人事制度は世につれ、人につれ-「6つの基本要素」
本連載は、みのり経営研究所のホームページで2007年10月から2008年7月まで全10回掲載したものです。15年以上前の提言が今もまだ、確実に該当していることが驚きです。今回は第3回と第4回です。前回お話しした2つのキーワードを実現してゆく基本要素と、そのうちの最初の1つをご紹介しています。
「人事制度は世につれ、人につれ」
~これからの日本に必要な人事制度とは~
第3回 「6つの基本要素」
前回は、これからの安定低成長経済、少子高齢化社会が要請する新しい人事制度のキーワードを考察しました。一つ目のキーワードが「経営と直結し、経営戦略の達成を支えてゆくことのできること」、二つ目のキーワードは、「社員が生き生きと気持ちよく働くことのできる環境を提供できること」でした。
これからはこの2つのキーワードを兼ね備える人事制度とは、いったいどのようなものなのかを見てゆきましょう。まずは、これらのキーワードが要求する、人事制度の6つの基本要素を考察してゆくことにします。
一つ目の基本要素は、「経営戦略を支える人事戦略を持つ」ことです。低成長時代を乗り切ってゆくための知恵の結晶が経営戦略です。その達成を支えてゆくためには、経営戦略に直結した人事戦略を人事の知恵の結晶として持っていることが必要です。
そして二つ目の基本要素は、「経営戦略を支える組織構造/役割に根ざしている」ことです。組織構造は、経営戦略を達成するのに最適と考えられる形で設計されるはずです。そして、入れ物としての組織構造の中には、その中身としての役割が分担されます。会社はこの構造、この役割で安定低成長経済の中で戦略を達成しようとしているわけです。人事制度は、まさに、いかにこれらの役割にやる気のある人を配置し、その役割を全うしてもらうかということを通して、経営戦略達成を支えて行くことになります。
三つ目の基本要素は、「生き生きと働くための長期的なキャリアが見えている」ことです。我社にはこういうキャリアパスがあり、こういうキャリアの可能性があるということが提示されていることによって、自分の人生を積極的に組み立ててゆくことが可能となり、生き生きと働くための源泉となります。
四つ目の基本要素は、「やった仕事の全体がきちんと評価されて、気持ちよく働くことができる」ことです。現在一般的に言われている「成果主義」では、数値結果のみで仕事の出来栄えを評価してしまう会社が多くあります。その結果、財務的な数値目標を持っている人はノルマ的に数値ばかりを追いかけざるを得なくなり、一方、間接部門のような財務的な数値目標のない人たちは、本来、質的な向上を期待されている仕事にもかかわらず、無理やり意味のない数値目標を立てて、その結果で評価されるようなことが起こっています。これでは気持ちよく働くどころではなく、単に数字に振り回されているだけです。その人の担っている仕事、役割の全体がきちんと把握されていないと、やった仕事の全体をきちんと評価することはできません。自分の仕事全体の出来栄えがきちんと評価されれば、気持ちよく仕事に励むことができるはずです。
五つ目の基本要素は、「生き生きと働くために安定的な経済基盤が提供できる」ことです。少なくとも基本的な給与は安定していなくては、安心して働くことはできません。安心して働くことができなければ、生き生きともできないし、ましては気持ちよく働くことも不可能です。
そして最後の六つ目の基本要素とは、「お金のみならず、精神的な充足をも考慮している」ことです。バブルの時代、とにかく給与が高ければ、良い生活ができ精神的な充足もついてくると考えていた節があります。そして、人を蹴落としても出世しよう、部下を育成する時間があったら自分の数値目標達成に走り回ったほうが良いというようなことがありました。会社はギスギスし、その後の不況期にさらに追い討ちがかかりました。社員が生き生きと気持ちよく働けるようにするには、色々な価値観を持つ人が色々な働き方で、自分らしく働けることが必要です。
以上、今回は6つの基本要素の全体を見てみました。次回からは、各々の基本要素がどのように具体的な制度に落とし込まれるのかを順を追ってみてゆくことにしましょう。
第4回 人事の知恵の結晶:人事戦略
前回は、これからの人事制度に必要な六つの基本要素とは何かということを考察しました。今回はその中の一つ目の基本要素である、「経営戦略を支える人事戦略を持つ」制度に関して、具体的にはどのようなものなのかを考えて見ましょう。
人事制度の出発点として人事戦略があり、人事戦略の親として経営理念・経営戦略がある。この繋がりがあってはじめて、わが社の人事制度はなぜこういう制度なのかを社員にはっきりと説明することができます。ところが、これまで20年間、人事制度のコンサルティングをやってきた中で、この繋がりを明確に持っている会社は本当に少数でした。これからの低成長時代に社員の力を結集して経営戦略を達成してゆくためには、どうしてもこの繋がりが重要になってきます。
経営戦略から人事戦略を導き出し、その人事戦略に則って人事制度を構築する。これによって、個々の具体的な制度となったときにも、最終的には経営理念、経営戦略とつながっていることが担保できます。怖いのはその時々の経済情勢や経営状況によって個別の制度を変更せざるを得ない場合です。例えば人件費を変動費化させたい、プロセスの評価を入れたいと言った時です。その変更は経営戦略、人事戦略のどこから出てくるのか、その繋がりを時間的制約などによって検証するのを忘れてしまうことがあります。個々の制度がどう経営につながっているのかを常に意識しておくことで、経営と直結した人事を確保することができます。
まず、出発点が押さえられていること、これがなによりも大切です。
それでは、経営戦略を支えることの出来る人事戦略はどうやって見出してゆけば良いのでしょうか。それには、まず我が社の知恵の結晶である中長期経営戦略を見て、それが「人」に関して何を必要としているのかを抜きだすことです。つまり、経営戦略を人事の言葉に翻訳すると言う作業をするということです。例えば、経営戦略で「5年間で店舗数を20%増加する」ということが出ているとします。そうすると、この戦略目標は「人」に関してどのような手当てを必要としているのかを考えます。まずは店舗数が20%増加するのであれば、これらの店舗の店長をどこで探すのか? 労働市場で探すのか、それとも社内で育成するのか?そして、新店舗の店員はどのような人材が必要なのか等々、人に関しての多くの要求が見えてきます。これらを総合して、まず、これからの中長期の期間にどのような視点で人材を育成し、動機付け、戦略達成を支えるかについて骨太の方針を出します。そして、この骨太の方針に沿って、採用や報酬と言った個別分野の戦略を立ててゆきます。
このようにして、経営戦略を支える人事戦略が生まれ、この人事戦略を出発点として、制度全体を設計してゆきます。これによって、個々の制度が常に経営戦略を支えていると言うことが担保され安心することができます。
以上、今回は1つ目の基本要素を具体的に見てみました。次回は2つ目の基本要素である、「経営戦略を支える組織構造/役割に根ざした」制度とはどのようなものかについて考察します。
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職務・役割を軸とした人事制度設計を中心に、25年以上のコンサルティング経験
齋藤 英子(サイトウ エイコ) 株式会社 みのり経営研究所 取締役
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