やらされ感が若手を止める│やってみたいを引き出す方法
「自分で考えない若手」に、いつから悩んでいただろうか?
「最近の若い子って、自分で考えないよなぁ……」
そんな言葉が、職場で誰かの口からこぼれる瞬間に、あなたも何度か立ち会ったことがあるのではないでしょうか。
もしかすると、それを口にしたのは、他でもないあなた自身かもしれません。
先日、ある製造業の課長さんと話をしていたときのことです。
彼はこう言いました。
「やる気がある子もいるんですよ。でも、みんな“答え”を求めてくるんです。自分で考えて行動する前に、“これは正解ですか?”って聞いてくる。なんかね……、もったいないなって思うんです」
その言葉に、私は深くうなずきました。
そして同時に、こんな問いを自分に返しました。
「自分で考える」って、実はとても難しいことなんじゃないか?
私たちは、大人になるにつれて「考える力」を身につけてきたように思います。
しかし、その力は決して自然と育つものではなく、誰かに見守られながら、小さなチャレンジとフィードバックを繰り返すなかで、ようやく芽吹くものなのです。
にもかかわらず、私たちはつい“今の若手”に対して、「最初から完成された思考力」を求めてしまいがちです。
彼らに「もっと自分で考えて動いてほしい」と思うのは、当然のこと。
でもその前に、「考える土壌」を、私たち大人が耕せているかどうかを、振り返る必要があるのではないでしょうか。
「答えを求める若手」と「質問を投げ返す上司」
研修や企業内のセッションを通じて、私は数多くの若手社員と接してきました。
彼らが口にする言葉の多くは、
「これ、どうやったらいいですか?」
「正解は何ですか?」
「正しくできてますか?」
という“確認”の問いです。
これは決して、無気力からくる発言ではありません。
むしろ、彼らは
「間違いたくない」
「叱られたくない」
「評価を下げたくない」
という防衛本能のもとに慎重に行動しているのです。
それに対して、
「いいからまず考えろよ」
「俺の若いころは自分で調べたぞ」
と言ってしまえば、彼らの心の扉は、ますます閉じていきます。
今の若者が“思考停止”に陥っているのではなく、「安全や品質に思考する環境がない」だけなのかもしれません。
考えるという行為は、リスクを伴います。
だからこそ「安心できる場」が必要です。
「自ら考えること」は、安心の上にしか成り立たない
私の講義では、最初に「挨拶ワーク」を取り入れることがよくあります。
大きな声で、相手の目を見て、しっかりと「おはようございます!」と伝える。
一見、単純なこのワークに、驚くような変化が現れることがあります。
最初は、恥ずかしそうだった若手たちが、3回目には自然と笑顔になり、ペアの相手の反応に小さくうなずく。
場がゆるみ、安心感が広がったとき、不思議と彼らの発言が変わっていくのです。
「こういうやり方ってどうですか?」
「今のプロセス、ちょっと気になる点があります」
「もしかして、こっちの方法のほうが効率的じゃないでしょうか?」
そう、まるで別人のように、「自分で考えた言葉」を話し始めるのです。
これは偶然ではありません。
人は“安心できる場”にいなければ、自分の考えを外に出すことができないのです。
まるで、冬の間は固く閉じていた蕾が、暖かな陽射しを浴びて、そっと開き始めるように。
「考える力」は、環境が育てるものなのです。
では、私たちは何から変えればいいのか?
ここで、あなたにひとつの問いを投げかけさせてください。
「あなたは、部下や後輩が“考える前”に、つい“答え”を与えてしまっていませんか?」
もしその問いに少しでも心が動いたのなら、きっとあなたは、部下や後輩の“芽”を育てることのできる人です。
その“芽”を伸ばすために、私たちの組織が、知らず知らずのうちに失ってしまったもの、
つまり「バランス」について、もう少し深く掘り下げてみたいと思います。
きっと、あなたの中にある「気づき」の種が、またひとつ芽を出すはずです。
お話しを続けましょう。
バランスを失う組織、「技術偏重の副作用」
「自分で考えない若手」の背景にある環境や関わり方についてお話ししました。
では、なぜ私たちの組織は「若手が育ちにくい場」になってしまったのでしょうか?
その理由の一つに、私は「技術偏重」という、静かで深刻な副作用があると私は考えています。
技術が成長すると、人が成長しにくくなる?
