【前編】喉も声もご安全に!|喉を痛めずに人を動かす声の出し方
あなたの声は、本当はもっと軽く、もっと遠くに届きます。
でも——
その可能性は、今の出し方では絶対に開きません。
朝礼で声が届かない。
研修で喉が痛む。
工場で指示すると声が潰れる。
会議で話すほど疲れてしまう。
もし一つでも心当たりがあるなら、このコラムは“あなたの未来を変える入口”になります。
なぜなら、私は10年間、あなたと同じように声に悩み、喉を壊し続け、仕事すら続けられるか不安になりながら、それでも現場に立ち続けました。
そして、ある日のたった“ひと呼吸”で、すべてが変わったのです。
- 大声ではなく、静かな声のほうが届く
- 喉を使わないほうが通る
- 力を抜くほど相手の脳は「聞こう」とする
……この逆説の世界を知った瞬間、私は声の悩みから完全に解放されました。
もしあなたが今、「もう大声を出したくない」「喉の痛みに振り回されるのは終わりにしたい」と少しでも思っているなら——
このコラムが、あなた自身の“あの日”になります。
声の使い方は、才能ではありません。
年齢でもありません。
技術でもありません。
“気づき”です。
そして、気づきは突然訪れます。
あなたがこのコラムを読み始めた、まさに今のように。
続きを読めば、
あなたの声は変わり、
伝わり方が変わり、
仕事の在り方が変わり、
そして——
あなた自身が変わります。では、扉を開けましょう。あなたの新しい声の物語が、今ここから始まります。
奇跡の瞬間——声が出ない私が見つけた“もうひとつの声”
27名の研修生たちが、一斉に声を張り上げていました。
次世代リーダー研修の中でも特に盛り上がる、協力と協調のワークです。
「はい、声を合わせて!」「もっとテンポよく!」
若いエネルギーが部屋の空気を震わせ、まるで体育館のような熱気が満ちていました。
しかし、その熱気の中心にいる私は、まったく違う景色を見ていました。
声が出ない。
正確には「声を出したいのに、喉が痛くて出せない」。そんな状態でした。
このワークには、終わりの合図があります。
講師である私が「ストップ!」と声を出せば、全員がピタッと止まり、振り返る。
けれど、その“止める声”が出ない。さっきの講義パートで無理をして張り上げた影響が、もう喉の奥に赤いランプをつけていました。
——どうしよう。
腕時計を見る。
そろそろ止めないと流れが崩れてしまう。でも声が出ない。
27名が、こちらに背を向けたまま叫び続けている。
——どうしよう……どうしよう……。
喉を押さえ、咳払いの真似をする。
でも痛みが走るだけで、声帯は微動だにしない。
腹に力を入れてみる。すると逆に、喉がギュッと締めつけられた。
そのとき、私は心の中でひとつのことを諦めかけていました。
——今日はもう、うまくいかないかもしれない。
そんな弱い気持ちがよぎった直後、私は“なんとなく”鼻の奥に息を通してみたのです。
本当に、なんとなくです。喉を避けて、苦しさを避けて、「楽なほうへ」息を流しただけでしたが、鼻の奥をスッと抜ける、その“感覚”が少し心地よかったので、そのまま短く声を出してみたんです。
——スッ。
すると、自分でも驚くほど“軽い声”が出ました。喉に痛みが走ることもなく、腹を締めつけることもなく、ただ息を鼻の奥に流したら、そのまま声になった。
不思議なことに、その声は今までの私の声とは違っていました。
高いわけではないのに、どこか「前に飛ぶ」感じがあったのです。
——これなら……。
私は恐る恐る、ワークを止めるための言葉を発しました。
「はい、ストップ——」
その瞬間でした。
27名全員が、バタッと動きを止めたのです。
驚いて顔を上げると、全員がすぐこちらに振り返っていました。
一瞬で静寂が戻り、空気にスッと“すき間”ができたように感じました。
そして心の中に、強烈な衝撃が走りました。
——聞こえたの!?
——この声で……届いたの?
