体験とともにお話ししていきたいと思います。

問いは、才能ではありません。
環境と、日々の習慣で、少しずつ育っていくものです。 

 

「清掃は、思考の筋トレだった」問い続ける力は、日常の中で育てられる

「なぜなぜ分析をやっているんですけど、どうもうまくいかないんです」
これは、私が研修やセミナーの場で、本当によく聞く言葉です。

形式は整っている

手順も知っている

ホワイトボードに「なぜ?」を並べることもできる

それなのに、途中で話が浅くなったり、結局いつもの原因に戻ってしまったり、人の話になって終わってしまう。

もし、あなたがそんな経験をしたことがあるなら、それは決して珍しいことではありません。そして、その原因は、「なぜなぜ分析のやり方が悪い」からではありません。
もう少しだけ、手前のところに理由があります。

それは、問い続けるための筋力が、まだ育っていないということです。
ここで言う筋力とは、知識量のことではありません。
頭の回転の速さでもありません。
前にも触れてきた、原理原則で物事を見る力、問いの向きを整える力、そして分からない状態に耐える力。

これらは、一度学んだから身につくものではなく、日常の中で、少しずつ鍛えられるものです。私は、その「筋トレ」にとても向いている行為があると考えています。

それが、5S思考術における「清掃」です。

清掃というと、多くの職場では、こんなイメージを持たれています。
決められた時間にやる作業
とりあえずきれいにすること
忙しいと後回しになりがち

もし、あなたの職場でも清掃が少し形骸化していると感じていたら、それも自然なことです。
私自身、かつては清掃を「やらなければいけないこと」としてしか見ていませんでした。

でも、ある時、見方が変わった瞬間があります。
清掃を、「汚れを取る作業」ではなく、現場を観察する時間として捉え直したときです。

床の汚れ
工具の置き方
配線のたるみ
微妙なズレ

一つひとつは、些細なことに見えます。
でも、よく見ていると、こんな問いが自然に浮かんできます。

なぜ、ここだけ汚れやすいんだろう
なぜ、この道具はここに戻されていないんだろう
なぜ、この作業だけ、いつも時間がかかるんだろう

ここで重要なのは、「答えを出そう」としないことです。

ただ、気づいたことを、そのまま受け取る。
この繰り返しが、検出力、観察力、洞察力を静かに鍛えていきます。
筋トレと同じです。一回やったから、急に筋肉がつくわけではありません。でも、続けていると、ある日ふと、「あれ、前より見えているな」と感じる瞬間が訪れます。

原理原則思考も、まったく同じです。
清掃を通じて、「仕組み」と「条件」に目が向くようになると、なぜなぜ分析の質も、自然と変わっていきます。

なぜなぜ分析がうまくいかない理由の多くは、

結果ありきで問いを立てている、問いの深さがずっと同じ、見えていない前提に気づけていない

このいずれか、あるいは組み合わせです。

清掃で鍛えられた視点があると、「なぜ?」を重ねるときに、立ち位置が少し変わります。

人を見に行くのではなく、仕組みを見に行く。
出来事を見るのではなく、条件を見る。

すると、これまで出てこなかった問いが、自然に立ち上がってきます。
私は、無料Webセミナーで「なぜなぜ分析が上手くいかない理由はこれだ!」というテーマを担当しています。

このセミナーでは、なぜなぜ分析のテクニックを増やすことは、ほとんどしません。

代わりに、

  • なぜ問いが浅くなるのか
  • どこで原理原則から外れてしまうのか
  • なぜ同じ原因に戻ってしまうのか

そうしたつまずきの正体を、一つずつ、丁寧に見ていきます。

参加された方から、よくこんな声をいただきます。

「やり方の問題だと思っていました」
「自分の考え方の立ち位置が、ずれていたんですね」
「だから、今まで気づけなかったんだと腑に落ちました」

もし、あなたが今

  • なぜなぜ分析にモヤモヤしている
  • 考えているのに前に進まない感覚がある
  • 原理原則で考えたいと思っている

そんな状態にあるなら、この無料Webセミナーは、答えをもらう場ではなく、問いの立て直しをする場として、役に立つかもしれません。

もちろん、参加しなければならないわけではありません。
このコラムを読み、清掃の時間に、一つでも「あれ?」と感じることがあれば、それだけでも十分です。

原理原則で考える力は、特別な人のものではありません。
日常の中で、静かに、確実に、育てていけるものです。
間違えてもいい。立ち止まってもいい。問いが浮かばない日があってもいい。

それでも現場に立ち、手を動かし、考え続けていれば、人はまた見えていなかったものに気づき始めます。

清掃は、そのためのいちばん身近な入口なのだと、私は思っています。

このコラムを書いたプロフェッショナル

坂田 和則

坂田 和則
マネジメントコンサルティング2部 部長 改善ファシリテーター・マスタートレーナー

問題/課題解決を現場目線から見つめ、クライアントが気付いている原因はもちろん、その背景にある奥深い原因やメンタルモデルも意識させ、問題/課題改善モチベーションを高めます。
その先の未来には、改善レジリエンスの高い人材が活躍します。

問題/課題解決を現場目線から見つめ、クライアントが気付いている原因はもちろん、その背景にある奥深い原因やメンタルモデルも意識させ、問題/課題改善モチベーションを高めます。
その先の未来には、改善レジリエンスの高い人材が活躍します。

得意分野 モチベーション・組織活性化、リーダーシップ、コーチング・ファシリテーション、コミュニケーション、ロジカルシンキング・課題解決
対応エリア 全国
所在地 港区

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