人事の定量指標
医学と人事の比較
私たちは自分が健康か否かを判断するのに、定期的に検診などを受けます。検診にはさまざまな種類があり誰しもが共通に受ける検診もありますが、性別や年齢によって追加されるようなものもあります。
検診を受けると結果はすべて数値で出てきます。この数値にはあらかじめ基準が決まっており、基準外であれば何かの病気を疑うことになります。このような体系的な数値管理が決まっている上に、最後に問診が行われます。検診結果の説明と自己認識を聞き、病気とほぼ断定できるのであれば治療方針について話すことになります。
このような健康診断は誰がやっても同じ結果が出て、基本的な治療方針なども医者によって変わることはあまりありません。分かりやすいか分かりづらいか程度の違いでしょう。
これに比べ人事の世界には、この健康診断にあたるものがありません。最近では人事データ活用などがブームとなっており、また以前から人事の見える化などのようなワードが広く使われていましたが、医学レベルのような合理的な数値から自社の状態を知るという状況には程遠いです。
自社の人事の問題課題を正確に知るためには、この健康診断的な指標が人事にとって必要になります。現在ではこれをインタビューやアンケートなどで行っています。医学に例えば問診のみで病気を特定し治療してしまうという状態です。医学のレベルで言えば人事管理は未だ江戸時代と言えるでしょう。
人事の定量指標
人事に健康診断的な指標管理を導入するためには、体系的で網羅的な指標を作成しなければなりません。またその指標によって診断された結果を集積しさらに診断のレベルを上げていかなければなりません。
このような人事の数字による指標管理は、個別の企業で行われている例もありますが数が非常に少ないです。またこのような研究を行う企業や研究家なども少数ながら存在します。人的資本管理は、数値指標は少ないですがこのような管理が必要であることを啓蒙するという意味で大きな意味があったのではないでしょうか。
人事管理は大きな2つの重要な機能があります。
ひとつめは企業戦略、計画を達成するための必要人材が揃っているかという機能(ポートフォリオ)です。
ふたつめは一年間により高い成果を出すための機能(パフォーマンス)です。このふたつが機能して初めて、経営戦略、計画に貢献する重要な部品と認識されます。
ポートフォリオの代表的な定量指標としては、人件費総額の妥当性を検証する労働分配率、業績と人件費が連動しているかを検証する連動性指標、人数の適正数を判断するための労働分配率、社員給与が労働市場と乖離していないかを判断する給与ベンチマーク分析、社員の能力を判断するための指標などが代表的なものです。
パフォーマンスの代表的な定量指標としては、まずは生産性です。
一年間の人事のパフォーマンスはこの生産性に現れます。最も重要な賃金生産性、そして労働生産性、人件費単価生産性この3つワンセットの重要指標です。そして労働環境という観点では数多くの指標があります。例えば在宅勤務率、労働装備率、有給取得率、育休取得率、女性活用のさまざまな指標などです。
さらにエンゲージメント調査の結果を定量化して評価をします。最後に健康や安全に関する指標も必須のものとなるでしょう。
このようにポートフォリオとパフォーマンスそれぞれの指標を設定し、毎年定点管理を行ない自社の状況を知らなければなりません。このような積み上げがあり初めて自社の定量分析が可能となります。問診はこのような検査結果の後に行うべきでしょう。
自社への導入
まずこのような定量管理を行うには、経営にとって人事が極めて重要な影響を与える管理領域だという認識を経営陣が強く持つことです。これがなければ負荷のかかる定量分析を行うことは継続しないでしょう。
次に最初は一般的な指標で分析を行い、次第に自社にあった分析にするために指標の追加修正削除を行わなければなりません。そしてこれが毎年のルーチンワークになれば人事管理のレベルは極めて高度になります。江戸時代から一気に現代へワープするようなものです。
実務的に懸念されるのは人事データを体系的に保持している会社が多くないということです。このような分析をする実務的な障壁は、データがない、不正確である、組み合わせなければならないといったものです。
単純に言えば人事のトータルシステムが導入されていない、または導入されていても運用ができていない企業が圧倒的に多いということです。定量分析を自社で定着させていくには人事の徹底的なシステム化が必要です。これは給与計算などの業務ではなく、経理で言う管理会計を行うためのデータ蓄積が必要だと言うことになります。
自社の人事機能が今のままでよいのかを問うています。人事が改善されれば企業が再成長すると強い信念を持ち、経営者と一体となって人事機能のレベルアップに取り組むことを直ちに実行するかしないかでしょう。そしてすぐに実行しない会社は将来も実施をしない可能性が高いのではないでしょうか。
YouTube番組 Dig Deep人事「再生への人事のマスタープラン」を参考に執筆

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林明文(ハヤシアキブミ) 合同会社HRMテクノロジー 代表

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