喉を酷使しなければ届かないと思い込んでいた私の声が、痛みを避けて出した“軽い声”のほうが、あっさりと全員に届いたのです。
私はそのとき、言葉にならないほどの驚きを覚えました。
喉を壊してまで出していた大声は、いったい何だったのか。
頑張れば頑張るほど、声は埋もれていたのかもしれない——。
仕事を終えたあとも、胸の奥で静かに震えが続いていました。
「今日のあれは何だったんだろう?」
「どうして、あんな軽い声が通ったんだろう?」
「たまたまじゃないのか?」
そんな疑問が何度も浮かび、その瞬間を思い出すたびに、胸が熱くなる。
その日が、私の“声の人生”の大転換点になりました。
そして、この気づきが「喉を壊さずに声を届けるための方法」へとつながることを、
まだこの時の私は知りませんでした。
10年間の苦しみ——声が壊れていくのに、仕事だけが待ってくれなかった
声が出なくなる瞬間というのは、静かに、しかし確実に近づいてきます。
私の場合、その兆候は10年以上も前から続いていました。
それなのに、当時の私はそのサインを見逃し続けていたのです。
コンサルタントとして走り始めた頃、私は「大声が仕事の武器」だと信じていました。
製造現場、屋外作業、機械音が鳴り響く工場。
そこにいる人たちへ声を届けるには、腹の底から張り上げるしかない——
そう思い込んでいたのです。
思い返せば、小学生のころの先生の言葉が頭の奥にこびりついていました。
「お腹の底から声を出しなさい」
私は真面目な性格だったので、その言葉を“正解”として、そのまま大人になってしまったわけです。研修でも講義でも、誰よりも通る声を出さなければいけない。
それがプロだ。
それが講師だ。
そう思って、喉に力を入れ、腹筋を硬くし、機械の音に勝つように大声を張り上げていました。
しかし、現実はそんなに甘くありませんでした。
初めのうちは、喉がピリピリする程度でした。
「ああ、今日少し使いすぎたかな」
そんな軽い違和感。しかし、それは少しずつ、確実に悪化していきました。
やがて私は毎月のように咽頭炎になり、耳鼻咽喉科へ通うのが当たり前になっていました。喉の奥は常に赤く腫れ、声を出すとヒリヒリとした痛みが走る。
講義が続くと、後半は声が擦れてきて、参加者から「先生、今日は声がかすれていますね」と言われることもありました。
そして何より辛かったのは、努力すればするほど声が壊れていくという現実でした。
大声を出せば出すほど、声が枯れていく。声が枯れれば、さらに腹に力を入れて張り上げる。張り上げれば張り上げるほど、喉は悲鳴を上げる。
まるで、壊れたスピーカーを叩いて無理やり音を出しているようでした。そんな悪循環の中で迎えた、ある仕事の日。今でも鮮明に覚えています。
その日は朝から喉の調子が悪く、講義の途中で声が弱くなるのを感じていました。
でも、現場の方々は真剣で、私も負けるわけにはいかない。気合いで乗り切ろうと、なんとか声を張り続けていました。
すると、突然でした。
――声が、出ない。
自分の喉から音が抜け落ちるような感覚でした。
声帯が“ストップ”をかけたかのように、空気が音にならない。
まるで口から“無音の息”だけが漏れていくようでした。
現場のリーダーさんが心配して「先生、大丈夫ですか?喉やってしまいましたか?」と声をかけてくれましたが、私は頷くことすら辛かった。
そのまま予定は中断となり、私はお客様に車で耳鼻咽喉科へ連れて行ってもらいました。
診察室で先生が喉を覗き込んで、少し眉をひそめながら言いました。「これは相当無理していますね。しばらく声は使わないほうがいいです」
言葉の重さが胸に沈みました。
“声を使わないほうがいい”と言われて、講師としてできることは何でしょうか。私はその後、待合室の椅子に座りながら、ぼんやりと壁のポスターを眺めていました。
そこには「声の健康を守りましょう」の文字。
皮肉なことに、その言葉が妙に胸に刺さりました。
そのとき、私は思いました。
——なんでこんなことになるんだろう。
——こんなに頑張っているのに、どうして壊れていくんだろう。
——このまま、この仕事を続けられるのだろうか。
本気で不安になりました。
喉の痛みも辛いけれど、それ以上に「声を失うかもしれない」という恐怖は、講師にとっては存在そのものが揺らぐ感覚でした。
だけど、講師の仕事は待ってくれません。
翌週には別の研修が入っている。
現場はスケジュールどおり動く。
講義は止まらない。
私は痛む喉を抱えたまま、マスクをつけて、薬を飲みながら現場へ戻りました。
その繰り返しが、気づけば10年。
喉を壊す→治す→すぐまた壊す。
そんな“声のブラック企業”みたいな働き方を、自分に強いていたのです。
後から思えば、この10年間はまるで「間違った地図を見ながら頑張っていた旅人」のようでした。
努力すればするほど、喉は壊れ、頑張れば頑張るほど、声は届かなくなる。私は、“大声は正しい”という思い込みに縛られ、間違った方向にひたすら全力疾走していたのです。そんな私が、27名の喧騒の中で“偶然の声”を見つけるとは、あの日の私は想像もしませんでした。
大声の誤解——なぜ頑張るほど声は届かなくなるのか?
10年ものあいだ私は、「大きな声を出すことが伝わるための条件」だと信じていました。
声が届かない? ならもっと大きく出せばいい。
騒音で聞こえない? なら腹に力を入れ、さらに張り上げればいい。
それが講師としての“努力”だと思っていました。
けれど今思えば、それはまるで“重い荷物を運ぶために、筋肉を酷使して壊してしまう昔の運搬作業”のようなものでした。
力任せに引っ張るのは、最初の頃は成果が出るかもしれない。
しかし、続ければ身体は悲鳴をあげ、最後には動けなくなる。
そして声の世界でも、まったく同じことが起きていたのです。
大声ほど聞こえないという逆説
これは、私が10年以上かけて身をもって学んだ真理です。
人は、「大声=よく聞こえる」と錯覚します。
でも、工場の騒音の中でも、体育館のような反響の大きい場所でも、あるいは講義室の後方まで声を届ける場合でも、実はこの常識は間違っているのです。
声は大きければいいわけではありません。
むしろ、大きな声になるほど、音は“広がって拡散”してしまいます。つまり、大声を出すほど、聞こえにくくなる。この逆説を知らないまま、私は10年間、喉を壊し続けてしまいました。
騒音に対しては“大声は弱い”
ここで少しだけ、音の仕組みの話をしましょう。難しい言葉は使いませんので、安心してください。騒音というのは、低音から高音まで“音の壁”のように広がっています。
工場でいうと、モーター音、コンプレッサー、金属音などが混ざり合って、空気中に常に“うなり”が発生しています。
この騒音の中に「怒鳴り声」を放り込むとどうなるでしょうか?
