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【後編】喉も声もご安全に!|喉を痛めずに人を動かす声の出し方

偶然の科学——鼻腔が共鳴した日から、世界が変わった

あの日、27名の研修生が大声でワークをしている中、私は本当に追い詰められていました。声が出ない。喉が痛くて、もう一文字も出せる気がしない。
それでも、ワークを止めるタイミングは刻一刻と迫ってくる。

講師である私は、どうにかしてこの空間の流れをコントロールしなければいけない。
目の前の現場がどんどん遠くに感じるような、あの焦り。
そのとき私は、喉を守るように、自然に息を鼻の奥へ逃したのです。

そこに特別な理由があったわけではありません。
ただ、痛い場所を避けたかった。それだけでした。
そして、そのままそっと声を出してみました。

——スッ。

驚くほど軽い声でした。
喉に痛みが走らない。
腹に力を入れなくてもいい。
むしろ、何もしなくても勝手に声が出たような感覚でした。

そして次の瞬間、信じられない光景が起きました。
27名全員が、ピタッと動きを止め、振り返ったのです。
私はあの瞬間を、一生忘れないでしょう。

軽く出した声のほうが、大声より届いた。
喉を痛めつけた声より、痛くない声のほうが響いた。
努力で押し出した声より、ただ“通しただけ”の声のほうが騒音の中でもワークを止められた。これまでの私が信じていた「声の常識」が、音を立てて崩れ落ちていきました。

 

鼻腔共鳴——それは偶然手に入れた“もうひとつの声”

後になって知ったことですが、私があの日使った発声は「鼻腔共鳴(びくうきょうめい)」と呼ばれるものだそうです。アナウンサーや歌手も使う、喉に負担をかけずに通る声の出し方。声帯から出る音は、実はとても小さな音です。そのままだと遠くまで届きません。

そこで必要になるのが、鼻腔・口腔・咽頭という“響かせる空間”。
楽器で言えば、声帯が“弦”であり、鼻腔は“小さくて固い響き箱”。
とくに鼻腔は、中音域をクリアに増幅する性質があります。
この中音域こそが、人の耳に最も届きやすい音なのです。

だから、私はあの日、押しても出なかった声が、鼻に息を通すだけで“軽いのに遠くへ飛ぶ声”に変わったのです。

 

騒音に負けない声は、実は「静かな声」

ここで、少しだけ音の物理的な話をします。難しい話ではなく、「ああ、そういうことか」と納得できるものです。工場やホールなどの騒音環境では、

  • 低音域は機械音と重なり、
  • 高音域は空気中で散らばり、
  • 大声は波形が乱れて方向性がなくなる

という特性があります。つまり、怒鳴り声は最も騒音に埋もれやすい声なのです。
逆に、鼻腔で響く声は“音の芯”が前に飛びます。
中音域が強いので、騒音と重ならず、耳はその音だけを選んで拾ってくれます。

だから、

  • 声が小さくても
  • 喉を使わなくても
  • 力を入れなくても

遠くまで届く。これが、物理的な事実です。

喉が痛くならないのは、構造上の正しさだった

鼻腔共鳴に切り替えてから、私は喉の痛みが消えていきました。あの頑固だった咽頭炎が、まるで嘘のように起きなくなった。よく考えれば当然のことで、鼻腔共鳴は声帯をムチのように叩きつけないため、炎症が起きにくいのです。

  • 喉を締めない
  • 声帯をぶつけない
  • 空気圧で押さない
  • 自然に響く

これらすべてが重なって、私は6年間、喉のトラブルから解放されました。講師として、これは奇跡に等しいことです。

 

2000人ホールでも届いた理由

私がこの発声に気づいたあと、2000名規模のホールのステージで話したことがありました。
そのとき、後方のスタッフから言われたひと言。
「マイクなしでも一番後ろまで十分に聞こえていますよ。」
その瞬間、私は静かに息をのみました。
「ああ、本当に正しい発声を手に入れたんだ」と。

ホールでは、低音は床に吸われ、高音は天井に散ります。しかし、鼻腔共鳴の声は“中音域の芯”が強く、空間の抵抗を少なく抜けていくのです。

あの日、研修室で起きたことは偶然ではなかった——
そう確信した瞬間でした。 

 

偶然は、悩み続けた人のもとに降りてくる

鼻腔共鳴に気づけたのは、偶然かもしれません。けれど私は今、こう思っています。

「偶然は、悩み続けた人のもとにしか降りてこない」

喉を壊し、病院に通い、仕事ができなくなる不安を抱え、声が武器なのにその武器が壊れる恐怖に震え、それでも講師として現場に立ち続けた——

その積み重ねが、あの日の“奇跡の気づき”につながったのだと。
もし、声で悩んでいるリーダーがいるなら、もし、喉を壊すたびに落ち込む講師がいるなら、私は心からこう伝えたいのです。

大声が正解ではありません。
喉を壊す働き方は、もう卒業していいのです。
あなたにも、もっと楽に、もっと遠くに届く声があります。
あの日の私がそうだったように、あなたにも“新しい声”が見つかる可能性があります。

それは意外な瞬間に、ふと気づくかもしれません。
でも、それは偶然ではなく、あなたが悩み続けたことの“ご褒美”なのです。

 気づきは突然に——あなたにも“新しい声”が訪れる。大声を張り上げていたころの私は、声とは「力で押し出すもの」だと思いこんでいました。

大きければ伝わる。
響けば届く。
喉が痛いのは頑張りの証。

そんな間違った常識の中で、私は必死に声を振り絞っていたのです。
しかし、声というのは本来、そんな“筋力競技”ではありません。
声は押し出すものではなく、“響かせて引き出すもの”なのだと、私はあの日の偶然の瞬間に気づきました。

