育成プランを「設計で終わらせない」ために必要なこと

自社らしい次世代リーダーをどう育てるか?
【実行・運用編】育成プランを「設計で終わらせない」ために必要なこと
本シリーズでは、「自社らしさ」を軸にした次世代リーダー育成の在り方を、紐解いていきます。エッグフォワードによる多様な企業との取り組み事例をもとに、育成の構想・設計・運用における実践的な観点を紹介します。
これまでの記事では、「会社の未来を担う人材をどう育てていくか」という問いに対し、自社らしい“未来の描き方”と“人選の軸”をいかに定めるか、そしてそれをもとに、どのように育成プランを設計するかというプロセスに触れてきました。
そしていよいよ、育成プランを“実行に移す”フェーズへ。どれほど丁寧に設計されたプランであっても、その実行の質こそが、最終的な成否を大きく左右します。今回は育成プランの遂行と磨きこみのヒントをお伝えしていきます。
育成プランを遂行し、継続的なモニタリング・不断の磨き込みを行う
自社の思想に基づいて将来のリーダー候補を見出し、育成プランを設計した後は、いよいよその計画を「実行に移す」フェーズに入る。
育成は、計画の良し悪しだけでなく、その「実行の質」に大きく左右される。
ここでは、(1)プラン遂行におけるこだわり、(2)継続的なモニタリングとフォローアップ、そして(3)育成プランの軌道修正と対象の見直しという3つの観点から、その実行プロセスを紹介していきたい。
(1)育成プランを、“魂を込めて”実行するということ
育成プランの遂行にあたっては、個人の「学び」や「行動変容」のメカニズムを踏まえた場づくりや、フォローアップを行うことも大変重要である。
いかに実践的なタフアサインメントや実践機会を用意したとしても、
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その場に向けて、明確な期待に触れ、意義に腹落ちし、勇気を持って臨んでもらえるか?
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深い自己認知や視野を広げるフィードバックが得られるよう、他者からも鋭く愛情のこもったコミュニケーションを行えるか?
こうした運用姿勢や場の設計次第で、得られる成果はまったく異なるものになる。
一見、精神論のように見えるかもしれないが、実際には成果を分ける本質的な要素である。
「いかに魂を込めて運用できるか?」「いかに対象者一人ひとりと向き合えるか?」といった細部へのこだわりが、確かな変化を生み出す場面を、我々も数多く目にしてきた。
そのためには、対象者本人だけでなく、関係者全体と全社の思想をすり合わせ、場の目的を共有した上で、必要なフォローを施すといった配慮・工夫が求められる。
(2)育成の進捗をモニタリングし、変化を捉え続ける
とりわけ「個人別の育成計画」を立てた場合、育成の実行状況がブラックボックス化しやすくなるため、進捗を随時キャッチアップし、必要な支援や働きかけを行う仕掛けも重要となる。
例えば、人材開発会議などを活用して、候補者一人ひとりの見立てや、現場・人事を巻き込んだ状況把握を定期的に行うといった運用が考えられる。
一方で、複数名を対象とした共通プログラムでは、施策期間が定められていることも多く、「意識や行動変容の発射台」として位置づける視点が必要になる。
この場合、プログラム期間中のみならず、その後も現場で上長や人事・経営層が注視しながら機会提供やフィードバックを続けることが重要である。
エッグフォワードでも、単なるコーチングにとどまらず、コンサルティング要素も含む「変革コーチング※1」の概念を提唱している。
対象者本人の中長期的な意識や行動の変容、困難の乗り越え、自己客観視などを重視する場合には、こうした「伴走型支援」を継続的に取り入れるケースが増えている。
<脚注>※1 変革コーチング
エッグフォワードが提唱・提供する、組織を率いて変革を起こしていくことを目的とした、伴走支援型の個人別アプローチ。自ら全社の視座に立った理想を打ち立て、課題の背景にある構造的な悩ましさ・難しさを紐解き、勇気を持って踏み出し、自己変革と組織全体への影響力を高めていく個人のための支援を行っている。
(3)育成プランは、見直し続けることで進化する
育成の進捗モニタリングを通じて、プランそのものや対象者の顔ぶれを追加・入れ替えるような発想も大切である。
