【後編】新人が身に着けたいレジリエンスとは?
本記事は前後編の後編となります。
前編となる「【前編】新人が身に着けたいレジリエンスとは?」は、以下のコラム一覧からお読みください。
https://jinjibu.jp/spcl/wcl-nagamine/cl/
0.本記事のまとめ
-
※前編では、新人にとってのレジリエンスの概要、必要性などについてお伝えしました。
-
レジリエンスのステップ1:マインドフルネスを通じて、自分の内面に生じている感情に「評価を加えずに気づく」ことが、感情に振り回されないための出発点となる。
-
レジリエンスのステップ2,3:不安や怒りを「準備が必要」などの重要なサインとして捉え直し、思考のクセ(認知バイアス)を修正して柔軟な解釈の選択肢を増やす。
-
受容とコミットメント(ステップ4):どうしても消えない不快な感情は、無理に消そうとせず「そこにあるもの」として受け入れ、今自分にとって大切な行動に集中する。
-
アサーションによる支援要請:レジリエンスは一人で完結するものではなく、「助けて」と言える力も重要。自分と相手を尊重する「アサーション」を用いて、適切に相談・報告を行う。
1. ステップ1 : 「感情の理解」とマインドフルネス
私たちの心は、出来事に触れた瞬間、ほとんど自動的に感情を生み出します。
新人期には、例えば次のような反応が起こりがちです。
-
上司に資料の修正を頼まれた瞬間に「また迷惑をかけた」と胸がざわつく
-
初めての顧客対応のあと「あれでよかったのか」と不安が頭から離れない
-
同期が褒められているのを見て、「自分だけ遅れている」と落ち込む
感情の理解とは、この自動的に生じた心の反応にまずは気づくことです。
-
「落ち込んで胸のあたりがぎゅっとしている」
-
「悔しさが強く出ている」
-
「不安で頭の中が未来の失敗シナリオでいっぱいだ」
といった具合に、“何を感じているのか” に気づくこと が、感情統制の出発点になります。
この「気づく力」が弱いと、
-
イライラに任せて反射的に言い返してしまう
-
不安から、ずっと考え続けてしまう
-
落ち込みが強くなり、手が止まる
といった「感情に振り回された行動」が増えてしまいます。
この「感情の理解」を支える土台が、マインドフルネスです。マインドフルネスとは、「意図的に、今この瞬間に、評価や判断を加えずに注意を向けること」を練習する心のトレーニングです。第3章で扱ったマインドフル・リスニングにおけるマインドフルネスは、「相手の言葉」に評価を乗せずに聴く練習でした。本章で扱うマインドフルネスは、「自分の内側の反応(感情)」に気づく練習 に使われます。この自分の内側の反応に気づく力は、マインドフルな状態を繰り返し作ることで培われます。この練習の1つとしてマインドフルネス瞑想があげられます。マインドフルネス瞑想については、こちらの記事に「集中瞑想」・「観察瞑想」ともにくわしく紹介しておりますので、ご参照ください。
このように、マインドフルに「自分の内側の反応」に気づけるようになることは、感情に振り回されずに働くための基盤となります。感情そのものを急いで変えようとするのではなく、まずは “今、自分の中で何が起きているのか” を正確に認識することが、次のステップ(感情の活用・調整・受容)へ進むための入口です。次章では、この「気づいた感情」をどのように扱っていくのか、について、具体的なステップを扱っていきます。
2. ステップ2〜4 : 「感情の活用・調整・受容」
第1章で、「自分の内側で何が起きているかに気づく」ための土台を整えました。本章では、その土台の上で実際に残りのステップである「感情の活用・調整・受容」を新人期のよくあるお悩みの例と一緒に一つずつ見ていきましょう。
2-1. 感情の活用 ーネガティブ感情を活かすー
新人期においては、初めてのことに対して、不安・戸惑い・悔しさ・怒りなど、ネガティブな感情が多く生じることと思います。レジリエンスの観点では、これらを単に「不要なもの」として排除するのではなく、行動の方向性を教えてくれるシグナルとして扱うことが大切です。感情の活用についての詳細はこちらの記事をご覧いただきたいですが、この「感情の活用」をすると、下記の感情や場面はどのようにとらえることができるでしょうか。
-
不安:
→「準備が足りていないのでは?」という警告をしてくれている→ 資料の再確認、先輩への事前相談につなげる -
怒り:
→「自分の大事にしたいものが尊重されていない」というサインと捉えられる→ 上司を攻撃するのではなく、「どこが困っているのか」を整理し、うまく伝える準備をする -
悲しさ・落胆:
→「頑張りと結果のギャップ」を示すサインと捉えられる→ 自分の努力を振り返り、次に活かしたいポイントを言語化する
このように、感情を「邪魔なもの」とみなすのではなく、次の一手を考えるための情報源 として好ましく活用していく姿勢が、レジリエンスの重要な要素となります。感情のそれぞれの機能と好ましく作用した例についても下記の図にお示ししますので、よろしければ参考にしてみてください。