ちょっと、想像してみてください。
ある大手製造業の工場に、設備の異音を察知する“匠の耳”を持ったベテランがいました。
彼は、機械が奏でるほんの小さなズレを聞き分けて、早期の不具合対応をしていたのです。
けれど数年後、センサーがその役割を担い、音の変化はAIによって分析されるようになりました。
技術は進化し、ラインのトラブルは減少しました。
けれど、そのベテランのような「耳を持った人」は、もう育たなくなったのです。
技術は進歩すればするほど、人の「感じる力」「気づく力」「考える力」が置き去りにされる危険性があります。
その結果、「技術はあっても、人が育たない組織」が生まれてしまうのです。
スキルを教えるのに必死で、「人」を見ていない
ここで、少し苦い実話をご紹介します。
ある研修の初日。
リーダー層が一同に集まり、若手の早期戦力化をテーマにしたセッションが、始まりました。
ところが開口一番、ある参加者がこう言ったのです。
「正直、スキルさえ教えておけばいいと思ってます。今の子たちは考えるのが遅い。だったら、やるべきことを手順化して渡せば済むんじゃないですか?」
あなたは、この意見をどう感じますか?
たしかに効率は良いかもしれません。
でも、その“手順”をなぜそうするのか、なぜそれが大事なのかを説明できる人がいなくなったら?
応用や変化が起きたときに、誰が現場を判断し、守るのでしょうか?
私はこのとき、「スキル教育だけでは、人は育たない」という強い危機感を抱きました。
スキルとは“手段”であって、目的ではありません。
本来、組織が育てるべきは「考える人」であり、「成長する人」なのです。
技術重視の裏側で、失われているもの
技術偏重が進む組織で、じわじわと失われていくものがあります。
たとえば
・雑談
・相談する勇気
・「なんか違和感がある」と言える雰囲気
・成長を喜ぶ文化
・お互いの成功を称える関係性
これらは、組織にとって一見“余白”のように見えます。
でも、この“余白”こそが、創造性や自律的な判断力を支える、「土壌」そのものなのです。
技術的には最適解があっても、人間関係や現場対応には、“最適解がない”という場面が多々あります。
そのとき、現場を救うのはマニュアルではなく、「人と人のつながり」と「気づく力」なのです。
「うちの若手はダメだ」と思う前に、自分の空気を点検する
「最近の若手は、報連相すらできない」
「なんで自分で考えないんだ」
そう感じたときこそ、一度立ち止まって、自分の関わり方や組織の空気感を点検してみてほしいのです
相談したくなる雰囲気があるだろうか?
間違えても許される、安心感はあるだろうか?
小さな変化や挑戦に対して、承認の言葉をかけているだろうか?
若手は、やる気がないのではありません。
“やる気が出る仕組み”が整っていないだけなのです。
テクノロジーと人間性、両方があってこそ「育つ組織」
私は、技術の発展を否定するつもりはありません。
むしろ、それによって仕事が進化し、効率が上がるのは素晴らしいことです。
でも、それと同時に、人間性・関係性・対話の文化を手放してはいけないのです。
「高性能なシステムが整っていても、最後に判断するのは“人”」
「マニュアルはある。でも、現場を動かすのは“人の気持ち”」
この2つの視点を、組織の両輪として回していく必要があると考えています。
「考える力を引き出すスイッチ」は、脳の中にある
では、どうすれば若手が「自ら考え、動き出す」ようになるのでしょうか?
それを支えるのが、脳科学的に見た“ドーパミン”と“自己効力感”です。
ドーパミンは、私のコラムの中に多く“出席してくれる”脳内ホルモンです。
ここからは、実際の研修現場で見られた変化の事例とともに、「やらなきゃ」から「やってみたい」へと変わる瞬間について、お話しします。
あなたの中にある「育てる力」のスイッチも、きっと同時にオンになるはずです。
人が自ら動き出す「ドーパミンと探求心」のスイッチ
「うちの若手、やる気がないわけじゃないと思うんです。…ただ、スイッチが入っていないだけのような気がして」
以前、研修で出会った管理職の方が、ふとこんな言葉をもらしました。
そのとき私は、静かにうなずきました。
なぜなら「スイッチが入っていない」という感覚は、まさに行動科学と脳の仕組みで説明できることだからです。
やる気がないのではなく、やる気が出る順番や条件が整っていない。
これは、決して性格や世代のせいではありません。
人間の脳の仕組みが、そうなっているのです。
それでは、若手や部下が「自ら動き出す」ために必要な“脳のスイッチ”、つまり「ドーパミン」と「自己効力感」の正体と活かし方について、やさしくお話ししていきましょう。
行動の裏には、ドーパミンという“やる気の燃料”がある
まず、ひとつ質問です。
あなたが、「よし、やってみよう!」と前向きに行動を起こしたとき、脳の中で何が起きているか、ご存じですか?
