【第24回テーマ】
「経営人材」を生み出すために人事部門は何をすべきか
~サイバーエージェント流“人材の成長を促す”人事制度とは~
2013年7月26日(金)に、第24回『日本の人事部』HRクラブを開催いたしました。今回のゲストは、株式会社サイバーエージェント 人事本部 採用育成部 部長 膽畑 匡志(いはた・まさし)氏。前半は、同社が「どのように人材を抜擢(ばってき)し、成長を促しているのか」「いかにさまざまな制度を浸透させる施策を行ってきたのか」について、事例を交えながら、膽畑氏が詳しく解説。後半は参加者がグループにわかれて、経営人材の育成をテーマにディスカッションを行いました。本レポートでは、当日の模様をダイジェストでご紹介いたします。
【第24回 開催概要】
- ■ テーマ
- 「経営人材」を生み出すために人事部門は何をすべきか
~サイバーエージェント流“人材の成長を促す”人事制度とは~ - ■ 開催日時
- 2013年7月26日(金)18:30~20:30
- ■ ゲストスピーカー
- 株式会社サイバーエージェント 人事本部 採用育成部 部長 膽畑 匡志(いはた・まさし)氏
- <膽畑 匡志氏(いはた・まさし) プロフィール>
- 慶応義塾大学経済学部卒業後、2001年に株式会社サイバーエージェント(以下CA)入社。 インターネット広告代理事業の営業部門に配属となり、営業マネージャー、営業局長、営業部門統括を経て、CA子会社として 2006年に株式会社シーエー・エイチを設立し代表取締役社長に就任。 2012年7月からCAの人事本部に移り、現在は採用育成部の部長を務めている
サイバーエージェントが重視する「人の成長を促す上で、重要なポイント」とは
講演はまず、サイバーエージェントが現在置かれている経営環境の話からスタートしました。同社は、「Ameba」やソーシャルゲームなどのメディア事業(B to C)と、広告代理業や投資育成事業(B to B)を柱としてビジネスを展開してきましたが、2年前、「Ameba」をスマートフォンプラットフォーム化していくという方向に、会社として大きく舵(かじ)をきったそうです。スマートフォン分野で、2年で100個の新規事業立ち上げるために、新しい責任者を多く輩出すること。若くても、経験が浅くても、とにかく任せていくことが必要だったと膽畑氏はいいます。
「有能な社員が長期にわたって働き続けられる環境を実現。若手の台頭を喜ぶ組織で、年功序列は禁止」――これは、サイバーエージェントが掲げるミッションステートメントですが、同社は多くの若手人材を実際に抜擢しています。たとえば、新卒1年目で社長に抜擢された社員が3名いたり、新卒4年目の社員の管理職比率が30%に達していたりするなど、社風そのものが、事業を任せられる人材を育てていくカルチャーなのです。
次に、サイバーエージェントが「人材の成長を促す育成」を考える上で、重視している三つのポイント(大きな志、意志表明、決断経験)についてお話しいただきました。一つ目の「大きな志」は、その人材の志のスケール感が任せているサービスにも影響するので、志が大きな人材に、事業を任せていくというもの。二つ目の「意志表明」は、本人の“本気度”をみるために重要な基準で、自分のやりたいことや夢、想いをブログなどで表明できる社員が、一番抜擢しやすいとのことです。三つ目の「決断経験」は、決断の場を多く経験することが、その人の成長につながるという考え。経営にかかわる場に、いち早く人材を抜擢して責任を任せ、経営者としての決断を未熟ながらもどんどん積ませることが、経営人材への一番の近道だと考えているそうです。
続いて、「挑戦と安心はセット」の考え方についてご紹介いただきました。任せた事業がうまくいかなくても、決断経験を多く積んできた社員は、会社として非常に貴重な人材。セカンドチャンスを与えるなど、安心して働ける制度を作っていかないと社員がチャレンジする気持ちを持てなくなるので、「挑戦と安心」は、人事制度を作る時には常にセットで考えるといいます。
社員のやる気に火をつける!サイバーエージェント流 人事制度
サイバーエージェントでは、工夫を凝らしたさまざまな人事制度を実施していますが、他社からの注目度が高い制度として、次の二つが挙げられます。
■ジギョつくNEO
内定者から経営幹部まで、誰でも参加できる新規事業プランコンテスト。書類審査を通ると、全役員にプレゼンテーションすることができ、優勝者には100万円が与えられる。また、優勝者は事業責任者に任命される。
「ジギョつくNEO」を実施する上でのポイントは、すべての役員がプレゼンテーションの審査員を務めるところだそうです。「会社の本気度」が伝わってくるだけでなく、役員からしっかりとしたフィードバックがもらえることが、社員にとってまた応募しようという動機になるといいます。
