いまなぜ「DE&I」に取組まなくてはいけないか
はじめに
今回のコラムでは、Diversity, Equity, and Inclusion(DE&I)がなぜ今求められているか、そしてDE&I推進による効果と効果を得るための注意点ついて述べたいと思います。
なお、本文中の意見に関する部分については、筆者の私見であることをあらかじめお断りいたします。
Chapter1: なぜ今DE&Iが求められているか
EUでは域内上場企業の全取締役に占める男女それぞれの最低割合を33%以上とすることを2026年までに法制化する等、海外ではDE&Iに関する取組みが進んでいます。また、日本でもコーポレートガバナンス・コードにおいて、中核人材における多様性の確保が要請され、有価証券報告書においては女性管理職比率や男性育児休業取得率、男女の賃金差異の開示が義務づけられる等、DE&Iに取組むことは企業にとって避けられない状況となっています。
そのような外部環境の中、実際にDE&Iに取組む企業も増えてきていますが、投資家向けの情報開示がDE&I推進の目的となっている企業も多くなっているのではないでしょうか。
しかし、DE&Iは外部からの要請に応じて取組むものではありません。DE&I推進の本来の目的は企業価値(財務パフォーマンス等)の継続的な向上であり、各企業はどのようにDE&Iを自社の企業価値向上に結びつけるかを検討することが重要になります。
本コラムでは、DE&I推進をどのように企業価値向上に紐づければ良いかについてのヒントを示したいと思います。
Chapter2: DE&Iとは
まず前提として「DE&I」とはなんでしょうか。
DEIはそれぞれ、「D」は「Diversity-多様性-」、「E」は「Equity-公平性-」、「I」は「Inclusion-包括性」という意味です。
それらをまとめたDE&Iの意味とは、目に見えるもの・見えないものを含む様々な多様性を認め、受け入れ、全ての人が個性を発揮して活躍できる環境を作り出すことだと考えています。
しかし、DE&Iと聞くと日本では「女性活躍のことだよね」という反応をされることが多いかもしれません。確かに日本は海外に比べて女性活躍において後れを取っており、優先的に取組むべき事項なのは間違いありません。しかし、DE&Iは女性に限らず、さまざまな多様性を含む概念です。DE&Iを検討する際には、女性以外の属性にも目を向ける必要があることを忘れてはいけません。
まずはこのようなDE&Iの概念を理解したうえで、自社でどのような取組みを行うべきなのか検討していく必要があります。
Chapter3: DE&Iを推進することによる効果
では、DE&Iに取組んだ先に得られる効果とは何でしょうか。
DE&I推進による分かりやすい効果は新たな視点の獲得です。同じような考えの人間が集まって議論する場合より、多様な人間が異なる角度から議論したほうが、新しい視点や学びを得ることができるのは想像に難くないでしょう。新たな視点を得ることができれば、既存の事業にとっては閉塞感を打破するきっかけとなり、新規事業の種になることもあるため、DE&I推進は事業にとって好影響を与えます。
また、DE&Iの推進によって、個性が認められ、発揮できる環境を構築すると、社員がモチベーション高く働くことができるため、社員一人ひとりのパフォーマンス向上(人材価値の向上)に繋がります。また、そのような職場は自社の社員にとって魅力的に映り、離職率が下がるだけではなく、社外から優秀な人材を獲得しやすくなります。
このようにDE&Iの推進は事業の強化、人材価値の向上、優秀な人材の維持・獲得という観点で企業価値の向上に貢献します。
Chapter4: DE&I推進を企業価値向上につなげるために
DE&I推進はここまで述べてきた通り、大きな効果を生みますが、成功させるためには注意すべきポイントがあります。