そう、そのとき分泌されているのが、「ドーパミン」という神経伝達物質です。
ドーパミンは、期待・予測・報酬といった感情に関わり、私たちを「動かす」力を持っています。
特に、「うまくいきそう!」と感じたときや、「やってみて良かった!」と実感したときに、多く分泌されます。
つまり、人は「できそう」や「おもしろそう」という気持ちを持てると、自然と行動したくなるのです。
逆に言えば、「どうせ無理」「また怒られるだけ」「面白くない」と思った瞬間、ドーパミンは分泌されず、行動意欲も湧かなくなります。
その探求心を育てる「バランスの取り方」
さて続いては、こうして芽吹きはじめた「探求心」を、どう育み、どう守っていくか?
つまり、人材育成に必要な“バランスの5視点”について、ご紹介したいと思います。
やりすぎず、怠らず、でも前へ進む。
そんなリーダーの在り方が、きっとそこに見えてくるはずです。
それでは、お話しを続けましょう。
“バランス人材”はこう育てる ― リーダーの5つの視点
さて、「ドーパミン」や「自己効力感」という脳科学・心理学の視点から、 人が自ら動き出すための“スイッチ”について、お話ししました。
では、そうした前向きな芽吹きを「一時的な気まぐれ」で終わらせず、 “継続的な行動”へと育てていくには、どうしたらよいのでしょうか?
そのカギとなるのが、「バランスの感覚」を持つリーダーシップです。
一方的に引っ張りすぎれば依存が生まれ、放任すれば混乱が起こります。
育てるという行為は、まるで糸の張力を微調整する、バイオリン職人のような繊細さが求められるのです。
ここからは、そんな「バランス人材=考えながら動ける人」を育てるために、 リーダーが意識したい5つの視点をご紹介いたします。
視点1:目的の共有
「なぜこれをやるのか?」という“意味”を最初に伝えること。
これがあるかないかで、部下の姿勢は大きく変わります。
目的のない作業は、ただの雑務です。
でも、目的を共有すれば、それは「自分も担っているプロジェクト」になります。
若手に「役割を与える」のではなく、「使命を共有する」という視点で、関わってみてください。
視点2:振り返りの習慣化
一回やって終わりではなく、「何がよかったか?何を変えたいか?」を振り返る場をつくりましょう。
ポイントは、「できたこと」に目を向けさせることです。
自己効力感は、成功体験の積み重ねによって強まっていきます。
反省だけで終わらず、「よくやったね」の一言が、明日への力になります。
視点3:小さな挑戦機会の設計
大きな課題は避けたくなるものですが、小さな実験なら挑戦しやすい。
たとえば、朝礼のファシリテーション、3分間の改善提案、企画のたたき台づくりなど、 「これならやってみたいかも」と思える“スモールステップ”を設計してみましょう。
やがて、挑戦することが「当たり前」になる空気が、組織に生まれます。
視点4:安心の“定義”を明確にする
「うちは心理的安全性を大事にしています」
と言う企業は多いのですが、 実際に「安心して話せる場」とはどんな場なのか、その定義が曖昧なことが多いのです。
私が現場でよく伝えるのは、「否定されないこと」=安心ではなく、「対話できること」=安心という考え方です。
正しさの押しつけではなく、意見が違っても「なるほど」と受け止める文化こそが、 安心の本質ではないでしょうか。
視点5:他者視点を育てる問いかけ
「あなたならどうする?」ではなく、「〇〇さんの立場ならどう考えると思う?」という問いを使ってみてください。
他者視点を持つことで、自分の判断を客観視する力が育ちます。
これは、バイアスを避ける思考習慣にもつながります。
若手には、「立場を変える問い」をプレゼントする感覚で、問いを届けましょう。
バランスを整えるのは、まず“自分自身”から
ここまで、部下や若手を育てるための10の視点をご紹介してきました。
けれど、もっとも大切なのは――リーダー自身が「バランスを持った人間であること」かもしれません。
続いては、そのことをテーマに、あなた自身が「楽しみながら育つ」存在になるにはどうしたらいいかを考えていきたいと思います。
楽しく成長する組織へ、リーダーが最初にやるべきこと
あなたは最近、心から「楽しい」と感じた瞬間がありますか?