このように感情をうまく活用することで、新人期でも感情の本来の機能をうまく活かし、好ましく作用させることが可能になります。つまり、感情を「敵」から「味方」へと変化させることができるのです。
2-2. 感情の調整 ーネガティブ感情を変容させるー
前の項でご紹介した「感情の活用」によって感情の重要なシグナルを捉えようとしても、その感情自体が過剰に強く、難しく感じてしまう場合もあるかと思います。そのような場合に使ってほしいのが、「感情の調整」です。この「感情の調整」という方略では、その捉え方(認知)に働きかけることで、感情そのものをしなやかに変容させることを目指します。
私たちの感情は、起きた出来事そのものではなく、その出来事をどう捉えるか(認知)によって大きく左右されます。レジリエンスにおける「感情の調整」とは、一つの見方に固執せず、解釈の選択肢を増やすスキルです。こちらの元になっている理論はABC理論と呼ばれるものです。詳細を知りたい方はこちらの記事をご参照ください
こちらも新人期によくある例で考えてみたいと思いますが、例えば、「上司に資料のミスを指摘された(A)」という出来事があったとします。
-
もし、あなたの認知(B1)が「自分はこんなミスをするなんてダメな人間だ」であれば… → 結果(C1)として、落ち込み、自己嫌悪に陥るでしょう。
-
しかし、もし、あなたの認知(B2)が「ここで上司にミスを指摘してもらえてよかった、ミスを直せばより良いものになるかもしれない」であれば… → 結果(C2)として、改善への意欲が湧き、少し前向きな気持ちになるでしょう。
出来事(A)は変えられなくても、自分の捉え方(B)に働きかけることで、感情や行動(C)は変えることができるのです。
2-2-1. 目指すのは「ポジティブ思考」ではなく「しなやかな思考」
新人期は、経験も少なく、評価も安定していないため、「自分の見方(認知)」も安定せず、それによって感情が振り回されることもあるでしょう。しかし、どんな出来事も“前向きに”捉えれば良い、という「ポジティブ思考」だけをしようとするのは現実的ではありませんし、無理に前向きな意味づけをしようとすると、かえって心がついてこず疲れてしまいます。
重要なのは、ひとつの否定的な見方に固着せず、複数の見方を検討できる“しなやかな思考”を育てることです。白か黒かではなく、グレーを増やし、「自分はダメだ」か「自分は完璧だ」かのどちらかではなく、状況に応じた幅のある考え方を持つ。この“認知の柔軟性”こそが、新人期のレジリエンスを支える大きな柱ともなります。
では、どうすれば自分の捉え方(B)に、より柔軟な選択肢を増やせるのでしょうか。その第一歩は、人間が陥りがちな思考のクセ(認知バイアス)に気づくことです。 私たちはストレス下にある時、下記のように無意識に偏った見方をしてしまうことがあります。
大切なのは、「あ、今自分は『全か無か思考』に陥っているな」と、まずはその思考のクセに気づくことです。そして、その上で「本当にそうだろうか?」「別の見方はないだろうか?」と、その見方を変容したり増やしたりすることを試みてみましょう。
2-2-2. 見方を変えるコツ1 友人への声かけを、自分自身へ
そうは言っても、気分が落ち込んでいる時に、一人で別の見方を探すのは難しいと感じることもあるでしょう。そのような時には、他者への思いやり(コンパッション)を自分自身に向けてみるという視点が助けになります。
具体的には、こう自問してみてください。 「もし、親しい友人が自分と全く同じ状況で、『自分はダメな人間だ』と落ち込んでいたら、自分はどんな言葉をかけるだろうか?」
不思議なことに、私たちは他人に対しては、より客観的で、優しく、建設的なアドバイスができるものです。「一度の失敗で評価は決まらないよ」「むしろ、この経験から学べることがあるんじゃない?」といったような優しくあたたかい言葉が自然に浮かんでくるのではないでしょうか。
その友人にかけるのと同じ優しい言葉を、自分自身にかけてあげること。この視点を持つことで、私たちは硬直した自己批判から抜け出し、よりしなやかなものの見方を取り戻しやすくなるかもしれません。これらの考え方をうまく使いながら、感情の調整をぜひ1つの方略として取り入れてみてください。
2-2-3. 見方を変えるコツ2 状況要因に目を向けてみる
否定的な考えが浮かんだときは、状況要因に目を向けることが有効です。
例えば、
「先輩の返事が冷たかった → 自分は嫌われている」
ではなく、
-
先輩が単に忙しかった可能性
-
他の案件の対応で手一杯だった可能性
など、状況に視野を広げるだけで、怒りや不安は自然と和らぎます。特にこれは怒りの軽減に効果があると言われています。怒りは「相手が悪い」といったような固定した見方で急激に膨らむため、状況要因に視野を広げることで、感情が冷静な領域に戻りやすくなるのです。
2-2-4:自尊感情が高ければ、見方を前向きに変えられるのか?
