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【後編】人材育成は「設計」ではなく「考え続けるプロセス」

人材育成は「設計」ではなく、「一緒に考え続けるプロセス」だった
~教育担当者とともに、試行錯誤を重ねた理由~

 ここまで読み進めてくださった方の中には、こう感じている方もいるかもしれません。 「理想的なのは分かる。でも、それをどうやって実現したのかが知りたい」もっともな疑問です。

  • 失敗を許す
  • 立ち直る時間を与える
  • チームで問題解決を行う

 どれも言葉にすれば簡単ですが、現実の人材育成の現場は、そんなに整然とは進みません。実際、この企業の人材育成も、最初から完成された設計図があったわけではありませんでした。この人材育成は、講師が一方的にプログラムを決め、教育担当者がそれを運用する、そんな形では進んでいません。

教育担当をされている皆さん自身が、一つのチームとして関わり、私と一緒に、悩み、考え、試行錯誤を重ねてきました。

  • 「この内容で、本当に伝わるだろうか」
  • 「今の受講生の状態に合っているだろうか」
  • 「少し難しすぎないか。逆に、易しすぎないか」

こうした問いが、毎回の研修の前後で、何度も交わされていました。人材育成を「決められた教育体系を回す仕事」にしなかった。ここが、最初の大きな違いだったと思います。

象徴的な出来事があります。
ある日の研修中、予定していたワークが、どうしても受講生に響かないと感じた瞬間がありました。参加者の表情が硬い。言葉が出てこない。議論が、表面的なやり取りで止まってしまう。その場の空気を見て、私は直感的に、「このまま続けても、今日は届かない」と感じました。

そこで、その場で研修内容を変更する判断をしました。

用意していた資料を一度脇に置き、別の切り口から、問いを投げ直したのです。
これは、事前に決めていたシナリオを壊す行為でもあります。
決して、簡単な判断ではありません。なぜ、そこまでして内容を変えたのか。

 理由は一つです。
このまま進めても、受講生の心には届かないと判断したからです。
人材育成において、「予定通り進めること」よりも大切なものがあります。
それは、今、目の前にいる人が、何を感じ、何につまずいているかを感じ取ることです。
教育担当の皆さんも、その判断を一緒に受け止めてくれました。

 「今日は、この変更でいきましょう」「今の反応を見ると?その方がいいですね!」
そのやり取り自体が、すでに「人材育成をどう扱うか」という対話だったのだと思います。そして研修を受けるメンバーへ、そっと寄り添う。

 このような進め方は、効率的とは言えません。
毎回、細かく調整が必要ですし、振り返りにも時間がかかります。
しかし、この企業は、その「非効率」を選びました。なぜなら、人は、用意された正解よりも、自分の中で生まれた気づきによって動くということを、教育担当の皆さん自身が、現場で感じていたからです。

 この姿勢は、修了式の光景にも、はっきり表れています。

  • チームで語れたこと。
  • 失敗を隠さず話せたこと。
  • 仲間の存在が、自然に言葉として出てきたこと。

それらは、偶然起きた出来事ではありません。
研修そのものが、常に「対話しながら変わる場」だったからこそ生まれたものです。

 

ここで、人材育成における大きな誤解について触れておきたいと思います。多くの組織では、「再現性」を求めるあまり、人材育成を固定化しようとします。

  • 同じ資料
  • 同じ進行
  • 同じ時間配分

もちろん、基盤は必要です。しかし、人が違えば、響くポイントも、つまずくポイントも違います。この企業が大切にしていたのは、再現性よりも、納得性でした。

  • 「この瞬間に、何を扱うべきか」
  • 「今、この問いを投げる意味は何か」

その判断を、教育担当者と講師が一緒に考え続けていたのです。人材育成とは、完成されたプログラムを導入することではありません。人材育成とは、人が育つプロセスに、どこまで本気で向き合うかという姿勢そのものです。教育担当者が、「運用する側」にとどまらず、「一緒に考える当事者」になる。その姿勢が、研修生にも、確実に伝わっていきます。

 だからこそ、研修生たちは、与えられた課題としてではなく、自分たちの問題として現場改善や問題解決に向き合えたのだと思います。

 この人材育成は どんな順序で組み立てられていたのか

では、この人材育成は、どんな順序で組み立てられていたのでしょうか。

  • なぜ、いきなり問題解決手法から始めなかったのか。
  • なぜ、観察や気づきを重視したのか。
  • なぜ、現場実践にこれだけの時間をかけたのか。

その背景にある「人材育成を順序で考える発想」について、次のブロックで整理してみたいと思います。

どうしたら「真の人材育成」を展開できるのか

答えを持たずに、問い続けるという選択

 おそらく多くの方の頭の中には、一つの共通した問いが浮かんでいるのではないでしょうか。「では、結局どうすればいいのか?」もっと具体的に言えば、

  • 来年度の人材育成計画を、どう考え直せばいいのか?
  • 管理職研修や次世代リーダー育成を、どう組み立てればいいのか?
  • 人的資本経営の流れの中で、何を大切にすべきなのか?