制度をスタートさせた当初は、30件ほどしか応募がなかったそうですが、ある時期から300~400件ほど集まるようになったのも注目すべき点。これは、当時のジギョつく担当者が、現場の社員に何度も会いに行って、応募をお願いしたことが理由だそうです。また、役員から社員へ、応募書面の書き方や経営企画書の作り方をレクチャーしてもらう場を作るなどの仕掛けも行ったといいます。
■あした会議
役員対抗の新規事業バトル。7名の役員それぞれが、4~5名の社員を社内で指名し、ドラフト方式で自分のチームを結成。1泊2日の合宿で、1チーム3案の新規事業アイデアを出す。
結果順位が社内外に公表されるなど、シビアな面がある一方、役員自身が知恵を絞って頑張っている姿を見せることで、社内の活性化にもつながっているそうです。また、あした会議のチームに呼ばれることが、社員のステータスになるともいいます。役員が参加しているので、アイデアの実現率が高く、新規事業が多く立ち上がるため、事業責任者を輩出する仕掛けとして、成功している制度とのことです。
その他にも、同社では、内閣改造型・役員交代制度「CA8」や若手エンジニアの技術コンテスト「Rookie Engineer HACK」、個人に光を当てる「社員総会」など、社内を活性化させ、社員のやる気に火をつけるような制度を数多く行っています。
制度作りでは、企画より運用が重要~「運用8割」の教え
制度を作っても、社内になかなか浸透しないという悩みを抱える人事担当者は多いでしょう。膽畑氏は「制度の企画そのものよりも、それを実現に持っていく運用の方がはるかに大事。私たちは、『運用8割』を心掛けて、常に制度作りを行っている」といいます。実施するからには、浸透するまで徹底的に行う――前述のジギョつく担当者のエピソードのように、何度も現場にアプローチする、その運用力の“たまもの”が制度の最終的な成果につながるのだそうです。
制度作りでは、「シラケのイメトレ」も重要とのこと。何か新しいことをすると、必ず、どこかで誰かがシラケるものですが、サイバーエージェントの人事では「この制度を実施すると、誰がシラケるのか?」「どこでシラケが発生するのか?」を常にイメージトレーニングするといいます。放置していいものか、対処しなければならないものかを徹底的に考える。その制度が本当にうまくいって、はやるイメージが持てるかが極めて重要だそうです。
最後に、「新しい制度を作る時に重要な三つのポイント」について、詳しくお話しいただきました。
(1) 成果の定義
「制度の成果をどのようにはかるか」を定義することは、とても重要。定量化できないものに関して、同社では「セリフメソッド」を判断基準にしているといいます。たとえば、社長や役員から「最近作ったあの制度は、本当に活性化しているね」というセリフが出てきたら、この制度は成功といえるなどと、決めているそうです。
(2)ササる言葉
どんなにいいアイデアや制度でも、社員の頭に残るものでなければ、社内では浸透しない。大きな組織や多くの社員を動かすためには、“ササる” 言葉やキャッチコピーが必要とのこと。
(3)運用の徹底
制度は作ってからが勝負。作って2割完成、そこから「運用8割」で成果を出すまで進めることが、はやる制度の作り方ではないかとのこと。
サイバーエージェントが実施する、工夫を凝らしたさまざまな制度について、具体的な内容や運営のポイントなど詳しく聞くことができ、参加された皆さまの満足度は大変高かったようです。
サイバーエージェントの取り組みを聞き、参加者同士が感じたことを共有
続く後半では、4~5人ずつのグループに分かれて、「経営人材育成のために、自社でどんな取り組みをしているか」「どのようなことが課題だと感じているか」といったテーマで、ディスカッションを実施。膽畑氏もディスカッションに参加し、人事担当者の皆さまと意見交換を行う場面があり、より具体的な情報のシェアの場となったようです。
ディスカッション後は、チームの代表者にディスカッションの感想について発表していただきました。「経営人材を育てるには、配置が大事だと思った」「制度の成果をどう定義するか、もっと突き詰めて考えなければいけないと感じた」といった意見が挙がりました。
最後に、膽畑氏から「人事の仕事はいろいろな矛盾に挟まれることが多いが、大事なのは、経営と現場双方の意見の“and”をどう見つけるか――【and人事】の考え方。相反する課題を両方とも解決できるようなアイデアや施策を考えることが、人事には必要だと考えている。1個の施策で、10個の課題を解決できるような夢のある施策を皆で作って、人事から日本の組織・企業を元気にしていきたい」という、力強いメッセージがあり、今回の「HRクラブ」は終了しました。
