3.案外知られていない,システム選びの落とし穴
<3>案外知られていない,システム選びの落とし穴
◆パッケージ製品の本質を理解しているか
今,人材・タレントマネジメントシステムを導入しようと考えたとき,ほとんどの人がまず市場に出回っているパッケージ製品を調べることから始めるのではないでしょうか。確かに,システムの質の担保,導入の期間とコストの軽減などの観点から,メリットが多い合理的な選択です。
しかし,「パッケージ製品」というシステムの本質を理解していないと,「導入したのはいいけれど,使われていないシステム」になってしまう危険性があります。そして,「パッケージ製品」の本質を理解しているユーザーは意外に少なく,そのことが原因でシステム導入に失敗してしまったという例を,数多く見てきました。
そこで今回は,人材・タレントマネジメントシステムの導入に失敗してしまう原因の一つ,システムの性質・提供する価値と目的とのマッチングについて考えていきたいと思います。
パッケージシステムの本質は,「ベストプラクティス」の集合体であるということです。目的に対して,他社や他組織・パッケージベンダーの経験から最適だと考えられる機能を組み合わせたもの,と言い換えることもできるでしょう。「パッケージ製品」は,台帳や労働者名簿の管理,給与計算などに力を発揮します。個々の企業が独自性を発揮することで会社の競争優位を生み出す世界ではなく,できるかぎり効率的かつ低コストで実施することに価値が見出される分野に強いのです。パッケージ製品が提供する機能を活用することで,既存業務の改善が図れるという効果も生み出します。
では,「人材・タレントマネジメント」はどのような性質を持っているのでしょうか。
いろいろな捉え方があると思いますが,「企業の競争優位を生み出し,ビジネスの成功を導きだすための活動」の一つ,つまり,「戦略」の分野に属しているといえるでしょう。「戦略」の定義も様々でしょうが,システム構築という側面から見ると,会社ごとに「ユニークである」「時間軸で変化する」要素を持っているというのが実感値です。
◆パッケージ製品と「戦略」は本質的には相性が悪い
この2 つを併せて考えると,多くの会社やベンダーの経験の最大公約数ともいうべき「ベストプラクティス」の体現であるパッケージ製品は,本質的には「戦略」と相性が良くない,ということに気がつきます。「人材・タレントマネジメント」にパッケージ製品を活用しようと考えたときには,その前提に立って,システム選びをする必要があります。
ここのところが理解されず,システム導入の目的が「戦略」分野の支援だったのに,100%「ベストプラクティス」提供型のシステムを選んでしまい,システム投資をしたにもかかわらず,結局はExcel等の手作業を軽減することができなかった,導入前とほとんど同じ状況が続いている,といった「失敗」が起こるのです。
だだし,誤解していただきたくないのですが,「人材・タレントマネジメント」はパッケージ製品では支援できない,ということではありません。ポイントは,今,検討しているパッケージ製品は,自らの本質を理解した上で,戦略支援に耐えうる機能やサービスを提供しているかどうかを冷静に見極める必要がある,ということです。「パッケージ製品の基本機能だけで,御社の戦略をすべてカバーできます」といった謳い文句があった場合には,注意が必要です。
もちろん,パッケージ製品ベンダーにとっては,「人材・タレントマネジメント」の分野で起こりうる場面を想定し,できる限りパッケージの範囲で,柔軟な対応ができる仕組みを実現することが大きな挑戦です。その結果,基本機能だけで対応ができた,ということもあり得ます。ただ,繰り返しになりますが,その挑戦に真剣に取り組み成功する大前提は,そのベンダーがパッケージ製品の本質と人材・タレントマネジメントの本質をしっかり理解しているということです。まずはこの点をしっかり押さえておくことが重要です。
◆整備された道路が欲しいのか,道路を作る道具が必要なのか
次に考えたいのは,今検討しているシステムがどんな価値を提供しようとしているのかを見極める,ということです。今市場に出ている人材・タレントマネジメントシステムは,大きく分けて,2 種類の価値を提供しようとしています。
理解しやすいように,「道路」を比喩に使って整理すると,1 つは,すでにきっちりと整備された「舗装道路」の提供。もう1 つは,これから取り組む「道路建設に必要な知識と道具」の提供です。
●「舗装道路」の提供: たどり着くべき目的地は決まっており,そのための道筋も整備されている。その上で運用を行えば,理想的な人材・タレントマネジメントができます,というタイプ。
●「道路建設に必要な知識と道具」の提供: そもそもどこが目的地であるべきなのかを考ええるために必要なこと,そのためにはどんな道路が求められるのかを考える道具といったものを提供します,というタイプ。
一つのシステムが,100%どちらかだけに寄っているということはあまりありません。この2 つの極の間のどのあたりに位置しているのか,という観点からシステムを理解することが大切です。
◆システムの本質の理解と目的とのミスマッチが失敗を呼ぶ
「人材・タレントマネジメント」は,「戦略」=「ユニークである」「時間軸で変化する」ものであると考えれば,「道路建設に必要な知識と道具」をしっかりと提供しているシステムを選ぶのが妥当だと思います。一方で,試行錯誤をするだけの人員も時間も経験値もない。まずは決められた道を走ってみてから考える判断もあるでしょう。その場合は,「舗装道路」の提供がなされているものを選ばないと,多くの道具を手にして迷ってしまうかもしれません。
ただし,「『舗装道路』の提供」型のシステムを選択すると決めたのであれば,何があってもその機能や提供されているプロセスをそのまま使いきるという覚悟が必要です。
つまり,システムが提供している価値を十分に理解し,それが自分たちの目的に合っているか否かの判断を間違えないことが重要だ,ということです。
ただ,今,多くの日本企業が取り組もうとしている「人材・タレントマネジメント」は,「今後どうしていくのが良いのか」を試行錯誤・仮説検証していくステージにあるのではないでしょうか。特に,市場の変化が早く激しく,グローバルの視点が避けて通れなくなっている今,「これが自社にとって100%正しい人材・タレントマネジメントのあり方です!」と言い切れるところが少ないのが現実のように思います。そうだとすれば,やはり,「道路建設に必要な知識と道具」の提供が手厚いシステムを手に入れるべきでしょう。
先日,将来のゴールに向けた人材・タレントマネジメントのあり方を探るステージにいるにもかかわらず「『舗装道路』の提供」型のシステムを選んでしまい,過渡期にあるため流動的であるマネジメントプロセスにシステムを活用することができなかった,というケースに出合いました。そのため,導入したシステムは,残念ながら単に人事情報を閲覧するシステム以上の活用ができていません。こうした失敗はぜひ避けたいところです。
多くのシステム導入失敗の根っこには,システムの本質の理解と目的とのミスマッチがあります。システムを選ぶときには,ぜひ,今回の話を思い出してみてください。
(このコラムは、「月刊 人事マネジメント 9月号」に掲載された、「失敗例に学ぶ タレントマネジメントシステム」の内容を転載したものです。)
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大島 由起子(オオシマ ユキコ) インフォテクノスコンサルティング株式会社 セールス・マーケティング事業部長
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