1.なぜ人事のIT活用はうまくいかないのか
<1>なぜ人事のIT活用はうまくいかないのか
◆「タレントマネジメントシステム」が一般的な言葉に
ここ 1 , 2 年,人事の世界では「タレントマネジメントシステム」という言葉が一般的に使われるようになってきました。10年前に私がこの世界に入ったときには,「人事のシステム」と言えば,人事・給与システムのことでした。そこに,あえて給与システムを持たず,「人材マネジメントに活用するためのシステム」を世に問うて,何度も門前払いを受けていた時代を思うと,現在の「タレントマネジメントシステム」ブームには隔世の感があります。ただし,長くこの世界にいるだけに,この状況に対して危惧を抱いている というのが正直なところです。
そもそも「タレントマネジメント」とは何か,と言われたとき,少なくとも現在,その捉え方は人や企業によって様々です。その状況で「タレントマネジメントシステム」を見たときに,そこで実装されている機能そのものを,「タレントマネジメント」だと見なしてしまうケースに何度も出合いました。 また,グローバル化への対応が待ったなしになっている今,海外のグローバル企業が使 っている「タレントマネジメントシステム」を導入することで,自社でも最新の「タレン トマネジメント」を実現できるだろう,との期待もあるように思います。
◆戦略を立て,実行し,成果を出していくための「武器」を持たない人事
一方で,人材に関する様々なデータの一元化の仕組みがしっかりと整備できている日本企業は思いのほか少ない,ということも見てきました。そんな脆い地盤の上に,「一般的に良いと言われるプロセス」を実装したパッケージシステムを入れても,人事や人材マネジメントに関わる人たちが戦略を立て,それを実行し,成果を出していくための「ツール」 「武器」には,残念ながらなりません。
そこで,話題の言葉から少し離れて,「人事が現場をサポートし,経営戦略に貢献していくためにシステム(IT)を活用する」という観点から,改めてその成功の秘訣について考えてみたいと思います。そのために選択するのが,「タレントマネジメントシステム」 という名称なのか,それとも「人材マネジメントシステム」「人事情報システム」なのかは,あくまで結果,その次の問題なのです。
◆人事がシステム活用で直面してしまった「失敗」
今回まず,人事がシステム活用で直面してしまった「失敗」の実態を見ていきたいと思います。なぜそうした失敗が起きてしまったかを整理することで,それを回避するためのポイントを探っていきます。
これまで「人事/人材マネジメントにITを活用する」ことをテーマに様々な企業のお手伝いをしてきました。そこでは「システムを入れ替える」という案件が少なくありません。 既存のシステムをあえて別のシステムにするということは,そこに何らかの問題があった場合がほとんどです。
そこで,出合った「失敗」をタイプ別に挙げてみます。
【失敗例①】 様々な人事関連システムが乱立しており,人材データの一元化をしようと思ったが,
結局マスタの二重三重管理から解放されなかった。
【失敗例②】 人事考課や目標管理などもできる多機能なパッケージ製品を導入したが,
結局ほとんどの機能を活用することができなかった。
【失敗例③】 SaaS型のシステムを導入したが,管理項目名すら変更が難しく, 結局Excel管理を止められない。
【失敗例④】 現場にIDを配布したけれど,結局閲覧されておらず,人事に資料作成の依頼が続いている。
【失敗例⑤】 後継者選抜や育成のためにシステムを導入したが,個人情報の閲覧以上のことができていない。
それぞれの詳細については下の<<起きがちな失敗例>>をご覧ください。
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<<起きがちな失敗例>>
【失敗例①】人材データの一元管理できず
A社では,人事・給与システム,採用プロセス管理システム,e-learning システムなど, 連携ができていませんでした。そこで,自社で人材関連のデータを一元化する仕組みを開発。スタート時にはどうにかデータを集めることができましたが,継続し続けることができず,結局元の状態に戻ってしまいました。
【失敗例②】多機能パッケージを活用できず
B社では,それまで使っていた人事・給与に特化した小規模なシステムのサポートが切れることをきっかけに,人事・給与だけではなく,人事考課や目標管理,スキル管理などマネジメント系の機能もパッケージとして提供されている大規模なシステムを導入。1年かけて土台整備をした後,マネジメント系の機能を使おうとしましたが,実際の業務やプロセスにフィットせず,結局使いこなせませんでした。結果,新しく導入したシステムが, 「高価で巨大な給与システム」となってしまいます。
【失敗例③】SaaS型を使いこなせず
SaaS型のシステムならば,情報システム部にサーバーを用意してもらう必要もなく,初期導入費用を低く抑えることができる。資産計上する必要がない。他社と同じものを使うこ とで,業務プロセスの標準化ができるだろう。といった理由から,C社ではSaaS型のシステムを導入。しかし,管理項目名やデータの管理方法など,ちょっとした変更も容易にできないため,結局システム外でExcelを使った管理が数多く残ってしまい,当初の目的を達成できていません。
【失敗例④】ID配布もアクセス上がらず
D社では,現場に人材データを活用してもらおうと,各事業部長にIDを配布。しかし1年経ってもアクセスはほとんどなく,何度か使用を促す活動をしましたが,実を結びませんでした。結局,現場から人事への資料提供要請はほとんど減らず,IDの維持費だけがかかってしまっています。
【失敗例⑤】選抜育成もニーズ噛み合わず
E社では,選抜人事を徹底していくために,後継者選抜や後継者育成のためのシステムを導入。当初は,新しい試みであることから,システムが提供しているプロセスに合わせられると考えていましたが,実際に導入してみると自社のニーズにどうにも合わず,結局, 個人の一般的なプロフィールを参照することができる程度のシステムに留まってしまっています。
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◆「失敗」には,共通するいくつかの原因がある
では,どうしてこのような「失敗」が起こってしまうのでしょうか?
これまでの経験から,以下の点が原因として挙げられると思っています。
(1)システムの性質とカバー範囲が理解されていない
> システムには大きく分けて2種類ある
> システムにはその出自によって,カバーする範囲が異なる
(2)導入目的とシステムのマッチングがうまくできていない
> そもそも,人材・タレントマネジメントとはどのような世界なのか
> 人材・タレントマネジメントに必要なシステムはどのような性質であるべきか
(3)「人材情報の一元化」に必要な要素が揃えられていない
> 管理したい項目を管理したい方法で管理し続けられるか
> 入力は更新作業が容易か。他システムとの連携ができるか
> イメージ通りのデータが簡単かつスピーディーに取り出せるか
(4)目指すべき「見える化」「活用」のイメージが明確ではない
> 思考を止めずに「仮説検証」「試行錯誤」=思考を支援できるか
> 人材マネジメントに関わる人の要望は高い
次回は,それぞれについて,具体的に説明をし,失敗しないためのポイントを整理していきたいと思います。
(このコラムは、「月刊 人事マネジメント 7月号」に掲載された、「失敗例に学ぶ タレントマネジメントシステム」の内容を転載したものです。)
- 情報システム・IT関連
経営・現場・人事の人材マネジメントの質を高めるシステム構築を支援します
ITという技術を、御社の人事業務のみならず、人事戦略をもサポートするものにします。「開発したけれど使いにくい」「結局使われていない機能だらけ」といった無駄をなくし、ITの強みを最大限に引き出すコンサルティングを行なっています。
大島 由起子(オオシマ ユキコ) インフォテクノスコンサルティング株式会社 セールス・マーケティング事業部長
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