1つ目のポイントは、多様性を確保するうえで、自社・事業にとって中心となる軸を明確にするということです。多様性とは遠心力のようなもので、放っておけばどんどん広がっていきますが、それでは企業としての色が薄れてしまいます。そのため、多様性を束ねる求心力のようなものが必要で、企業ではパーパス・企業理念等が該当します。また、各事業では事業に沿った多様性を確保することが重要です。例えば、新しいゲームを開発するチームを組成する際に、外国籍または不足している性別のエンジニアやゲームのヘビーユーザー、マーケティング担当者、デザイナー等を集めることはゲームを作るという目的に合致した多様性を確保しているといえますが、国籍や性別を考慮したとしても人事・総務担当や財務担当等をメンバーに加えることは目的に沿わず、議論が迷走するだけで得られる効果は薄く、デメリットのほうが大きくなってしまいます。
大事なのは、組織・事業目標に合った多様性を確保するということで、やみくもに多様な人材を確保することはむしろ組織や事業にとってマイナスに働いてしまうでしょう。
このように、自社・事業にとって中心となる軸を明確化し、そのうえで多様性を発揮させることがDE&Iが効果を生むためには重要になります。
しかし、いくら多様性を確保しても個性が発揮されなくては意味がありません。
そのため、2つ目のポイントは、社員が個性を発揮できる組織風土を構築するということです。そのためには管理職の意識の変革が不可欠です。多くの管理職はこれまでのキャリアの中で成功してきた経験があるため、無意識に自分の仕事の進め方が正しいと信じ、それを部下にも押し付けようとしてしまい、部下の個性を抑えつけてしまっています。しかし個性を発揮させるには、管理職自身にも見えていないものがあることを認識し、これまでの成功体験に基づく仕事の進め方に固執するだけではなく、時には部下の意見も取り入れながら進め方を変えるような柔軟なマネジメントが求められます。しかし、管理職の意識変革は難易度が高く、組織風土の変革は容易ではありません。DE&Iの効果を得るには時間をかけてでも取組む覚悟が必要です。
Chapter5:DE&I推進のリアル
筆者もコンサルタントとしてDE&I推進を支援してきましたが、やはりDE&I推進は容易なことではないと感じています。ご支援する中で、最も難しいと感じるのは、推進する人事側と現場との温度感に大きなギャップがあるということです。
現場の管理職層の方とDE&Iについてお話しすると、「そもそもDE&Iってなんだっけ?」「なんでやらなくちゃいけないの?」「会社が言っているからやるけど正直面倒だ。」といった反応が大半です。
正直多くの企業でこういった反応がリアルだと思います。推進側はこのような現場の反応を前提として取り組むことが求められます。
現場の方々の意識を変えるにはまずはD.E.Iとは何か、なぜそれが必要かを理解させることです。理解が進まなくては同じ目線で話せません。そのために、研修は当然効果的ですが、経験上それだけでは足りません。巻き込む必要のある関係者に対しては直接説明する時間を取り、関係者の理解度に合わせた説明を根気強くしていくことが重要です。
そして、実行に移す段階では、トップ、そして管理職層のコミットメントが欠かせません。
しかし、いきなり全ての管理職層を巻き込むのはなかなか難しいでしょう。筆者としては、DE&I担当といった形で役割を与えるのが良いと考えています。人は役割を与えられると全うしようと考えますし、特に日本人はその傾向が強いと感じます。一気に全員のコミットを得るのではなく徐々に波及させていくという進め方もこのようなテーマでは効果的です。
これらの筆者の経験が、DE&I推進のヒントとなれば幸いです。
Chapter6: 最後に
冒頭でも述べましたが、多くの企業は外部からの要請によりDE&Iに取組もうとしており、DE&Iになぜ取組まなくてはいけないかというWhyを通り過ぎて、いきなり何に取組むかというHowの検討をしている印象を受けます。しかし、Whyがなくては社員を巻き込むことはできず、DE&Iを浸透させることはできません。そして、そのWhyは企業にとっては企業価値(財務パフォーマンス等)の向上であるべきだと考えています。DE&Iと財務パフォーマンスの正の相関を裏付けるデータは様々ありますが、そういったデータも活用しながら、自社ではどのようにDE&Iが財務パフォーマンスにつながるかというストーリーを検討することが重要です。
このコラムがDE&I推進の意義・目的をあらためて考え、取組むきっかけとなれば幸いです。
執筆:信田直人
監修:KPMGコンサルティング
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