4.なぜ人材データの「見える化」「活用」に失敗してしまうのか
<4>なぜ人材データの「見える化」「活用」に失敗してしまうのか
ここまで3 回で,人材・タレントマネジメントにシステムを導入する際に見られる失敗例から,システム選びの際に気をつけるべきポイント,人材データの一元化を実現するため考えるべきこと,について述べました。今回は,多くの企業がシステム導入の際に目指していたはずの「人材データの『見える化』『活用』」がなぜうまくいかないのかを紐解き,そこから成功へのポイントを考えていきます。
◆「見ようと思えば見ることができる」は「見えない」と同義
A社では,人材データの活用を目指してプロジェクトを立ち上げ,自社に合ったシステムを構築するために,一から人材データ活用システムを開発しました。しかし,経営層や現場マネジャーが,それらを積極的に閲覧したり,取り出して活用するといったステージには進まず,利用開始から5 年経った今はほとんど使われないシステムとなってしまいました。
B社では,現場に人材データを活用してもらうおうと,各事業部長に人事システムのIDを配布しました。しかし1 年経ってもアクセスはほとんどなく,何度か使用を促す活動をしましたが,実を結びませんでした。結局,現場から人事への資料提供要請はほとんど減らず,IDの維持費だけがかかってしまっています。
どちらも,データがシステムに溜まってはいるものの,その「見える化」「活用」が進まなかった例です。なぜ,このような状態に陥ってしまったのでしょうか。
ポイントは,「見ようと思えば見ることができる」「一つの見方だけが提供されている」「使おうと思えば使うことができる」というレベルでは,多忙な経営層や現場にとっては,「見えない」「使えない」と同義であるということです。上記2 つの失敗は,人事が「提供できている」と思っていたことが,使う側の期待に応えられていなかったことが大きな原因です。
◆そのデータを見て,何かを気づき,行動が促されるか
そもそも,「人材データの見える化」は何のために実現する必要があるのでしょうか。
人材データを,人材・タレントマネジメントに関わる人たちが「見る」価値は,そこから何かを気づき,行動が促されることにあります。見えていなかった事実が浮き彫りになり,思いもかけないことが明らかになる,認識していたことと現実が異なるなど,アンテナに何かがひっかかるイメージです。想像していたことが想像していた通りに見えているだけでは価値を生み出しません。
システムの観点から考えると,データを単に並べて見せるだけではなく,「比較」や「相対」,「時系列」といった切り口での情報提供ができるか。その軸がビジネスの視点とマッチしているか,といったことが重要になります。
以前,店舗展開をしている会社のお手伝いをしていたとき,すべての店舗の勤続年数と年齢のピラミッド構成グラフを出したことがあります。会社全体の年齢/勤続構成はありましたが,店舗毎の構成については,ずいぶん前に一度出したきりアップデートされていませんでした。すべての店舗を出してみると,その特徴は実に様々でした。年齢的にはバランスしているけれど勤続年数が少ない人が圧倒的に多い店舗,中間部分の年齢層が極端に少ない店舗など,それぞれで起こりうる問題が見えてきます。その情報はエリアマネジャーや店長に提供され,店舗運営のために活用されることに。全体構成だけに留まらず,店舗(ビジネスの単位)までタイムリーに見えるようにできることで,システムへの注目度が一気に高まりました。
◆「思考を促す」「思考を止めない」「試行錯誤」「仮説検証」ができる
では,「人材データの活用」とは具体的に何をすることなのでしょうか?
「見える」ことによって何かに気がついたとき,人が次にすることは,その気づきについて考え,思考することです。そして,正しい行動を選択するために,その考えや思考をさらに発展させていこうとします。「ああだろうか,こうだろうか」と試行錯誤し,ある程度考えがまとまってきたら仮説を立て,その可否を検証し,実行していく。こうした一連の流れに人材情報を活かしていくことが,「人材データの活用」です。
つまり,「人材データの活用」にシステムを使おうとするならば,「思考を促す」「思考を止めない」「試行錯誤ができる」「仮説検証ができる」ことが必須になるということです。ただし,これは決して簡単なことではありません。思考や試行錯誤は常に一定方向に進むわけではありません。予想外のことを試してみることこそに,価値があるような世界だからです。
前回お話したように,パッケージ製品を選択した場合,その性質上ある程度の枠がはめられます。従って,それぞれのシステムが,何をどこまでサポートできるのか,冷静に評価する必要があります。 経営層やそれに近い立場にいる方にシステムを使ってデータをお見せすると,必ずといっていいほど,「俯瞰」と「ドリルダウン」を要求されます。全体を見て状況を把握し,問題と思われる部分に深く入っていく。そこで考えられる課題が局地的なものなのか,他でも発生しうるものなのかを確かめるために,もう一度俯瞰して見ていく。そこで立てた仮説を検証するために,切り口の軸を変えながら,問題の核心に近づいていく。こうしたことを繰り返されます。こうした動きにシステムが応えられたとき,その利用頻度は格段に増えていきます。
上記のような視点を持って,システムで「見える化」や「活用」をどう実現していくのかを考えることができれば,導入したのに使われないという失敗は避けることができるはずです。
◆想像以上に重要な,スピードと直観的なインターフェイス
ここまでは,システムの「使い方」のお話をしてきましたが,「システム」自体についても触れておきたいと思います。
「見える化」「活用」を実現し,経営層や現場にシステムを展開したいと考えたときに忘れてはいけないのが,「操作のスピード感」です。そんなこと?と思われるかもしれませんが,案外ここで躓くケースが多いのです。ちょっとしたことを知りたい,調べたいと思ったときに,クリックしてからかなりの時間が経ってからやっと結果が得られるようでは,だんだん使われなくなっていきます。
そして,マニュアルに頼らずに使える,「直観的に使えるインターフェイス」の提供も重要です。人事の担当者が業務として使う場合には,毎日のように使いますし,避けて通れないものなので,多少使い方が難しかったり複雑すぎても,使いこなそうと努力します。しかし,経営層や現場はそうは思いません。使い方が分かりにくかったら,人事や部下に頼んで資料を出してもらうという形に逆戻りします。それでは,たとえ価値あるデータを蓄積し,適切な見える化・活用の仕組みを構築したとしても,宝の持ち腐れです。
人材データを確実に見える化し,経営層や現場にしっかりと活用してもらうことができたとき,そこから生み出せる価値は測り知れません。今回お話したポイントを押さえて,システム導入をぜひ成功させてください。
【ポイント】
■見える化:そこから何かを気づかせ,行動を促すことができるか/「比較」「相対」「時系列」
■活用:思考を促し,思考を止めないか。試行錯誤や仮説検証をサポートできるか/「俯瞰」「ドリルダウン」「軸の変更」
■「スピード」と「直観的なインターフェイス」
(このコラムは、「月刊 人事マネジメント 10月号」に掲載された、「失敗例に学ぶ タレントマネジメントシステム」の内容を転載したものです。)
- 情報システム・IT関連
経営・現場・人事の人材マネジメントの質を高めるシステム構築を支援します
ITという技術を、御社の人事業務のみならず、人事戦略をもサポートするものにします。「開発したけれど使いにくい」「結局使われていない機能だらけ」といった無駄をなくし、ITの強みを最大限に引き出すコンサルティングを行なっています。
大島 由起子(オオシマ ユキコ) インフォテクノスコンサルティング株式会社 セールス・マーケティング事業部長
対応エリア | 全国 |
---|---|
所在地 | 新宿区 |