【第19回テーマ】
三井物産の経営理念を浸透させる人材育成
~「良い仕事」実現に向けた取り組みとは~
2012年9月7日(金)に、第19回『日本の人事部』HRクラブを開催いたしました。
今回のゲストは、三井物産人材開発株式会社 人材開発第一室 室長の小林陽一氏。前半は、同社がいかに経営理念を浸透させる施策を行ってきたのかについて、三井物産の歴史を振り返りながら、小林氏が詳しく解説。後半は参加者がグループにわかれて、経営理念の浸透をテーマにディスカッションを行いました。本レポートでは、当日の模様をダイジェストでご紹介いたします。
【第19回 開催概要】
- ■ テーマ
- 三井物産の経営理念を浸透させる人材育成 ~「良い仕事」実現に向けた取り組みとは~
- ■ 開催日時
- 2012年9月7日(金) 18:30~20:30
- ■ ゲストスピーカー
- 三井物産人材開発株式会社 人材開発第一室 室長 小林陽一氏
<小林陽一氏 プロフィール>(こばやし・よういち)1970年生まれ。大手百貨店人事部、人材サービス会社を経て現職に至る。前職では、企業買収に伴い研修で教えた新人をリストラする憂き目に合う。この経験が原体験となり、強い組織作りと個々の人間力の醸成を重視した人材開発に取り組む。現在は、研修体系のグランドデザインから、個別研修のプログラム開発、講師等、研修全般に携わる。
三井物産の経営理念MVVとは?
“Who are You?”“What is Mitsui?”小林氏は研修の際にまず、受講者にこの言葉を投げかけるそうです。もし海外でこのような質問をされた時、きちんと答えられるかどうか――。グローバルな環境で戦っていく上では、明確な答えを持っている必要があると、小林氏は言います。そのためには、三井物産がどういう経営を行っているのかをよく理解し、説明できるようにしておかなければなりません。
まずは、同社の経営理念である、MVV(Mission・Vision・Values)について解説。激しい経済環境の変化に柔軟に対応しながら、一方で不変の価値観を持ち続ける――。総合商社には、過去の成功に頼らず、進化し続けることが求められますが、同様に変えてはいけないものは何かをしっかり認識することも必要。そのために必要なのが「何を機軸とするのか」。つまり「経営理念」であると、小林氏は言います。
同社の経営理念MVVの“Mission”は、企業の存在理由・使命を示します。そもそも、企業は誰のために、何を実現するために存在しているのか、それを定義するものです。続く“Vision”は、Missionをより高いレベルで達成するために、目指す姿を具体的に定義するもの。そして、“Values”は、Mission・Visionの実現を目指すために社員が共有して守るべき、行動指針・価値観といったものです。
では、どのようにして、現在の経営理念が形成されていったのでしょうか。それは、10年以上前に起きたある事件を発端に、同社が危機的な状況に陥ったことがきっかけだそうです。その際の一連の経験を経て、経営理念MVVを設定。しかし、経営理念を明文化しただけでは、浸透することは難しく、階層別研修やワークショップ、コンプライアンス研修などを通じて、経営理念MVVの浸透を図っていくようになったそうです。
良い仕事をするためには、何をするべきか
続いて、同社の経営理念の原点について解説するため、時代を大きくさかのぼり、室町時代から現代にまで至る、三井家の歴史について詳しくお話しいただきました。本レポートではその詳細な記述は省略しますが、現在の経営理念に至るまでのプロセスは大変興味深く、参加された皆さまも熱心に耳を傾けていました。
講演の最後は、経営理念を浸透させるための仕組みについて。MVVを一言でいえば、「良い仕事」になると、小林氏は言います。同社では、良い仕事について考えることを社内に浸透させていくために、さまざまな取り組みを行っています。例えば、社員が社員食堂に集まって飲食しながら会話する「アクティブトーク・ウエンズデイ」。その他、社員寮を復活させたり、社員が社長と対話する機会を設けたりするなど、地道な人的ネットワーク作りや、濃厚なコミュニケーションを醸成する取り組みを行っているそうです。
