仕事と介護の両立支援:間違えてはいけないポイント 情報提供
■介護は急に始まる それまでにどれだけの知識を得ておけるか
介護には複数の段階があり、家族の状況などでステージが変わるとき、特に負担が大きくなりやすいものです。
今回は、仕事との両立に直面する「両立初動」の時期について考えてみたいと思います。
介護発生は事前に予測することが難しく、発生した後も同じようなスピードで変化していくわけではありません。安定した状態が続くこともあれば、急に状態が悪化して、家族が呼び出されることもあります。
今、皆さんの家族に何かトラブルが起こったら、まず、どこに連絡すれば良いかご存知でしょうか? チェンジウェーブグループのLCATの調査によると、企業従業員の約8割が「介護のプロにどこに行けば会えるのかわからない」「どんな症状が起きた時に要介護申請できるか判断できない」と答えています。
いざ介護が必要になってから情報を集め、選択し、手配し…
それは精神的にも、体力的にも、時間的にも、そんなに楽ではないかもしれません。
介護は、時期を見送らず、できるだけ早く行動することがその後の支援体制を楽にします。しかし、知識が不足していると初動が遅れ、負担が増えていくため、仕事との両立を考えるゆとりさえなくなってしまうことがあります。
介護発生の時期は予期できなくても、知識を得ておくことはいつでも始められ、事前に準備できることをぜひ覚えておいていただきたいと思います。
■情報が必要な層が対象に含まれているか
知識を得てもらうことの重要性は十分理解し、介護休暇などの制度についても従業員に積極的に情報提供している企業が増えてきています。
しかし、チェンジウェーブグループが事務局を務める企業横断の取り組み、Excellent Care Company Clubの調査によると、企業で提供している情報のほとんどは、介護が必要となった場合に「任意で取得できる」ものであり、「当事者を対象としたもの」でした。
つまり、まだ介護が発生していない「ビジネスケアラー予備軍」は対象に含まれていないことが多く、事前に知識を得たり、準備をしたりする機会は得にくいと言えます。
本当に情報が必要な層に届かない、ということです。 Excellent Care Company Club 参加企業からは、情報提供や研修の受講を促すことに難しさを感じている声が挙げられました。
<企業施策としての“仕事と介護の両立支援施策”参加・活用の難しさ>
「様々な情報提供はするものの、本当に必要な手前・予備軍の人にはなかなかリーチできない」
「戸口に立ってもらえさえすれば、意義は感じてもらえるが、そもそも全社に受講必須など半強制力をきかせない限り、戸口に立ってもらうことが難しい」
「こちらから受講を相当に促しても、関心層と無関心層に分かれて二極化してしまう」
また、LCATのアンケートでは、企業で配布される介護に関するハンドブックについて、「読んだことがない」という人が87%、介護をテーマとした「研修に参加したことがない」という人が91%もいました。
企業・人事部門などから情報提供を試みてもなかなか届かない、活用されにくい、ということが起こっています。
■情報提供していても、なぜ従業員に届かないのか
なぜ、介護に関わる情報は伝わりにくく、自分ごとになりにくいのでしょうか。
「介護」は誰にとってもイメージしにくく、経験のある人が少ないものです。
親の「老い」や「介護」に向き合いたくないという「忌避感」、まだ大丈夫だろう、自分は(自分の親は)大丈夫だろう、という「バイアス」の影響も大きく、周囲から喚起されない限り、自ら情報を取りに行こう、知識を得ようというアクションは起こりづらいのです。
なんとなくネガティブなイメージ、暗いイメージもあり、自分から前もって準備しようと思いにくいものとなっています。
また、介護は「家族がやるべきものであり、それが最良である」と思いがちです。例えば、仕事と介護を両立するために何らかのサービスを探す、アウトソースする準備をする、などに対しては罪悪感を持つ人が多く、言いにくくて周囲に開示しない、言っても理解されないだろうと思う傾向があります。
ましてや早い段階から親に相談を持ち掛けるのはどうか…、と言う方は少なくありません。
もう少し様子を見ておこう、という気持ちが働くことは容易に想像できます。
■情報アクセスの壁が行動を阻む