新人期の相談でしばしば聞かれるのが、 「もっと自信をつければ、否定的な見方をしなくなるのでは?」という考え方です。つまり、「自尊感情を高くすれば良い」という考え方です。
しかし「自尊感情が高い=レジリエンスが高い」とは限りません。働くまではとても優秀で真面目で自信があったという人が、社会に出て、指摘をされ、折れてしまうという話もよく聞く話です。つまり、自尊感情は高すぎても低すぎても、感情が折れやすいという性質があるのです。つまり新人期に求められるのは、バランスが取れた自尊感情です。
自尊感情が低すぎる場合には、これからやることに向かえなかったり、発言を遠慮してしまうことも出てくるため、それでは仕事に差し支える場合も出てきます。そのように自尊感情があまりに低く、仕事に影響している場合には、Three good things という方法が役立ちます。この方法は、単に前向きな出来事を探すワークではありません。
新人期は、注意された点・できなかった点ばかりに意識が向きやすく、どうしても自分の価値を低く評価しがちになる場合があります。これは人間がもともと持つ「ネガティビティバイアス(悪い方に注意が偏る性質)」の影響でもあります。そうならないためのシンプルなエクササイズです。
やり方としては、1日の終わりに、
-
上司への報連相が一つできた
-
ミスの原因を自分で整理できた
-
先輩に質問したら丁寧に教えてもらえた
こうした「小さな良い出来事」を振り返ることで、 “自分は今日も確かに前に進んだ” という感覚を取り戻すことができます。これは、成果ではなくプロセスや行動をていねいに認める=価値を認める行為でもあります。その積み重ねによって、自尊感情は成果に左右されにくい安定した状態に育ちます。
2-3. 感情の受容 ーネガティブ感情を無効化するー
これまで見てきたように、「感情の活用」でネガティブ感情を活かし、「認知の調整」でネガティブ感情を変容することは、レジリエンスにおいて重要な方略です。しかし、そうした方略を尽くしても、どうしても消し去ることのできない思考や、心を離れない不快な感情が残ることもあります。「ものの見方」を変えようと試みても、変えられない。そんなとき、私たちはどうすれば良いのでしょうか。
ここで重要となるのが、3つ目の方略である「感情の受容」です。これは、内なる反応と「戦う」ことをやめ、あるがままに「受け入れる」ことで心のエネルギー消耗を防ぎ、次の一歩を踏み出すためのアプローチです。
新人期に仕事と向き合う際には、上司に注意されたあと、「また怒られたらどうしよう」という不安が何時間も残ってしまうとか、顧客対応でミスをした日の帰り道、胸のざわざわが取れず「自分は向いていないのでは」と考え続けてしまうなど、どうしても変えられない思考や、消し去ることのできない不快な感情が出てくることもあります。そんなとき、それらと無理に戦おうとすると、かえってエネルギーを消耗し、疲弊してしまいます。
しかし、上の図のように、「しょうがない」「当然のこと」というふうにとらえ、やるべきことをやろうと行動を進めているうちに、気になっていた感情が気にならなくなっていたというような経験はないでしょうか。
このように、「しょうがない」「当然のこと」と今ある感情を受け入れることを、心理療法の「ACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)」で重視されるアクセプタンス(受容) と呼びます。また、やるべきことをやろうと、行動を進めていくことを「価値コミット」と呼びます。ACTや受容や、価値コミットの具体的な実践方法については、こちらの記事に詳しく掲載しておりますので、ご覧の上、使ってみてください。
3. 感情を整えたその先へ
