「タイパ」から見る現代社会と若手への育成アプローチ
新型コロナも5類へ移行となり、いよいよ日常が戻りつつある。コロナ禍を経て、間違いなく人々の生活や行動様式は大きく変わってきた。
昨今よく話題にあがる「タイパ」をキーワードに、企業人事コンサルタントの観点から、どのような形で、企業の次世代を担う若手に対する育成に取り組むべきかを考察したい。
「タイパ」から見る現代社会の特徴
皆さんはニュースや雑誌などで「タイパ」という言葉を一度は目にしたことがあるだろう。三省堂が発表した「今年の新語2022」にも選ばれているこの言葉は「タイムパフォーマンス」を略したもので、「費やした時間に対する満足感」のことをいう。映像コンテンツを倍速視聴で見るなど、「とにかく無駄な時間をかけたくない」というZ世代の特徴ともされる言葉である。
動画などの映像コンテンツ自体は今や日常に溢れかえっている。通勤時あるいは余暇の時間など、少しでも時間ができれば動画視聴に充てる、という人も少なくないだろう。これはZ世代に限らず全世代的な特徴であり、倍速視聴自体も、多くの世代が実行している。
この是非は置いておくとして、言えることは、多くの人がなるべく短い時間で多くの情報を取得しようと試みていることだ。
本来、表情や発した言葉の奥にある意味などを解釈し、ストーリーを味わうことが楽しみの一つである映画でも倍速視聴をするようになってきているとのことだから、情報として効率よく収集したい内容のものならばとりもなおさず、である。
それだけ、情報が世の中に溢れておりその中で適切に取捨選択をしたい、そしてとにかく効率よく行いたい、と考えているようだ。そのためのタイパ重視、である。
特に今の若手は、物心ついた時からスマホが身近にある状況で育ってきているので、その特徴は「スマホネイティブ」、「動画ネイティブ」(な生き方)と言える。私が担当する研修の時でも、趣味を聞くとおおよそスマホを活用したゲームか動画視聴である。
スマホや動画にどっぷり浸かっている中で「(途中で)セーブする」、「中断する」行為、あるいは「自分が『かったるい』と感じるところは見ない(飛ばす)」行為は、かなり当たり前になっていると思われ、もはや意識すらしていないかもしれない。
興味のあるものに、興味のある時に、興味のあるところだけ、そして興味が続く分だけ、時間を捧げるというような感覚だろうか。それ以外は「無駄なこと」として排除されかねない。
若手に対して必要な育成のアプローチ
とにかく「タイパ」に基づいた「時短」が必要そうなこの時代に、どのように若手の育成をしていくべきだろうか。
まず、育成の認識そのものを変えていこう。育成とは、もともと「育て上げる」や「立派に育てる」という意味であり、育てたり与えたりする側の視点に立った言葉(育てて成す)である。しかしこれからは、育成とは「『育つ環境づくりで(自らが)成していく』支援をする」という考え方のほうが適切である。
今の若手は、基本的には真面目で優秀だと感じる。研修時のワークなどの取り組みを見てもそう言って差し支えない。そして若手は、情報が身近にたくさんあり、なんでも調べればすぐに分かる時代を過ごしてきており多くのことを知っている。さらに、与えられた機会にはしっかりと応えよう、返そうとすることは多いのである。
一方で、興味を引く方法は工夫する必要がある。「(成していく)支援をする」というのは具体的にはこのような要素を指している。
一つ目の工夫として、研修場面などでもヒントを与えながら自分で考えさせることが大切である。ダラダラと教えないことが重要で、ベテランほど教えたがったり、伝えたがったりする傾向があるので、コンテンツ作りや伝え方そのものの見直しが必要になる。
二つ目は、育成計画あるいは研修場面において、シナリオの波(インパクトのある個所)をよりうまく作ることである。おそらく「つまらない」「興味がない」と感じた瞬間に、例えば研修中に目は閉じないにしても耳は閉じてしまうだろう。これは実は若手だから、ということでもなく、人間として興味がわかないもの・刺激が少なく一定のものには意識が向かなくなることは当然で、人間心理からのアプローチもより重要になる。
そして他の支援の要素としては、ゲーム性を持たせるなどして育成の継続性・持続性を高める取り組みや工夫も必要である。例えば、レベルアップしていく記録が見える、あるいは継続したことがスタンプされて可視化されるといったような、ゲーミフィケーション的な考え方である。これも人間心理からのアプローチとなるが、取り組みそのものを飽きさせないような工夫が求められる。
当然、仕事においては困難に立ち向かうこと、慣れないことにも取り組み続けること、そのための忍耐や我慢、型の習得といったことは必要になる。しかし、「言われた通りやれ」、「先輩たちも通って来た道だ」ということだけを最初から押し付けられたとしたら、昔とは違いほとんど理解や納得は得られないだろう。
アプローチは他にも様々あるだろうが、少なくとも若手にとって「自分たちでコントロールできている」、「進むことができている」という感覚をしっかり持たせることが重要だと思われる。そして「タイパ」でいう「時間あたりの満足感」を高める考え方は、これまで以上に、育成を担当する側も意識する必要がある。
これからは、ここまで見てきたような「育成の設計」がますます重要な時代になっていく。ぜひ一度、会社に浸透している育成方針や計画を見直してみてはいかがだろうか。
参考記事・書籍
1)Web労政時報 Point of view第222回「変化の時代」に必要な若手育成に対する考え方とは:辻村尚史
2)「映画を早送りで観る人たち」ファスト映画・ネタバレ-コンテンツ消費の現在形:稲田豊史 光文社新書2022
【コンサルタント紹介】
辻村 尚史 つじむら ひさし
株式会社日本コンサルタントグループ 情報産業研究所 コンサルタント
筑波大学大学院、グロービス経営大学院修了。フィットネスを軸としたサービス事業会社にて店舗運営、営業、企画や人事を経て、現職。現在は企業人事・組織開発を中心に現場経験と理論を交えた、相手の目線に立ったコンサルティングや研修に精力的に従事。
担当実績
・大手建設会社(新入社員、若手社員向け研修)
・大手電力会社(新入社員、若手社員向け研修)
・大手電気設備会社(キャリアデザイン)
・大手GMS会社(OJT研修)
・大手食品メーカー会社(インバスケット)
・その他実績多数
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