科学が示す成長の分岐点 |現場の風景は、なぜ変わらないのか
新年、あけましておめでとうございます。
2026年が、皆さまにとって実りある一年となることを、心より願っております。
年のはじめは、少し不思議な時間です。
忙しい日常から一歩距離を置き、「この組織は、今どこに向かっているのだろうか」
そんな問いが、ふと頭をよぎる方も多いのではないでしょうか。
昨年も私は、さまざまな企業の現場に足を運び、経営者、管理職、そして現場のリーダーの方々と、数多くの対話を重ねてきました。
そこで、毎年のように感じることがあります。
それは、
変わっていく組織と、ほとんど変わらない組織が、驚くほどはっきり分かれている
という事実です。
設備投資の差ではありません。
人材の優劣でもありません。
ましてや、経営者の想いの強さだけで決まる話でもない。
それにもかかわらず、ある会社では、現場の会話が少しずつ変わり、行動が変わり、判断基準が変わっていく。
一方で、別の会社では、数年前と同じような課題が、形を変えながら、何度も繰り返されている。
この分かれ道は、どこにあるのでしょうか。
人が育つ組織と、育たなくなった組織の分かれ道
~現場の風景は、なぜ変わらないのか~
多くの経営者や管理職の方は、「人を育てたい」と本気で考えています。
だからこそ、教育制度を整えます。
必要な知識やスキルを整理し、個人との差を評価し、教育訓練計画を立て、承認し、プログラムを作り、実施し、評価し、記録を残す。
ここまで読んで、「うちも、まさにこの流れだ」と感じた方も多いはずです。
そして、その流れ自体は、決して間違っていません。
管理の観点では、むしろ“優等生”です。
ところが、現場をよく見てみると、こんな声が聞こえてくることがあります。
「研修は受けたけれど、正直、現場はあまり変わっていない」
「報告書は増えたが、判断の質は変わった気がしない」
「また同じような問題が起きている」
教育は実施されている。
記録も残っている。
でも、行動の変化が定着しない。
このとき、現場では何が起きているのでしょうか。
私は、この状態を
「教育が、人から少しずつ離れていくプロセス」
だと感じています。
例えば、こんな場面です。
教育計画は、年度初めに丁寧に作られます。
しかしその後、現場では想定外のことが次々に起こる。
トラブル対応に追われ、人の配置が変わり、リーダーの役割も変わっていく。
本来なら、
「今、この人は何につまずいているのか」
「どこで判断を迷っているのか」
に目を向けたい。
けれど実際には、
「計画どおり進んでいるか」
「評価は予定通りか」
という確認が、いつの間にか中心になる。
これは、誰かが悪いわけではありません。
不確実な環境の中で、人は無意識に管理できるもの、説明しやすいものへと意識を寄せていきます。
その結果、人を育てるためにつくったはずの仕組みが、いつの間にか仕組みを守ること自体が目的になってしまう。
例えるなら、畑でトマトを育てるはずが、土やトマトを見るよりも、農業日誌の記入に時間を使ってしまうような状態です。
日誌は完璧です。
チェックも問題ありません。
けれど、畑の景色は、ほとんど変わらない。
一方で、人が育っている組織には、まったく違う空気があります。
そこでは、教育が「イベント」ではなく、日々の関わりの延長線にあります。
経営者や管理職が、教育の場に顔を出し、メンバーに声をかけ、一緒に考え、時には笑う。
そして、後からこんな言葉が自然に出てくる。
「〇〇さん、最近、判断が慎重になりすぎている気がする」
「〇〇君、もう一段、現場の視点で考られそうだ」
これらは評価ではなく、観察から生まれた実感です。
人とリアルタイムで触れているからこそ、こうした言葉が出てくる。
この違いが、数年後の現場の風景を、大きく分けていきます。
では、なぜ人は、計画どおり、一直線には成長しないのでしょうか。
なぜ、「伸びていたはずの人」が、ある時期、足踏みするのでしょうか。
そして、そのときに支援を失うと、なぜ心が折れてしまうのでしょうか。
ここからは、人の成長が「波打つ理由」を、成人発達理論や心理学の視点から、現場の実例とともに紐解いていきます。
ここを理解すると、教育の見え方は、大きく変わるはずです。
人の成長は、なぜ一直線では進まないのか
~科学が示す「成長の波」と、折れてしまう瞬間~