以下、参加者の方々からは、下記のようなコメントをいただいています。
【参加者の声】
≪講演の感想≫
- 若手の登用、スピード経営の意識、運用が大事、キャッチーなワード選びなど、どれもが参考になりました。(株式会社イーウェル/川崎雄介様)
- 「運用8割」という言葉が大変心に残りました。人事も身体を動かして、体制を動かしていかなければならないと感じました。(ヴォラーレ株式会社/蒲原直樹様)
- いろいろな気づきがありました。改めて「人事の仕事は面白いな」と思うことができました。(株式会社KDDIウェブコミュニケーションズ/斯波雅子様)
- すでに認知されている内容が多かったですが、それだけ社会に浸透するような組織作りができていることが改めてわかり、感銘を受けました。(株式会社グロービス/竹田 裕哉様)
- 行っている制度は弊社と近しいものがありましたが、規模が違うので、インパクトがありました。「Rookie Engineer HACK」は、当社でも取り入れたいです。(株式会社paperboy&co./貝瀬美奈子様)
- 「運用8割」は、良い言葉だと思いました。明日から参考にしたいと思います。私の日頃の口ぐせは、「事前準備9割、本番(度胸)1割」です。(全労済東日本事業本部/有馬恵司様)
- 曽山さんのご著書『最強のNo.2』を拝読していたのですが、今日のお話ではさらに具体的なエピソードもあり、よく理解することができました。(フードサービス/人材育成・人材開発担当)
- 当社の状況に当てはまる内容が非常に多く、参考になりました。ぜひ、今後も情報交換をさせていただければ幸甚です。(インターネット関連/人事・労務担当)
- わかりやすい制度を作った上で、「運用」することに重きを置く考え方は、とても勉強になりました。(販売・小売/経営企画担当)
- 情報を共有する人事メーリングリストなど、細かな施策にも、まねしたい視点が多数ありました。(情報サービス・インターネット関連/採用・雇用担当)
- 人事施策の成果を明確化することは分かっているようで、きちんと考えられていなかったので、改めて考えたいと思いました。(不動産/就業管理・コンプライアンス担当)
- 多様な制度や抜擢(ばってき)する仕組みに驚き、あこがれすら感じました。(放送・出版・映像・音響/人事企画・制度構築、人材開発担当)
- 現場の社員からの情報キャッチアップの参考になりました。(情報サービス/経営企画担当)
- 曽山さんとはまた違った視点のお話をうかがうことができ、大変よかったです。(デザイン・イベント/人事・労務担当)
- 弊社は柔軟性に欠けるところがあって、組織の仕組みを変えるのに時間がかかり、さらにしらけやすいという傾向もありますが、今回「HRクラブ」に参加したことで、あきらめずに取り組もうと思いうことができました。(機械/採用・雇用担当)
- 弊社ではシラケのイメトレや運用の徹底ができていないため、とても参考になりました。(情報サービス・インターネット関連/人事企画・制度構築担当)
- 書き始めるときりがありませんが、特に印象に残ったのは「決断経験」「ササる言葉」です。弊社でも、決断経験を積める方法や、ササる言葉を考えていきます。(保険/人材開発・キャリアデザイン担当)
- 人事として気をつけるポイント、運用のポイントを知ることができて良かったです。すでにいくつか、まねをしている制度もあるのですが、個人表彰のカテゴリー分けはぜひ、弊社でも取り入れたいと思います。(不動産/人事企画・制度構築担当)
≪ディスカッションの感想≫
- 講演だけでなく、ディスカッションの時間があることで、さらに理解が深まりました。(株式会社KDDIウェブコミュニケーションズ/斯波雅子様)
- 他社の人事の方と交流できることは、非常に有意義でした。(株式会社グロービス/竹田 裕哉様)
- 近しい企業が多かったので、うなずける内容が多く、良かったです。(株式会社paperboy&co./貝瀬美奈子様)
- 他社が取り組んでいる課題、制度について意見交換ができて良かったです。(ヴォラーレ株式会社/蒲原直樹様)
- 企業規模がそろっていたので、大変参考になりました。(株式会社メディックス/人材開発担当)
- 偶然ですが、普段交流のないグループ会社の人事担当の方と一緒になり、お話ができてネットワークを形成できたのが、一番の収穫でした。(広告・デザイン/人材開発・キャリアデザイン担当)
- 他の企業がIT系の若い会社ばかりだったのですが、それが会社の勢いにもつながっていることを改めて感じました。(販売・小売/採用、人事企画担当)
- 成功体験がまだないので、やはり、トライアンドエラーをしながら、仮説の精度を上げていきたいと思いました。(情報サービス・インターネット関連/人事企画・制度構築、採用担当)