大人になると、「楽しさ」を口にする機会が減っていくように思います。
でも、不思議なもので、人は“楽しい”と感じているときにこそ、一番成長しているんです。
これは、脳科学でも証明されています。
ポジティブな感情が生まれるとき、脳内ではドーパミンが分泌され、「もっとやってみたい!」という意欲が自然に湧き上がります。
さらに、
「誰かとつながっている」
「一緒に笑えた」
「わかってもらえた」
と感じたときには、 オキシトシンという“つながりホルモン”が放出され、心の温度が高まっていきます。
だからこそ、私はこう断言したいのです。
「楽しく学び、楽しく働く組織」こそが、最も強く、しなやかで、育ち合う組織であると。
「楽しさ」は、未来への約束
“楽しい”という感覚は、その瞬間だけの感情ではありません。
楽しかった記憶は、未来の行動を変えます。
あのとき、思いきって発言してよかった
あの研修、笑ったな
でも、心に残ってるんだよな
上司のひと言で、自分って認められてるんだって思えた
これらの記憶は、“脳の報酬系”に刻まれ、次の挑戦を後押しするトリガーになります。
「楽しく学ぶ」という体験は、リーダーシップやスキルではなく、その人の“人生における意思決定”に影響を与える力を持っています。
だから、リーダーであるあなたが“楽しむ姿”を見せることは、何よりも価値あるリーダーシップ行動なのです。
変化の連鎖は、あなたから始まる
ここまで読んでくださったあなたなら、きっと、こう感じているのではないでしょうか。
「たしかに、自分がどう関わるかがカギなんだな」
「じゃあ、何から始めればいいんだろう?」
答えは、実はとてもシンプルです。
それは
「まず、自分自身が楽しんで学ぶ姿を見せる」こと。
・新しいことに目を輝かせてチャレンジする
・わからないことを素直に質問する
・学びの中で自分自身が成長する喜びを言葉にする
こうした姿勢は、あなたの周囲にオキシトシンの“あたたかい感染”を広げていきます。
「うちの上司が楽しそうに学んでた。なんか、かっこよかったんですよ。」
そんな言葉が若手から出てきたら、それはもう、あなたがチームの空気を変えた証拠です。
未来は、予定ではなく、意志でつくられます。
あなたの意志が、きっと周囲の人の意志を動かし、組織を動かします。
ここまで読んでくださったあなたへ、心からの敬意と感謝を込めて
「自ら楽しみ、学び、育つ」リーダーの未来を、私は全力で応援しています。
また、どこかでお会いできる日を楽しみにしています。
それでは、次回コラムでお会いしましょう。
バイバイ!
このコラムを書いたプロフェッショナル
坂田 和則
マネジメントコンサルティング2部 部長 改善ファシリテーター・マスタートレーナー
問題/課題解決を現場目線から見つめ、クライアントが気付いている原因はもちろん、その背景にある奥深い原因やメンタルモデルも意識させ、問題/課題改善モチベーションを高めます。
その先の未来には、改善レジリエンスの高い人材が活躍します。

坂田 和則
マネジメントコンサルティング2部 部長 改善ファシリテーター・マスタートレーナー
問題/課題解決を現場目線から見つめ、クライアントが気付いている原因はもちろん、その背景にある奥深い原因やメンタルモデルも意識させ、問題/課題改善モチベーションを高めます。
その先の未来には、改善レジリエンスの高い人材が活躍します。
問題/課題解決を現場目線から見つめ、クライアントが気付いている原因はもちろん、その背景にある奥深い原因やメンタルモデルも意識させ、問題/課題改善モチベーションを高めます。
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得意分野 | モチベーション・組織活性化、リーダーシップ、コーチング・ファシリテーション、コミュニケーション、ロジカルシンキング・課題解決 |
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対応エリア | 全国 |
所在地 | 港区 |
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