人事組織の再編成
現在の人事組織
現在ほとんどの企業の人事部門内部の組織は機能別に編成されている。例えば人事部の下に給与課、採用課、教育課、人事企画課という編成が一般的である。この組織編成はある意味効率的な職務遂行が可能だ。限定された業務を繰り返して行うため課長や課員は業務への習熟が早く、そのため効率性が増す。大量の業務を効率的に行うにはこのような機能別編成は効果的である。逆に人事部内でローテーションを行わなければ特定の機能をしかわからない社員が発生する。このような社員は年齢が増ますことによって再配置が難しくなり固定化してしまう。また全体を俯瞰して管理できるのは人事部長のみであり、課長を集めた会議等を行っても深まらない議論になってしまう。さらに評価の時に非常に困る。特に給与課などは給与を正確に計算して遅滞なく支払うことが普通であり、それ以上の評価はほとんどないだろう。確かに業務改善などでの貢献は評価に反映すべきだが、そんなにたくさんあるものでもない。要は普通にやって標準の評価であり、何かしらのミスをするとマイナスになる。標準以上の点が取れないのだ。教育課なども評価が難しい。研修の企画や準備そして実施を担当するが、教育研修の効果測定が困難であり、正確な評価ができない。このように機能別組織にするメリットとデメリットがある。
実務的なメリットデメリットは上記のようなものであるが、実は最も重要な論点は経営計画と連動しづらいということである。個別の機能に分けることによって経営計画との関係がわかりづらい。人事部門の社員の意識も経営に貢献するという意識よりも、実務を正確に行うという意識が圧倒的に強くなってしまう。経営計画の達成に貢献をしている実感が持てない。
経営計画と直結した人事組織
もともと経営における人事機能は2つの役割を持っている。第1に経営計画に必要な人員を揃えるという役割だ。経営計画を達成するためには、それぞれの組織で職種別レベル別の必要人数を把握しなければならない。そして現状の人員はそのまま配置するか、他部署へ配置転換をするか、子会社関係会社に出向させるか、退職勧奨するかを決めた上で、必要な中途採用社員の職種レベル人数を決め、新卒採用の職種別人数を決定する。そして当然社員にはレベル(等級)が決まっているが必要とされる能力を持っていることを保障しなければならない。このような管理を仮にポートフォリオ管理と呼ぼう。
第2は経営計画達成のための人材が揃ったら、期首から期末までの1年間の成果を最大化するというものだ。成果を最大にするためにはさまざまな手段がある。職場環境の改善、新たなシステムの導入、健康管理、ハラスメント対策、モチベーションサーベイを行ないモチベーションアップに必要な施策の実施、適正な評価を行う、適正な昇格降格、昇給降給行う、福利厚生の整備、そして人事制度の見直しなどである。これをワンセットで行うことによって一年間の成果を最大化するのである。これをパフォーマンス管理と呼ぼう。
経営に対する人事の役割が2つである以上、基本的な組織編成はポートフォリオ課とパフォーマンス課に分けることだ。大きな企業であれば人事部門の下にこの2つの部を設置するということである。こうすればいやでも経営計画に連動せざるを得ない。
2つの組織の担当業務
ポートフォリオの方は人材をそろえるという役割であるため、採用、退職、配置、教育の機能をワンセットで持っている。これをワンセットにすることによって、現在保有している人材を整備し、不足であれば社内外から調達し、配置する。この配置もローテーションなどキャリアプランをベースとして行う。そしてレベルに達してない社員に対しては教育をすぐに提供する。そして自己都合退職や定年退職と同時にパフォーマンスの低い社員に退職勧奨などを行う。また子会社関係会社との人材交流や育成のため出向などを行う。そして足りない人材は採用することになる。ポートフォリオの組織のKPIは人材の充足度と能力の保持度である。計画が要求している職種別レベル別の人材がさまざまな手段を使って100%充足できているか、またレベルにあった能力を持っているか。それを構成メンバー全員が意識をして行わなければ達成できない。ポートフォリオの合言葉は“戦力をそろえる“といえる。
一方パフォーマンスに関しては職場環境整備、評価処遇の運用、モチベーションサーベイによる各種施策の実施、人事制度の見直し、社員の健康管理などである。一年間の間で保有している人材がより高い成果が発揮できる環境を整え、そして適切な評価処遇を行うことが求められる。パフォーマンス組織のKPIは生産性である。賃金生産性、人件費単価生産性、労働生産性が向上することが目的だ。毎年の数値を毎年更新することが企業が継続的に成長することである。合言葉は“生産性を上げる”と言える。
このような経営計画と直結した組織編成に再編成すれば、構成メンバーは皆経営計画を意識せざるを得なくなる。縦割りの業務でやっていたものを、経営計画達成という観点で再編成すれば、それぞれの組織の中で必要な業務のコントロールを柔軟にできる。
人事部門が経営と直結していない原因はいくつかあるが、そのうちのひとつとして人事部門組織の再編成も極めて効果的であると認識すべきだ。
*YouTube番組 Dig Deep人事「あるべき人事機能とは」を参考に執筆
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