また、新人導入研修や、3・6・9年目の節目ごとの研修などについてもご説明いただきましたが、そこでは、先輩社員がグループ討議(5~6名)のアドバイザーとなり、徹底した議論が行われているそうです。やはり、経営理念を浸透させていくには、じっくりと時間をかけていくことが必要だということがわかりました。しかし、その分だけ、研修に参加した社員同士には強い結びつきが生まれているとのこと。講演の最後には、新入社員研修のサポートを行った先輩社員から新入社員たちに送られたという、メッセージビデオも上映。同社の社員同士の結びつきが大変強いことを、さらに理解することができました。
各社の経営理念に関する考え方を共有
講演後は、4~5人ずつのグループに分かれて、「良い仕事とは何か」「いかに経営理念を浸透させていくか」といったテーマで、ディスカッションを実施。少人数ならではのアットホームな雰囲気の中、ざっくばらんに情報共有が行われました。
限られた時間だったため、「もう少し話したかった」という声もありましたが、業種や規模が異なる企業同士によって行われたこともあり、参加された方たちにはそれぞれ、新たな発見があったようです。自社の経営理念について改めて考える、良い機会となったのではないでしょうか。
以上で、今回の「HRクラブ」は終了。三井物産の歴史や経営理念が生まれていった経緯などについて、詳しく聞くことができ、参加された皆さまの満足度は大変高かったようです。参加者の方々からは、下記のようなコメントをいただいています。
【参加者の声】
≪講演の感想≫
- バリューの何たるかを、その源流、蹉跌も含めて詳説していただき、ハートの部分まで理解できた気がします。(水ing株式会社/草薙 義弘様)
- しつこく続けていくことの重要性など、多くのヒントを得ることができました。(長瀬産業株式会社/畔柳 太一様)
- 取り組みに至る背景は大変貴重なお話だったので、興味深く聞かせていただきました。具体的な教育や研修の内容についても、もう少し詳しくお聞きしたかったです。(MS & ADシステムズ株式会社/濱口 裕子様)
- この4月に理念を作り、これから浸透させていくというフェーズにいるのですが、それを実践していくためのヒントをいただくことができました。(株式会社フージャスコーポレーション/矢野 菜美子様)
- 企業の歴史から丁寧にご説明いただき、理念と社史の結びつき、一貫性の重要性を改めて実感しました。(人材ビジネス/人材開発・キャリアデザイン担当)
- まるで三井物産に入社したかのように、しっかりとした内容の講義を聞かせていただき、大変満足です。(旅行・ホテル業/人材開発・キャリアデザイン担当)
≪ディスカッションの感想≫
- 各社の背景がよくわかりました。特に、当社とは異なる組織風土を持つ企業の取り組みは、非常に参考になりました。(水ing株式会社/草薙 義弘様)
- 「良い仕事」に関する議論がほとんどできなくて残念でしたが、理念浸透について、各社の生の話を聞くことができて、たいへん有意義でした。 (人材ビジネス/人材開発・キャリアデザイン担当)
- 他社の人事の方と話すのは、自社を客観的に見ることに繋がるので、たいへん良いことだと思います。今回は時間が短かったので、もう少し本格的にディスカッションを行いたかったです。(情報システム/人事企画・制度構築、採用・雇用ほか担当)
【第20回『日本の人事部』HRクラブ 開催のご案内】
第20回は、2012年11月22日(木)18:30から、ゲストに株式会社博報堂 HAKUHODO UNIV.の田村寿浩氏をお迎えして開催する予定です。テーマは『社員の「キャリア自律」実現のために人材育成部門として何をすべきか?~博報堂の「世代別キャリア開発支援プログラム」を事例に~』。参加ご希望の方は、下記から開催概要をご確認の上、お申込みください。皆さまのご参加をお待ちしております!