同一労働同一賃金の真意
「働き方改革関連法」により、2019年4月1日から労働基準法改正が施行され、「時間外労働の上限規制」「年休5日取得義務化」「勤務時間インターバル制度の努力義務」が始まる。また、「同一労働同一賃金」の実現に向けて、パートタイム・有期雇用労働法、労働契約法、労働者派遣法も改正・施行される。リードタイムは企業規模により多少差はあるが、2020年を境にこれまでの労働基準法に基づく労働時間や有給休暇についての規制が大きく転換することになる。今回は「同一労働同一賃金」について考察したい。
「働き方改革関連法」による取り組みは、長時間労働を是正するという建前で報じられてきた。しかし「同一労働同一賃金」においては、結果的に雇用形態によって異なる現状の賃金体系の矛盾を改めて表面化させることになったのではないかと考えている。つまり、同じ業務に従事している者が"雇用形態によって異なる賃金で働いている"という現実に対し、整合性のある説明が求められ始めている。
昨今の労働市場、また人事制度においては、役割等級制度や職務等級制度など、役割や職務に対して賃金体系が紐付く仕組みを導入している会社が増えてきている。しかし一方で、未だ年功によって正社員の職務遂行能力が上昇するという前提に立った職能等級制度を前提として賃金体系を紐付けている企業も少なくない。これらの企業に対し「同一労働同一賃金」は、その職務内容に応じた成果基準の明確化と、成果基準に沿った評価を求めているとも言える。
これまでは製造業を主とする産業が日本を支えてきた経緯もあり、技術者や工員として、月日を重ね熟練することがその人の格を決めることに不自然は無かった。しかし、IT産業やサービス産業が産業の中心になっていくことで、年功的に熟練していくよりも新しいテクノロジーを知り活用できる事や、その人そのものの行動特性(コンピテンシーなど)によって仕事やサービスのレベルが変わる時代になってきている。そのため、"正社員として長く働くこと=能力の上昇"という構図が理に適わなくなってきていると言える。
このような時代の流れにより、雇用形態の異なる賃金体系の存在は"日本的雇用システムの歪み"となってしまったと言えるのではないだろうか。つまり同じ業務に従事している者が"雇用形態によって異なる賃金で働いている"という現実に対し、今まさに明確な整合性のある説明が必要になってきているのである。逆に言えばこれまで企業が、職務内容に応じて求められる成果基準を鮮明に示すことなく、配属、昇進を含めた人事を行うことができたということでもある。
前述の通り、年功制や職能等級制度は、従来からの日本の雇用システムの特徴の一つともいえる。しかし「同一労働同一賃金」により、"正規社員は年功によって職務遂行能力が上昇する"という前提に基づいた「職能給制度」が、昨今の労働市場においては如何に不合理であったのかを働く者に認識させることに繋がるだろう。また、今回の法改正による「同一労働同一賃金」の定着は、結果として企業において「職能給」から「職務給」に基づいた給与体系(職務給)の導入に大きくシフトしていく布石となると考えられる。
また、この「職務給」へのシフトは、契約社員・アルバイト等の非正規社員という雇用形態の労働者に対しての賃上げが起こるという問題だけでなく、正社員同士間でも同じ業務をしているのであれば雇用形態・地域限定社員・ベテラン・新人関係なくベース給が決定され、給与の差については役職・賞与・手当でつくようになるということでもある。更に、それぞれの職種により決められた評価制度の下で評価をされるのである。
未だ年功制、また職能的な考えで人事の仕組みを動かしている企業は、これから大きく働き方が変わることに繋がるだろう。また、採用から退職に至る労務マネジメントプロセスにも大きな変更をもたらし、「同一労働同一賃金」が定着した時には、長きに渡って定着してきた年功制や職能等級制度が崩れ、日本的雇用システムも姿を変えることになるだろう。
「同一労働同一賃金」の実現に際し、非正規社員の待遇改善に着手するにしても賃金水準を正社員に近づけるには大幅な人件費増を伴うことが考えられる。よって、正社員も含めた賃金バランスの見直しなど根本的な人事問題に踏み込む必要もあると言える。つまり、非正規社員の一方が立てば、正規社員の一方が立たない事態になり兼ねない。
このような事態にならないようにするために、賃金の是非だけでなく非正規社員・正規社員を含めた全ての労働者を対象に、企業が「同一労働同一賃金」という切り口から役割や職務、また成果をどのように定義するかを、まずは議論しなければならないと言えるだろう。
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