ここまでは、教育制度が整っていても、現場の行動や風景がなかなか変わらない理由を、現場の視点から見てきました。
ここからは一歩踏み込み、「人は、そもそもどのように成長するのか」という問いを、科学の視点から考えてみたいと思います。
人の成長は「直線」ではなく「波」である
多くの教育制度や育成計画は、暗黙のうちに、こんな前提を置いています。
学べば、できるようになる
経験を積めば、安定して成長する
しかし、実際の人の成長は、このような一直線のモデルでは説明できません。
成人発達理論(ロバート・キーガンなど)が示しているのは、人の成長は、段階的かつ非連続的に進むという事実です。
つまり、
• ある段階では、順調に伸びているように見える
• しかし次の段階に移る直前、必ず「揺らぎ」や「不安定さ」が現れる
この揺らぎこそが、次の成長への入口です。
現場でよく見る、こんな状態はありませんか。
• 判断が遅くなった
• 以前より自信がなさそうに見える
• 迷いが増え、言葉が少なくなる
これらは、「能力が下がったサイン」ではありません。
これまでの考え方が通用しなくなり、新しい視点を探している状態なのです。
心が折れるのは「弱さ」ではない
私はこれまで、成長の波が下がったときに支援を受けられず、心が折れてしまった人を、何人も見てきました。
その多くは、真面目で、責任感が強く、これまで期待に応え続けてきた人たちです。
では、なぜ折れてしまうのか。
心理学の視点で見ると、ここには二つの要因があります。
一つは、自己効力感の低下。
もう一つは、意味づけの喪失です。
「頑張れば前に進める」
そう信じてきた人ほど、うまくいかない時期に、自分を強く責めてしまう。
そして周囲からの関わりが、評価結果・数値だけになると、「自分は何を学んでいるのか」「この迷いには意味があるのか」が見えなくなってしまいます。
この瞬間、人は静かに心を閉じます。
組織が「揺らぎ」を扱えない理由
ここで重要なのは、組織が悪いわけではないという点です。
組織は本質的に、再現性、安定性、説明可能性を求める存在です。
一方、人の成長の「揺らぎ」は、
• 予測できない
• 数値化しにくい
• 説明しづらい
このミスマッチが、教育の現場で必ず起こります。
結果として、組織は無意識に、
• 揺らぎを「問題」として扱う
• 予定されたプロセスに戻そうとする
こうした反応を取ります。
その瞬間、最も支援が必要なタイミングで、支援が消えるという皮肉な現象が起きるのです。
「全員に寄り添う」が難しいのは当然である
経営者や管理職の方と話していると、こんな言葉をよく聞きます。
「本当は、一人ひとりに寄り添いたい」
「でも、現実的には難しい」
これは、言い訳ではありません。
構造的な問題です。
成人発達理論、組織学習論、コーチング心理学、行動科学、組織開発、ファシリテーション、NLP(神経言語プログラミング)。
これらを理解し、現場で使いこなすには、相応の知識と経験が必要です。
さらに言えば、人の揺らぎに耐え続ける力も求められます。
通常業務を回しながら、これらすべてを内部だけで担うのは、かなり難易度が高い。
だから私は、
「外の視点を入れる」という選択は、逃げでも依存でもなく、極めて合理的な経営判断だと考えています。
揺らぎを「成長の途中」と捉えられるか
人が育つ組織は、成長の波が下がったときに、こう問いかけます。
「今、何が起きているのだろうか」
「この迷いは、どんな変化の前触れなのか」
一方、育たなくなる組織では、こう考えがちです。
「計画から外れている」
「想定より遅れている」
この捉え方の違いが、数年後の人材の厚みを決定的に分けます。
それでは、ここまでの話を踏まえたうえで、「では、どうすれば学び続ける人が育つのか」にお話をすすめていきましょう。
キーワードは、「学ぶ楽しさ、そして生成AI」です。
人の思考を広げ、学びを義務から解放するために、私たちは何を設計すればよいのか。
2026年という時代における、具体的なヒントをお伝えします。
学ぶ楽しさが、組織を強くする
~生成AI時代、差がつく組織の共通点~
ここまで、教育制度があっても人が育たなくなる理由、そして人の成長が「波」を描きながら進むことを見てきました。
では最後に、それでも人が学び続け、組織が進化し続けるためには、何が必要なのか?
