「グローバル人事」はBuzzwordか?
「グローバル人事」という言葉が人事の世界で流布するようになったのはいつ頃からでしょうか。正確な時期は分かりませんが、振り返ってみると、おそらく2000年代の半ば辺りからではないでしょうか。ちょうど日本の人口減少が統計的な数値からも明らかになり、国内のみでの成長の限界が裏付けられたことで、これまで海外を主要なフィールドとしていなかった多くの企業が持続的な成長のために海外に目を向け始めた時期に重なるように思われます。同時期にはビジネス雑誌などを中心に「グローバル人材」の育成の必要性が叫ばれ、こちらはすっかり一般名詞として世の中に定着した感があります。
「グローバル人材」に比べると「グローバル人事」は企業で人事に携わっている方々の間に限定された用語でしょう。それでも人事の世界でのトレンドが様々に変化し、多くの目新しいコンセプトが生まれては消える中、今では当たり前になった「成果主義」や「コンピテンシー」と同じように、「グローバル人事」もこの約10年で一般用語になったと言って良いと思われます。まだまだ、人によって捉え方が様々で定義があいまいな部分がありつつも、先行して取り組んだ企業の事例も多々出回るようになり、取り組みの実を挙げた成功事例も見受けられます。これから取り組もうとされている人事部門の方々にとっても研究材料には事欠かない状況といえます。
更には「グローバル人事」に関しては海外企業の事例や学術的な研究事例も多分に活用が出来そうです。よく「グローバル人材」はグローバルでない日本人特有のコンセプトであり、従ってそれに相当する英語は無いのだ、という話を聞きます。一方、「グローバル人事」については少なくともそのコンセプトは日本以外でも存在しています。私が通っていた米国の大学院の中には”Global HR & Diversity”なるクラスがあり、留学前に事業会社の人事部門でそうした領域にも触れていた私は喜び勇んでそのクラスを履修しました。その時の教科書うちの1冊がいま手もとにありますが、”International Human Resource Management”※というタイトルです。改めてそのページを繰ってみるとグローバル企業における育成や評価、報酬、さらには人事機能のあり方など幅広く、一般に「グローバル人事」という言葉の中で語られるカテゴリーをカバーしており、海外企業においても現在の日本企業と同様、グローバル環境下での人事マネジメントに課題を有しているであろうことが分かります。こうしたことから「グローバル人事」はもはや実態の伴わないBuzzwordなどではなく、グローバルに事業展開する企業にとっては極めて実際的かつ重要な取り組みと言えます。
この10年で日本においても「グローバル人事」に取り組むべき企業の範囲は更に広がったといってもよいでしょう。その一方、全ての企業が先行した大企業と同じ「グローバル人事」の姿を目指す必要はない、ということも徐々に明確になりつつあります。そこでこのコラムでは「グローバル人事」の文脈の中で取り上げられる様々な制度・施策等について、EYアドバイザリーでのクライアント企業への支援の事例などにも触れながら、その基本的な考え方や実際に取り組む際の論点等をご紹介していきたいと思います。初回のテーマは「グローバル人事のロードマップ」を予定しています。
※Peter J. Dowling, Marion Festing & Allen D. Engle, Sr., "International Human Resource Management" (2009)
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グローバルの視点から、経営戦略の実現に資する組織・人事のあり方を探求。
日系エンジニアリング会社の人事部勤務の後、現職。
グローバル人事戦略/実行計画の策定、海外拠点向け共通人事制度導入、現地法人の組織体制変革、グローバルモビリティポリシー策定など、企業のグローバル化を組織・人事の側面から支援。
山田 俊輔(ヤマダ シュンスケ) EYアドバイザリー株式会社 マネージャー
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