ノンテクニカルスキルの観点からの人材育成のヒント
日本生産性本部は2023年11月17日、第96期「人事部長クラブ」の11月例会を茨城・つくば市の「筑波宇宙センター」で開催した。当日は、同センターの展示館「スペースドーム」の見学会の後、「宇宙飛行士と地上管制官の連携に不可欠なヒューマンスキル~『ノンテクニカルスキル』の観点からの人材育成のヒント~」をテーマに、有人宇宙システム宇宙事業部教育訓練グループ主席の奈良和春氏が講演した。
有人宇宙システムは1990年に設立されて以来、国際宇宙ステーションの日本実験棟「きぼう」の運用・利用をJAXA(宇宙航空研究開発機構)から請け負い、24時間・365日、常に不測の事態に備えている民間会社だ。
「ノンテクニカルスキル」とは、もともと、航空機の機長と副機長の間でヒューマンエラーを削減する手段として研究が進められてきたCockpit ResourceManagement(CRM)と同一の考え方である。主に、1.コミュニケーション、2.状況認識、3.意思決定、4.ワークロード(作業負担)調整、5.チームワークの5要素で成り立っている。
奈良氏は「1986年にスペースシャトルチャレンジャー号の爆発事故が起こった。当時、ロケット発射1時間前に、整備塔に氷がこびりつき、異常低温によるOリングの性能低下が発生した。懸念を示すエンジニアの主張に反し、マネジメントは打上げを決行してしまった。こうした残念な事故を克服しながら、さらに高いレベルのチーム連携を目指している」と解説した。
宇宙飛行士が行う業務は全て手順書に記載された通りに遂行することが厳格に決められている。手順書には、機器の操作手順はもちろんのこと、宇宙船内の状況を地上側でも正しく把握するための報告・連絡のタイミングも指定するなど、細かな指示がなされている。 奈良氏は、「手順書を用いて最低限やるべき業務を迅速に終えることで、状況を観察して臨機応変に対応するための思考の余裕も生まれる。また、指導側も、基本的なことまで手取り足取り教える必要がなくなり、より重要な説明に時間を割くことができ、訓練の負荷も軽減される。仕事を任せるには、安心して任せられる仕組みを整えることが重要だ」と述べた。 宇宙飛行士の訓練では、「バーバライジング(自分が考えていること、注意を払っていること、予測していることを話しながら訓練を行うなど)」の考え方を取り入れ、宇宙飛行士が7割話し、教官は3割話す(生徒の誤った理解を正すのみ)ことを理想として進められる。ベテランの飛行士ほど、自分はどこまで理解していて、どこに疑問があるか。「手順書はこの様に修正してほしい」などと、本番での失敗を防ぐため、頭の中をさらけ出すように話すという。教官はコーチングスキルも駆使して、気づきを引き出すように工夫して、宇宙飛行士が納得感や自信を得られるようにフォローする。
最後に、奈良氏は、会話を引き出す「what-if(もしもこんなことが起きたら?)」というイメージトレーニングを日常的に行うことで、普段からトラブルを想定し、その影響を評価して事前に対策を考える文化や、「heads-up(念のためお知らせします)」の掛け声をすることで、まだトラブルは起きていないが、その可能性に気づいた時にメンバーへ一斉に注意喚起を行う文化などを紹介した。
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日本生産性本部(ニホンセイサンセイホンブ) コンサルティング部
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