『在宅勤務なら復職可能』との診断書が出された場合の対応
【ヒューマン・タッチ レター vol.53】
みなさん、こんにちは。ヒューマン・タッチ森川です。
今回も、コロナ禍特有の以下のご質問に答える形でのコラムです。
【メンタル不調にて療養中の従業員が、主治医から「在宅勤務での復職であれば可能」
との診断書をもって、復職を希望してきました。復職させるべきでしょうか。】
【回答】
■主治医から出された診断書の意味合い
メンタルヘルス不調に限らず、私傷病による欠勤や休職の際、
その開始時と終了時には、「主治医からの診断書」の提出を条件としている就業規則がほとんどだと思います。
本人からの申請書と共に、診断書を添付して、社内ルールの適用を受けることになりますね。
診断書に書かれる当該従業員の症状、回復具合、今後の見立て、
など主治医の持つ情報は医学的な根拠となる重要な情報です。
ただし、欠勤や休職は、最終的には会社(事業主)の判断により決定されること、忘れてはいけない点です。
前回の資料で指摘した復職プログラムでも、復職の可否については、
主治医からの診断書、産業医面談の結果、カウンセラーや上司などの面談資料、
などをもとに「復職判定員会」などの民主的な手段により審議することが勧められています。
その上で、「判定委員会」の判断を事業主に具申して、最終的な判断をすることになります。
しかしながら、多くの企業では、たとえ産業医がいたとしても
「専門外である」「主治医の考えを尊重する」と、主治医の診断書をベースとして、
復職が判断されることが多いのが実際かと思います。
まして、「判定委員会」や関連する規定を備えている会社は少数派ですね。
このような実情から、「主治医の診断書」は、事業主の判断材料としての、
「当該従業員の症状、回復具合、今後の見立て、を示す医学的な根拠」という立ち位置よりも、
復職を判断する唯一の書類、ととらえられている面が多いように思います。
■診断書の記載内容
メンタルヘルス不調者から出される診断書の内容ですが、
「診断名」が書かれているのが一般的です。加えて、療養開始時の診断書には、
「自宅療養の必要性」「その期間」などが簡潔に書かれています。
「適応障害 自宅にて1か月の療養を要する」といった感じですね。
この場合、医師は1か月で寛解、完治すると見立てているわけではありません。
まずは1か月様子を見て、その後の治療や療養の必要性は、1か月後に再度判断します。
という意味合いととらえてください。
ですので、1か月後には再度診断書を受領する必要があります。
また、診断名についても、国際的な分類で示される診断名を用いる医師もあれば、
確定的な診断がなされていなければ、状態を示す「うつ状態」「抑うつ状態」という表現を
用いる医師もあります。
診断名については、本人や主治医の考えもあり、提出する書類として配慮されている
可能性もありますので、ここにこだわるのは正確な判断を難しくする可能性は0ではありません。
しかし、一般論としては「うつ病」「発達障害(疑い)」「適応障害」「これら以外の精神科的な疾患名」
なのかといった情報は、今後を予測するヒントになります。
服薬と療養でしっかりと回復できるものなのか、先天的な特徴やでこぼこが基にあり、
2次的に抑うつ的な状況に陥っているのか、人や業務にはっきりとしたストレス要因があり
それから遠ざければ従前のようなパフォーマンスに戻れるのか、入院や継続した服薬治療が必要なのか。
■「在宅勤務での復職であれば可能」の意味
ここで、今回のご質問に戻ります。
主治医からの「在宅勤務での復職であれば可能」という診断書を提出してきた
療養中の従業員の対応についてですね。
大切なのは①現時点で復職の基準を満たしているか、②本人の特性を把握し対応できるか、
③復職後の安全配慮は適切に行うことができるか、です。
まず、①現時点で会社の復職の基準を満たしているかどうか、です。
「在宅勤務での復職であれば可能」とはどのような状態なのでしょうか。
この場合には、産業医とも相談していただき、主治医にあらためて内容を確認してみる方法があります。
当該従業員の同意をもらったうえで、産業医名にて「情報提供依頼書」のような書式で、
主治医から情報をもらう方法です。
産業医がいない場合でも、本人の同意を得られていれば、会社名にて書類を出されるところもあります。
この書類では、「発症から初診までの経緯」「治療経過」
「現在の状態(業務に影響を与える症状および薬の副作用の可能性等も含めて)」
「就業上の配慮に関する意見(症状の再燃・再発防止のために必要な注意事項など)」などの記載が一般的ですが、
「会社の定める復職基準」を明記し、この基準と照らしての復職の可否まで可能であれば記載してもらうのです。
本人や主治医が考える復職の基準と、会社側が求める基準は必ずしも一致するわけではありませんので、
会社としての基準を明記したうえで、その基準がクリアされているのかどうか確認します。
当該従業員から、会社での勤務内容や復職基準などは、詳細には伝えられていないと考えられますので、
それらの情報も記載しておくと、より正確な判断をもらえる可能性があります。
「現時点では会社の基準までは満たしていないが、在宅勤務の負荷であれば復帰可能」
という事であれば、もし今在宅勤務が解除された場合は、従前の業務に戻ることができないとみなして、
復職させることは慎重にならざるを得ないと考えます。
ただし、数か月の在宅勤務が前提で、それを経れば復職の基準を満たし、従前の勤務に戻れるようになる、
という主治医の意図であれば復職の検討の余地はあると考えられます。
■在宅勤務中の配慮
次に、②本人の特性を把握し対応できるか、です。
在宅勤務下での影響は、本人の性格傾向や特性も大きく関与してきます。
1人でいることがプレッシャーから解放されて安定につながる人もいれば、
話す人がいない環境が強い孤独や不安をもたらす人もいます。
診断名からだけでなく、本人の特性をしっかりと把握し配慮することは、
在宅勤務をさせる際にも大切なポイントになります。
最後に、③復職後の安全配慮という視点です。
主治医から復職の基準もクリアしてきている、ということになった場合、
在宅勤務中にどのような対応が必要でしょうか。
上述しましたが、産業医、社内産業保健スタッフ、カウンセラー、人事部、上司、などの面談を経て、
会社として復職の時期や対応を決定していきます。
その中で、「当該従業員の状況確認」について丁寧に検討いただきたく思います。
通常の復職であれば、毎日上司と顔を合わせ、週に1度は人事労務担当者や産業保健スタッフとの面談が可能で、
月1回の産業医の訪問時には面接を実施してもらうことも可能と思います。
複数の「目」で見守り、必要に応じて復職プランを修正し、復職をサポートできるわけです。
しかし、在宅勤務中であればどうでしょうか。
出社しての勤務に比べれば、はるかに「目」が少なくなると想定されます。
通常勤務の社員に対しての労務管理、健康管理でさえ手探りな状況です。
復職者への対応が後手になるのは想像に難くありません。
このような場合は、Webを使った面談を活用したり、毎日の生活リズムチェック表の作成と提出を義務付けたり、
丁寧な状況把握を準備し復職させることは、安全配慮の視点からも有効と考えます。
本人の特性を考慮することと丁寧な情報収集、在宅勤務下での復職には必要な要素ではないでしょうか。
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森川 隆司(モリカワ タカシ) 株式会社ヒューマン・タッチ 代表取締役 臨床心理士 公認心理師

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