働き方改革の主戦場は長時間労働削減にあり
長時間労働が疑われる企業に対して、労働基準監督署が実施した監督指導の令和3年度結果が、このほど公表されました。
それによると、対象全体の74%で時間外・休日労働や未払残業などの法令違反が見られ、是正勧告により100万円以上の未払残業代を支払った企業数は、前年度を僅かにも上回る結果となりました。
日本の年間の総実労働時間数は、この30年ほど減少傾向と言われています。しかし、主な要因は、パートタイマー比率の増加による短時間勤務の総時間減少にあり、正社員の総労働時間は1900~2000時間の幅で横ばいのままです。
近年の過重労働対策や働き方改革によって、長時間労働への規制が進みつつある一方、いわゆる現役世代の減少に伴う人手不足が続く状況下では、労働者個々にかかる業務負担はこれまでと変わらぬばかりか、増える傾向にさえあります。
有給休暇や育児介護休業の取得促進、テレワークの推奨といった、昨今のポジティブな取組みが逆に、現場に残る従業員の長時間労働化に拍車をかけかねない状態では、本当の意味での働き方改革とは言えません。
あらためていま、現場を長時間労働にさせないための、企業としての取組みが求められています。
例えば、社内規定で全体の労働時間を減らすとか、精緻な勤怠管理システム・柔軟な労働時間制度を導入して解決できる、という単純なものではありません。
見直すべきは、まず「業務全体の量」であり、その中身や従業員の仕事の仕方といった「業務の質」や「マネジメント」にまで踏み込んだ検討が不可欠です。
つまりは「業務の効率化と生産性の向上」ということになりますが、法制度で一義的に解決できるものではなく、企業の個別環境や経営判断に大きく依存する部分であり、ここがまさに「働き方」改革としての、本来の主戦場なのです。
労働時間削減に成功している企業事例を見ると、おおむね以下の3つのプロセスを踏まえたものになっています。
(1)「経営トップ」がリードして労働時間削減の方針を明確にし、必要な体制づくりをしている
(2)業務量と投下時間について「可視化」できる仕組みがある
(3)「管理職」が部下の能力・適性に応じた業務の差配を行い、継続的なコミュニケーションを通じて進捗管理ができている
詳細は別稿に譲りますが、こうした改善行動を促すための人事評価制度の整備も含め、企業マネジメントの再考が鍵を握るのは間違いありません。
長時間労働によるリスクは至るところに潜在しています。
冒頭の行政官庁による監督指導・是正のほか、従業員側からの賠償請求、メンタルヘルス不調による休職・退職などの企業防衛上のリスクにとどまりません。
生産性の低下はもとより、人材定着や採用の観点でも、残業が常態的にある職場環境は好まれず、就職先として選ばれない傾向が強まっています。
持続的な競争優位と企業価値向上のために「人=資本」とみる、これからの企業経営のあるべき姿を考えるとき、求められるのは、「ひとりひとりの働き方をしっかり見る」という原点に立ち返る姿勢ではないでしょうか。
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古崎 篤(フルサキ アツシ) アクタスHRコンサルティング(株) /アクタス社会保険労務士法人 人事コンサルタント
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