最低賃金の上昇が与える企業への影響とは?
最低賃金の上昇が与える企業への影響とは?~賃金制度改定のポイントを解説~
最低賃金の上昇を契機とした自社のあるべき賃金制度の検討
今後も最低賃金の引き上げを前提に、賃金制度に自社の意志を込めることが必要である
最低賃金とは
最低賃金とは、最低賃金法に基づき国が定めた賃金の最低額です。会社は、その最低額以上の賃金を労働者に支払う必要があります。この最低賃金には、各都道府県に1つずつ定められた「地域別最低賃金」と、特定の産業に従事する労働者を対象に定められた「特定(産業別)最低賃金」の2種類があります。「特定(産業別)最低賃金」は「地域別最低賃金」よりも高い金額水準で定められています。労働者の生活を保障、事業の公正な競争のために、最低賃金法によって定められ、市場環境・物価指数や労働者の生計費等によって、適正な金額が見直しされることになっています。
最低賃金の上昇の背景
近年、最低賃金額の引き上げが連続的に実施されていますが、この背景には何があるのでしょうか。背景の一つには、2017年に決定された「働き方改革実行計画」があります。この中で、「名目GDP成長率に配慮しつつ、年率3%程度を目安とした最低賃金の引き上げ」を目標に設定されており、段階を経て、全国加重平均(全国の最低賃金を都道府県ごとの労働者数に応じて重み付けをして算出した平均額)が1,000円以上となることを目指しています。2022年度の全国加重平均額は961円であり、直近5年間は毎年約30円程度の引き上げが実施されています。2023年度では過去最高の43円引き上げで、1,004円となる見込みと発表もされました。(2020年度は新型コロナウィルス蔓延の影響で大きな引き上げは見送られています)
岸田首相は、2030年代半ばまでに最低賃金の全国加重平均が1,500円になることを目指すと発信もされており、今後も継続的に最低賃金額の引き上げが続く前提で、経営者(使用者)は要員計画や人件費コントロールを実施していく必要があります。
最低賃金の上昇が企業に与える影響
最低賃金が引き上がることにより、企業側(使用者)には以下の影響が想定されます。※特に最低賃金に近い水準だった場合
1.人件費の上昇による収益性の低下
2.1により、雇用(受け入れ可能人数)の縮小
3.2により、既存社員の業務負荷の増大
このような流れを回避するためにも、業務の合理化・効率化・外部活用が不可欠になります。
業務の効率化・改善・機械化・IT化・社員のマルチタスク化・アウトソーシング(外部委託)など、人が少ない前提で、収益を安定して確保できるような投資や仕組みづくりが必要となります。
中小企業においては、このような取り組みに対し、条件によっては活用できる助成金制度があるため、自社の状況に合わせて検討することをおすすめしています。
また、最低賃金が引き上がる中、人材確保のために給与水準を大きく見直す企業も増えています。初任給や最低賃金に近い若手世代の水準を引き上げると、逆転を防ぐために、その上の社員も引き上げを敢行することとなり、これを機会に人事制度の全面見直しを実施する企業も出てきています。コンサルティング現場でのご相談も増えており、後段では、人事制度(特に賃金制度)の改定について、ポイントをご紹介していきます。
賃金制度改定のポイント
賃金制度改定において、まず取り組むべきは、自社の賃金制度における思想・考えを改めて整理することです。
これまでの賃金制度(頑張りに対する報い方)の考え方に変化があるのであれば、給与全体設計から実施するべきです。
どのような成果・頑張りに対し、どのような報い方(成果にダイレクトに反映、安定的に積み上がる仕組み、など)をするのか、今一度検討ください。
賃金制度の考えが整理できれば、基本給や各種手当にその考えを反映させていきます。
こちらに併せて、最低賃金の上昇を鑑みた初任給額の設定、既存社員との逆転防止策実施、必要に応じて給与テーブルの変更を行います。
逆転を防ぐために、どこまでを対象として対応を実施すれば良いか?と、よくご相談があります。
結論からお伝えすると、自社の採用戦略によって異なってきます。
新卒入社がメインの会社では、同じ新卒入社で若手世代を対象とするケースが多く、中途採用者が多い場合は、既存社員のモチベーションを考慮しながら、対応範囲を臨機応変に変えるケースが多いです。
新たな人材確保はもちろん大切ですが、引き上げ対応は既存社員の納得感が肝になりますので、自社の状況を鑑み、慎重に検討していく必要があります。
さいごに
今後も最低賃金は引き上げが続く中で、当然ながら人件費も上昇をしていきます。その中でポイントとなるのは、いかに1人当たりの生産性を高めていけるかです。給与は引き上がるが、成果も同時に高めていけない状態では、収益性が低下の一途を辿り、事業継続が難しい局面を迎えることが容易に想像ができます。
企業経営の判断として、人的リソースのどこに投資をしていくのか、今こそ正に見直す絶好の機会と言えます。
最低賃金引き上げを契機に、社員のどんな活躍を期待し、何に報いる賃金制度があるべき姿なのか。外部人材の採用であれば、どんな人材が必要で、どれほどの待遇を用意する必要があるのか。既存社員のバランスは取れているのか。
自社の事業戦略を基点に、今一度考える機会としていだきたいです。
※本コラムは立入が、タナベコンサルティングの経営者・人事部門のためのHR情報サイトにて連載している記事を転載したものです。
【コンサルタント紹介】
株式会社タナベコンサルティング
HRコンサルティング事業部 チーフマネジャー
立入 俊介
総合人材サービス会社にて、大手~中堅中小企業の新卒採用・人材育成支援に従事し、プレイングマネージャーとして組織マネジメントを担い、社内外両面の組織改革の経験後、当社へ入社。採用領域での知見を活かし、「社員が活き活きと働き、周囲に薦めたくなる組織作り」の信条のもと、顧客の理念・ビジョン・企業風土・採用競争力・制度設計・グループ人事まで、多面的要素から戦略的な人事コンサルティングに行っている。
主な実績
・新卒採用支援コンサルティング
・食品メーカー向け賃金制度設計コンサルティング
・人材育成支援コンサルティング
- 経営戦略・経営管理
- モチベーション・組織活性化
- 人材採用
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創業60年以上 約200業種 15,000社のコンサルティング実績
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タナベコンサルティング HRコンサルティング事業部(タナベコンサルティング コンサルティングジギョウブ) コンサルタント
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