この問いに向き合ってみたいと思います。
私が現場で確信しているキーワードは、とてもシンプルです。
「学ぶ楽しさ」
これに尽きます。
学びは、本来「楽しいもの」だったはず
少し思い出してみてください。
初めてできるようになったこと。
知らなかった視点に気づいた瞬間。
「なるほど、そういうことか」と腑に落ちた経験。
そのとき私たちは、
「学んでおけばよかった」
「学ばなければならない」
とは思っていなかったはずです。
むしろ、
• もっと知りたい
• もう一度試してみたい
• 別のやり方も考えてみたい
そんな気持ちが、自然と湧いていた。
ところが大人になるにつれ、学びは少しずつ義務や評価の対象へと姿を変えていきます。
いつの間にか、
「学ぶ=指摘されること」
「学ぶ=足りないことを示されること」
になってしまう。
これでは、人の心が前に進まなくなるのも無理はありません。
科学が示す「学びが続く条件」
心理学や行動科学の分野では、学びが持続する条件は、かなり明確になっています。
それは、
• 外から与えられる報酬や評価ではなく
• 内側から湧き上がる動機があるかどうか
いわゆる内発的動機づけです。
自分で選択して、心を震わせるモチベーションのことですね。
人は、
• 意味を感じられるとき
• 自分で考えていると感じられるとき
• 少しずつ前に進んでいる実感があるとき
驚くほど、自律的に学び続けます。
だから私は、「何を教えるか」以上に、「どう関わるか」を大切にしています。
問いかけ方。
フィードバックの仕方。
迷っているときの寄り添い方。
ここが変わると、同じ教育内容でも、結果はまったく違ってきます。
生成AIは、学びを取り戻すための強力な道具です
そして今、生成AIという、非常に可能性の高いツールが登場しました。
VUCAと呼ばれる、先の見えない時代において、自分ひとりの視点だけで考えることは、正直、とても負荷が高い。
もう、先に進めないのでは?という不安ばかりになります。
そんなとき、生成AIは、
• 自分が見落としていた視点を示し
• 別の切り口を提示し
• 思考を止めずに広げてくれる
まるで、思考の壁打ち相手のような存在です。
私は初めて本格的に生成AIを使ったとき、正直、感動しました。
「こんな視点もあるのか」
「そこは考えていなかった」
これは、答えをもらう快感ではありません。
考えること自体が楽しくなる感覚です。
まるで、マインドマップの枝が、どんどん広がりを見せるような感覚を抱く瞬間です。
ただし、生成AIは「魔法」ではありません
ここで、とても大切なことがあります。
生成AIは、自動的に成果が出る道具ではありません。
効果を分けるのは、
• どんな問いを投げるのか
• 返ってきた答えを、どう解釈するのか
つまり、人の問いの質と思考の姿勢です。
これは、教育とまったく同じ構造です。
問いが浅ければ、返ってくる答えも浅い。
問いが広がれば、思考も自然と広がっていく。
だからこそ私は、生成AIを「効率化ツール」としてではなく、
人の思考力と学習力を拡張するパートナー
として使うことが重要だと考えています。
差がつく組織は「人×学び×AI」を分けて考えない
2026年、組織の差は、ますます見えにくいところで広がっていきます。
設備や制度の差ではありません。
表面的なDXでもありません。
差がつくのは、
• 人が学び続けているか
• 問いを持ち続けているか
• 思考を止めない設計があるか
この三点です。
人の成長を直線で管理しようとする組織は、変化のスピードについていけなくなる。
一方で、
• 成長の波を前提とし
• 学ぶ楽しさを守り
• 生成AIを思考の補助輪として使える組織
は、しなやかに進化していきます。
私が2026年も大切にしたいこと
私のポリシーは、これからも変わりません。
学ぶことを、義務にしない。
学ぶことを、楽しい体験にする。
そして、もっと学びたいと思える心を育てる。
人は、心が動いた分しか成長できません。
そして、一人で抱えきれないときは、外の視点を使えばいい。
2026年も私は、生成AIを戦略的に活用しながら、人と組織が「考え続けられる状態」をつくる支援を、全力で続けていきます。
このコラムが、皆さまにとって立ち止まり、問いを持ち、もう一歩前に進むきっかけになれば幸いです。
今年も、ここで皆さまと対話できることを、心から楽しみにしています。
気軽に声をかけてくださいね!
今年もよろしくお願いいたします。
このコラムを書いたプロフェッショナル
坂田 和則
マネジメントコンサルティング2部 部長 改善ファシリテーター・マスタートレーナー
問題/課題解決を現場目線から見つめ、クライアントが気付いている原因はもちろん、その背景にある奥深い原因やメンタルモデルも意識させ、問題/課題改善モチベーションを高めます。
その先の未来には、改善レジリエンスの高い人材が活躍します。
坂田 和則
マネジメントコンサルティング2部 部長 改善ファシリテーター・マスタートレーナー
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その先の未来には、改善レジリエンスの高い人材が活躍します。
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| 得意分野 | モチベーション・組織活性化、リーダーシップ、コーチング・ファシリテーション、コミュニケーション、ロジカルシンキング・課題解決 |
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| 対応エリア | 全国 |
| 所在地 | 港区 |
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