怒鳴り声は、
- 音が荒く、
- 波形が乱れ、
- 方向性が弱くなる
という特徴を持っているため、騒音の中に“埋もれて”しまうのです。
つまり、機械の音のほうが圧倒的に強いので、人間が力で張り上げた声は勝てません。
これは、いくら筋肉ムキムキの人でも、ショベルカーを素手で止められないのと同じです。
喉を壊す発声は、構造的に無理がある
では、大声を出すとどんなことが起きるのか。
声帯は、わずか数ミリのやわらかい筋肉です。
そこに“怒鳴り声”の衝撃を1日中ぶつけ続けたらどうなるか。
想像するだけで、答えは分かりますよね。
声帯は腫れ、炎症を起こし、振動しにくくなり、結果として声が割れ、枯れ、痛みが走る。
講師、コンサルタント、リーダーの仕事というのは、声を“使ってなんぼ”の職業ですから、このダメージは深刻です。
私は毎月のように耳鼻咽喉科で「また声帯が荒れてますね」と言われていました。
これが10年間続いたのですから、今思えば、よく続けたなと胸が痛くなるほどです。
なぜ人は“大声の罠”にはまりやすいのか?
これは心理学的にも説明できます。
人は、「頑張った量で成果が変わる」と感じやすい生き物です。
声の場合も、
- 大きな声を出せば頑張っている
- 声が大きいほど相手に届く
- 喉が痛いのは努力の証拠
と、無意識に信じてしまう。しかし、声というのは力ではなく、仕組みで出すものです。
ハンマーで針を刺そうとしても刺さらないように、大声で押し切ろうとしても伝わらない場面は多いのです。
「伝える」は、実は“音の勝負”ではない
声の大きさではなく、
- 音の方向性
- 音の明瞭さ
- 音の通り方
これが伝達の鍵になります。つまり、声とは音響設計の戦いなのです。ここで重要になるのが、後に登場する“鼻腔共鳴(びくうきょうめい)”という仕組みです。
大声の限界は、実は「構造上の限界」
講師やリーダーの多くは、「もっと大きな声で!」という文化の中で育ってきました。
しかし、大声には明確な限界があります。
- 喉が壊れる
- 方向性がない
- 騒音の中では埋もれる
- 受講者が疲れる
- 相手に圧を与えやすい
つまり、“頑張れば頑張るほど逆効果”なのです。私自身、この逆効果に10年間気づかず、ずっと「声の筋トレ」を続けていたようなものでした。
しかし、ここから物語は大きく変わります。
なぜなら、私はあの日、鼻に息を通すだけで、すべてがひっくり返るような体験をしたからです。
大声がダメなら、どうすればいいのか?
私が見つけた答えは、もっと静かに、もっと遠くに届く声でした。
まるで、「軽く触れただけでよく切れる包丁」と「力を入れてもうまく切れない鈍い包丁」の違いのように。
声も同じです。
力で押す声は、疲れるし壊れるし届かない。
しかし“響いて届く声”は、軽く出しても遠くまで届く。
その秘密が、次に紹介する鼻腔共鳴(びくうきょうめい)なのです。
続きは【後編】へ。
このコラムを書いたプロフェッショナル
坂田 和則
マネジメントコンサルティング2部 部長 改善ファシリテーター・マスタートレーナー
問題/課題解決を現場目線から見つめ、クライアントが気付いている原因はもちろん、その背景にある奥深い原因やメンタルモデルも意識させ、問題/課題改善モチベーションを高めます。
その先の未来には、改善レジリエンスの高い人材が活躍します。
坂田 和則
マネジメントコンサルティング2部 部長 改善ファシリテーター・マスタートレーナー
問題/課題解決を現場目線から見つめ、クライアントが気付いている原因はもちろん、その背景にある奥深い原因やメンタルモデルも意識させ、問題/課題改善モチベーションを高めます。
その先の未来には、改善レジリエンスの高い人材が活躍します。
問題/課題解決を現場目線から見つめ、クライアントが気付いている原因はもちろん、その背景にある奥深い原因やメンタルモデルも意識させ、問題/課題改善モチベーションを高めます。
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| 得意分野 | モチベーション・組織活性化、リーダーシップ、コーチング・ファシリテーション、コミュニケーション、ロジカルシンキング・課題解決 |
|---|---|
| 対応エリア | 全国 |
| 所在地 | 港区 |
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