人材開発に携わった経験がある方であれば実感されているかもしれないが、初期段階で意図通りの人選や完璧なプランニングを行えることは稀である。
したがって、計画を立てることと同じか、それ以上に重要なのが、「いかに状況をキャッチアップし、軌道修正を続けていけるか?」という視点である。
この「変化に対する柔軟性やスピード感」には、会社ごとの思想が如実に表れる。
例えば、事前に見立てた次世代リーダー候補の顔ぶれが長年変わらず、腰を据えて育成されている企業もある。
一方で、「変化する人材像」や「新たな候補者の登場」に機敏に反応し、毎年のように顔ぶれを見直していく企業もある。
どちらが正解というわけではないが、候補者リストを定期的に見直す運用には、いくつかのメリットがある。たとえば、いったんプールに入った人材に“もう決まった人”という安心感が生まれてしまうと、成長意欲や危機感が薄れがちになる。また、対象に選ばれなかった人の中にも、芽を出すタイミングの違いや環境の変化によって、再評価すべき人材が隠れている可能性がある。健全な緊張感や挑戦の機会を保つという意味でも、プールの更新は効果的な仕掛けとなり得る。
「未来を担う人材像」を常にアップデートし続ける姿勢は、これからの時代にますます重要性を増していくだろう。
振り返りの頻度や指標の設定については、各社の人事評価サイクルとの連動性もあるため、単一の推奨方法があるわけではない。
しかし、組織や個人の状況は日々変化する。少なくとも、当初の狙いに対する現状把握や振り返りの仕組みについては、自社なりの方針を言語化し、運用として担保できる思想が求められる。
経営者の関与が、育成に魂を宿す
そして、こうした進捗確認や対象者の見直しにおいても、他のプロセスと同様に、経営トップが本気でコミットすることが、育成に魂を宿すカギとなる。
経営者自身が覚悟とビジョンを持ち、育成思想や対象層の把握、機会提供や進捗確認に深く関与することによって、未来を託すリーダーを育てる営みに、重みと迫力が生まれる。
従来、見逃されていた候補者に新たに光が当たったり、未来を担う人材像そのものの解像度や懐が広がったりすることも多い。
これは人事部や経営企画部が起点となるケースでも同様で、「なぜ重要なのか?」を言語化し、経営者を巻き込む働きかけを行うことで、取り組み全体の推進力が一段と高まる。
おわりに
以上で、「会社・組織の未来を担う人材を育てる」取り組みについての紹介を、ひとまず一区切りとしたい。
本稿ではスペースの関係で触れきれなかった観点や事例も多くあるが、とりわけ「自分たちらしさとは何か」を探求する視点を軸に、実際のご支援を通じて得られた実感や手応えを、率直に綴らせていただいた。
自社ならではの意義ある未来の実現を願い、すでに踏み出されている皆様にとって、いくらかでも、思考や行動のヒントとなれば幸いである。
このコラムを書いたプロフェッショナル
池田 慎一(イケダシンイチ)
エッグフォワード株式会社 企業変革事業部 マネージャー
リーダーや若手の育成、マネジメント強化、理念・カルチャー浸透など、企業の優先課題に応じて幅広く支援を行っています。
お客様固有の歴史や想い、組織文化に根ざした「ありたき姿」の言語化と、その実現に向けた構想・実行の伴走を得意としています。

池田 慎一(イケダシンイチ)
エッグフォワード株式会社 企業変革事業部 マネージャー
リーダーや若手の育成、マネジメント強化、理念・カルチャー浸透など、企業の優先課題に応じて幅広く支援を行っています。
お客様固有の歴史や想い、組織文化に根ざした「ありたき姿」の言語化と、その実現に向けた構想・実行の伴走を得意としています。
リーダーや若手の育成、マネジメント強化、理念・カルチャー浸透など、企業の優先課題に応じて幅広く支援を行っています。
お客様固有の歴史や想い、組織文化に根ざした「ありたき姿」の言語化と、その実現に向けた構想・実行の伴走を得意としています。
得意分野 | リーダーシップ、マネジメント、コーチング・ファシリテーション、チームビルディング、ロジカルシンキング・課題解決 |
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対応エリア | 全国 |
所在地 | 渋谷区 |
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