では、この気づきはどこからやってきたのか?私はずっと考えてきました。
なぜあの日、鼻に息を通すという単純な動作を選んだのか。
なぜ、喉が痛むその瞬間に、私は“軽い声”を出したのか。
なぜ、その軽い声が27名の動きをすべて止めたのか。
答えは、こうでした。気づきは、悩みぬいた人にだけ突然訪れる。

 

「痛みの経験」が、気づきの扉を開く

私は10年間、喉の痛みに耐えてきました。
病院へ通い、薬を飲み、声が出ないまま現場に立ち、時には「この仕事、続けられるのだろうか」と本気で不安になった時期もあります。
でも、今なら分かります。

あの10年間の苦しみがあったからこそ、私はあの日、鼻腔へ息を通すという“逃げ道”を自然に選んだのです。
人は、追い詰められたときにこそ、本能的に「正しい方法」へ逃げることがあります。
喉を痛める発声から、身体は“自然な発声”である鼻腔へと逃げた。
これは偶然ではなく、私の身体が10年間の経験の中でずっと助けを求めていた結果だったのです。

だから私は今、こう言いたいのです。
「あなたが悩んでいることは、必ず未来の気づきにつながります。」 

 

声の悩みは、仕事の悩みでもある

声の悩みというのは、多くのリーダーや講師に共通しているはずです。

  • 朝礼が聞こえない
  • 部下がざわつくと声が届かない
  • 営業先で声が枯れる
  • 工場で指示すると喉が痛む
  • 大勢の前で話すと息が切れる
  • 研修が続くと喉が潰れる

私自身、これらすべてを経験しました。
しかし、鼻腔共鳴に切り替えてから、それらの悩みは一つずつ消えていきました。
なぜか?答えはとてもシンプルです。
力を抜いたほうが、声は届くようにできているからです。
声だけではなく、リーダーシップやコミュニケーションも同じかもしれません。

  • 力で動かそうとすると疲れる
  • 伝わらないと、さらに力む
  • 力むほど、摩擦が生まれる

しかし、やり方ひとつ変えるだけで…

  • 相手の反応が変わる
  • 伝わる速度が変わる
  • 自分自身の負担が消えていく

声の世界で起きたことは、リーダーシップの世界でもそのまま起きます。
だから私は、声の発見を“コミュニケーションの再発見”だと感じるのです。 

 

「静かな声ほど届く」という逆説

喉を壊していた頃の私は、大声を出さなければ相手は聞いてくれないと信じていました。
しかし実際には、あなたが軽く出した声のほうが、相手の脳は“聞こうとする”ようにできています。人間の聴覚はおもしろいもので、音量より「音の性質」で反応します。

  • 柔らかい声
  • 明るい声
  • 通る声
  • 方向性のある声

これらは、脳が“聞きやすい”と判断するため、無意識に注目してくれます。
鼻腔共鳴で生まれる声は、この条件をすべて満たしています。
つまり、「静かな声ほど、人は注意を向ける」のです。
これは、講義でも営業でも会議でも使える“逆説の技術”です。 

 

あなたにも、必ず新しい声が見つかる

私は、声に悩んでいたころの自分に言ってあげたいのです。

大きな声を出さなくてもいい。
痛みを我慢しなくてもいい。
「あなたの声は、もっと軽くて、もっと遠くに届くから。」

そして、この言葉を今、声に悩むあなたにも伝えたい。
声は筋肉ではなく、仕組みで届くものです。
正しい仕組みを使えば、誰でも、必ず“新しい声”が見つかります。

あなたがもし、朝の朝礼で声が届かないことに苦しんでいるなら。
研修や会議で喉の痛みに耐えているなら。
大声を出すたびに罪悪感すら感じているなら。
その悩みは必ず終わります。
私がそうだったように。

痛みに悩んだ期間の長さは関係ありません。むしろ、その悩みこそが、あなたの身体に「もっと良いやり方があるよ」と訴え続けているサインです。

そして気づきは、ある日突然訪れる

私は、この文章を読んでくださっているあなたに、最後に一つだけメッセージを残したい。それは、“気づきは突然訪れる”ということ。
私が鼻に息を通した瞬間に気づいたあの発見は、たまたまではありません。

あれは、10年間の痛みと、努力と、葛藤と、「なんとかしたい」という気持ちが積み重なって生まれた瞬間でした。

あなたにもきっと訪れます。
その瞬間は、もしかしたら静かな朝の声だし練習かもしれません。
あるいは研修の直前、ふと出した声かもしれません。
または、今日の帰り道の車の中で、なんとなく鼻に息を通して出した声かもしれません。

その時、「あれ?」と感じたら——
それは、新しい世界への扉です。
扉はいつも突然開きます。
その扉の向こうには、力を入れなくても届く声、喉を壊さない働き方、相手の心にスッと入るコミュニケーション、そして“未来のあなた”がいます。

あなたの声は、もっと軽くて、もっと強い。私はそう信じています

 

このコラムを書いたプロフェッショナル

坂田 和則

坂田 和則
マネジメントコンサルティング2部 部長 改善ファシリテーター・マスタートレーナー

問題/課題解決を現場目線から見つめ、クライアントが気付いている原因はもちろん、その背景にある奥深い原因やメンタルモデルも意識させ、問題/課題改善モチベーションを高めます。
その先の未来には、改善レジリエンスの高い人材が活躍します。

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その先の未来には、改善レジリエンスの高い人材が活躍します。

得意分野 モチベーション・組織活性化、リーダーシップ、コーチング・ファシリテーション、コミュニケーション、ロジカルシンキング・課題解決
対応エリア 全国
所在地 港区

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