実は介護に関する情報は、収集しにくいと言われています。ワンストップで様々な情報が得られる、適切な選択肢にアクセスできる情報ソースが少ないため、仕事と介護の両立体制を築く初動期に必要なこと、例えば介護のプロに質問・相談することや、介護保険を利用するための要介護申請をどのタイミングでするのか、など、重要な情報が得られていないことが多くあります。
実は利用できる制度や選択肢は存在しているのですが、適切なタイミングで、うまく使われていないということも課題として挙げられています。
こうしたことが相まって、ビジネスケアラー予備軍の方々の多くは何も準備しないままになっています。
実際、「知識のないまま介護生活に入ってしまい、大変な思いをした」という体験談がLCATには多く寄せられています。
■2025年4月施行:育児・介護休業法の改正に示された情報提供のタイミング
介護が始まったときの負担を少しでも軽減するために、また、仕事と介護を両立する際の労働生産性低下を少しでも防ぐために、早い段階からの知識取得は大変重要です。LCATの調査でも「早く知っていたら負担が下がった」と考える方は83%と高い割合です。
公的支援制度、選択肢の幅や要介護申請のタイミングを知っているだけで、介護が始まった時の負担はかなり違うのです。
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●介護に直面した旨の申出をした労働者に対する個別の周知・意向確認の措置
(※面談・書面交付等による。詳細は省令。)
●介護に直面する前の早い段階(40歳等)での両立支援制度等に関する情報提供
●仕事と介護の両立支援制度を利用しやすい雇用環境の整備
(※研修、相談窓口設置等のいずれかを選択して措置。詳細は省令。)
※研修を実施する場合
対象者については、その雇用する全ての労働者に対して研修を実施することが望ましく、
少なくとも 管理職の者については研修を受けたことのある状態にする必要があるとされています。
※個別の周知、意向確認
必ずしも人事から行うというものではなく、事業主やその委任を受けて権限を行使するものが行うもの、とされていますので、
直属の上司等が行うことも想定されます。
従業員が意向表明をしにくい状況にならないよう、所属長や直属の上司に、制度の主旨等は事前に周知することが必要です。
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しかし、これまでお伝えしてきたように、介護に関わる問題には特有の忌避感があり、ビジネスケアラー予備軍の段階から当事者意識を醸成することは難しいようです。
つまり、企業側からビジネスケアラー予備軍に適切な情報を届けるには、ある程度の「強制力」が必要ということになります。
2025年4月から施行される改正育児・介護休業法では、仕事と介護の両立支援が強化されました。
事業主には介護離職防止のための個別周知・意向確認のほか、研修など、仕事と介護の両立支援制度を利用しやすい雇用環境の整備などが義務付けられます。
情報提供については、介護に直面する前の早い段階(40歳等)に実施することとされ、介護保険料徴収が始まるタイミングで、現在当事者でなかったとしても、情報を提供する対象者とすることが示された形となっています。
2024年3月に経済産業省から発表された「仕事と介護の両立支援に関する経営者向けガイドライン」でも
「企業がプッシュ型の情報発信を行うことで、従業員個人の将来的なリスクを低減」と明示されています。
これまでの情報提供が「当事者」に向けた「任意取得」であったのに対し、
「全従業員」に「プッシュ型」で支援することが推奨されたことは、大きな変化であり、より実効性を高めるポイントであると言えます。
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仕事と介護の両立支援「両立の専門家」/「ビジネスケアラー 」著者/経営者
30年以上母親の介護を行い、その間オランダと日本を行き来する遠距離介護も経験。
経営層から社員向けまで企業で多数セミナー、研修実施。ビジネスパーソンとしてのリアリティがあり、わかりやすく印象に残る研修で、満足度、理解度ともに90%超。
酒井 穣(サカイ ジョウ) 株式会社チェンジウェーブグループ 取締役・創業者
対応エリア | 全国 |
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所在地 | 港区 |
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