    そうした問いです。

 ただ、ここで一つ、あらかじめお伝えしておきたいことがあります。
真の人材育成に、万能な正解はありません。これまでご紹介してきた、ある企業の人材育成の取り組みも、最初から「成功モデル」として設計されたものではありませんでした。

 むしろ、

  • 何が正解なのか分からない
  • これで本当にいいのか確信が持てない
  • 現場の反応に迷い続ける

 そんな状態から、教育担当者の皆さんと一緒に、試行錯誤を重ねてきたプロセスでした。
だって、人ってみんな違った意志、価値感、思考のクセなどがあるのですから。
だからこそ、この企業がやっていたのは、「完成形を導入すること」ではありません。
問い続けることでした。

 真の人材育成を展開していくために、最初に必要なのは、新しい研修メニューでも、最新のフレームワークでもありません。まず立ち止まって、次の問いを自分たちに投げかけてみることです。

  • 私たちは、人を「早く結果を出す存在」として見ていないか
  • 失敗を、本当に学習として扱えているか
  • 立ち直る時間を、待てているだろうか
  • 問題を、個人の責任にしていないか
  • 教育担当者自身が、考えることを止めていないか

 これらは、チェックリストで答えが出る問いではありません。しかし、この問いを避けたまま、どんな人材育成制度を整えても、人はなかなか育ちません。

もう一つ、大切な視点があります。

人材育成を「誰がやる仕事」だと捉えているか

人材育成を、人事部門や教育担当者だけの仕事にしてしまうと、現場との間に、必ずズレが生まれます。

一方で、ある企業では、教育担当者自身が、「運用する側」ではなく、一緒に考え、迷い、修正する当事者として関わっていました。だからこそ、研修生も、「やらされる研修」ではなく、「自分たちの成長の場」として、人材育成に向き合えたのだと思います。

 人的資本経営という言葉が広がる中で、人材育成は、ますます「説明できる形」「示せる成果」を求められるようになっています。その流れ自体は、決して間違いではありません。

 ただし、ここで一度、立ち止まって考えてみてください。
数値に表れる前に、

  • 人の中で、どんな変化が起きているのか。
  • 問題を問題として口にできるようになっているか
  • 仲間と対話しながら考えられているか
  • 失敗を隠さず、次につなげようとしているか

これらが育っていなければ、どれだけ立派な指標を並べても、人材育成は形だけのものになってしまいます。

 ここまで読んで、もし心のどこかで、「うちの人材育成、少し方向がズレているかもしれない」「来年度は、もう少し違うやり方を考えたほうがいいかもしれない」
そんな感覚が芽生えたとしたら。
それは、人材育成がうまくいっていないサインではありません。
むしろ、本気で人を育てようとしている証拠だと、私は思います。

 人材育成とは、仕組みを整えることでも、研修を増やすことでもありません

人が育つプロセスに、どこまで本気で向き合うか。
その姿勢を、組織として選び続けられるかどうかです。

 もし今、
「自社だけで考えるのは、少し苦しい」
「一度、外の視点で整理してみたい」
そう感じているなら。

 それは、誰かに答えをもらうためではなく、一緒に問いを整理する相手が必要なタイミングなのかもしれません。

 人材育成に、正解はありません。しかし、向き合い方には、確かな違いがあります。
このコラムが、来年度の人材育成を考える際に、少し立ち止まり、自分たちのやり方を見直すきっかけになれば幸いです。

 そしてもし、「この問いを、もう少し深く考えてみたい」そう思われたときには、その時点からが、本当の人材育成のスタートなのだと思います。

さて、今回のコラムが、私・坂田が担当する2025年最後の一本となります。

この一年、たくさんの現場に足を運び、多くの方と出会い、 組織の「今」と「これから」を一緒に見つめてきました。 振り返ってみると、少しずつ舵を切り、景色を変えていく組織もあれば、 同じ場所で足踏みを続ける組織もありました。 その分かれ道にあったのは、 「教育を運営すること」が目的なのか、それとも「人が育つこと」そのものを大切にしているのか、そんな“問いの置き方”だったように感じています。

組織は、大きな船のようなものです。 急に進路は変えられませんが、「どこへ向かいたいのか」を問い続けることで、 少しずつでも、確実に進む方向は変わっていきます。 2026年も、私自身が立ち止まり、「なぜ、そうなっているのだろう?」 「本当に大切にしたいものは何だろう?」そんな問いを自分に投げかけながら、 このコラムを綴っていきたいと思います。

一年間、お読みいただき本当にありがとうございました。 また来年、ここでお会いできることを楽しみにしています。 どうぞ、良い年をお迎えください。

このコラムを書いたプロフェッショナル

坂田 和則

坂田 和則
マネジメントコンサルティング2部 部長 改善ファシリテーター・マスタートレーナー

問題/課題解決を現場目線から見つめ、クライアントが気付いている原因はもちろん、その背景にある奥深い原因やメンタルモデルも意識させ、問題/課題改善モチベーションを高めます。
その先の未来には、改善レジリエンスの高い人材が活躍します。

問題/課題解決を現場目線から見つめ、クライアントが気付いている原因はもちろん、その背景にある奥深い原因やメンタルモデルも意識させ、問題/課題改善モチベーションを高めます。
その先の未来には、改善レジリエンスの高い人材が活躍します。

得意分野 モチベーション・組織活性化、リーダーシップ、コーチング・ファシリテーション、コミュニケーション、ロジカルシンキング・課題解決
対応エリア 全国
所在地 港区

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