第1・2章では、感情を理解・活用・調整・受容することで、心の揺れを整える方法を扱いました。しかし、感情を整えるだけでは、職場のコミュニケーションは十分に安定しません。新人期に特に重要なのは、自分の状態を適切に共有し、抱えこまずに相談できるスキルを持つことです。ここで鍵となるのが、アサーションというコミュニケーションの姿勢です。
3-1 相談をしないことによる弊害
新人期は、「まだ迷惑をかけたくない」「自分で解決できないといけない」といった思いから、報告や相談をためらいがちになります。しかし、相談をしないことには、次のようなリスクがあります。
-
誤解や作業の遅延が広がり、結果的に業務負荷が増える
-
ミスが大きくなる前に修正できず、自分だけで抱え込んでしまう
-
上司・先輩が状況を把握できず、支援のタイミングを逃す
-
不安や怒りを一人で処理しようとして、精神的に消耗する
「言えない」という状態は、一見、頑張っているように見えても、レジリエンスの観点や仕事を進めるにあたっては良いものとは言えません。感情を整える力と同じくらい、必要なときに助けを求められる力が重要になります。
3-2 アサーションとは
アサーションとは、 相手を尊重しながら、自分の意見・気持ち・ニーズを率直かつ適切に伝えるコミュニケーションのことを指します。アサーションに関する詳しい内容についてはこちらの記事をご覧ください。
3-3 上司に相談するときの考え方
自分も相手も尊重しながら相談したいことを伝えるワークシート
こうした「相談できない」状態を克服していくためには、自分の中の不安や目的を整理しつつ、相手への配慮も含めて、どのように伝えるかを事前に言語化しておくことがとても役立ちます。そこで、ここでは、新人の方が実際に“相談”や“お願い”をしたい場面を想定し、相談の仕方を一つずつ整理できるワークシートをご紹介します。
相談をしづらいなと思う場面でも、
「自分だけを押し通す/相手に合わせすぎる」のどちらにも偏らず、
互いを尊重しながら伝えるための準備ができるツールです。
このワークシートを活用することで、
「何を相談したいのか」「なぜ言いづらいのか」「どう伝えると両者が納得できるのか」が自然と整理され、相談のハードルがぐっと下がっていきます。ぜひ使ってみてくださいね。
おわりに
新人期は、変化が多く、情報量も多く、正解が見えにくい時期です。そのなかで心が揺れるのは、それだけ仕事に真剣に向き合っている証拠です。レジリエンスとは、「折れない人」ではなく、「折れても戻れる人」のことを指します。
そのために、まずは上司の指摘を感情を不必要に大きくしない聞き方であるマインドフル・リスニングで聞けることは1つのポイントとなってきます。しかし、それでも感情が揺れることはあるはずです。そのようなときには、その揺れた心をに気づき、理解し、活用・調整・受容のそれぞれ合うものを使って感情を統制していくことが大切なこととなってきます。そして感情を整えた先、必要なときには支援を求めることができることも重要なポイントです。これら一つひとつの力が、新人期においてもしなやかに働き続けるための土台となります。新人期にこれらのスキルを身につけておくことは、この先のキャリアにおいて、プレッシャーの場面や役割の変化があっても、自分を保ちながら働ける大きな財産になるのではないでしょうか。
このコラムを書いたプロフェッショナル
長峰 悠介
株式会社働きごこち研究所 代表取締役
日本電気株式会社を経て、株式会社プレセナ・ストラテジック・パートナーズやメンタルヘルス関連サービス企業でのマインドフルネス講師、法人研修開発に従事。
現職でも、大手メーカーなどに向けたレジリエンス/アサーション研修に多く登壇。
長峰 悠介
株式会社働きごこち研究所 代表取締役
日本電気株式会社を経て、株式会社プレセナ・ストラテジック・パートナーズやメンタルヘルス関連サービス企業でのマインドフルネス講師、法人研修開発に従事。
現職でも、大手メーカーなどに向けたレジリエンス/アサーション研修に多く登壇。
日本電気株式会社を経て、株式会社プレセナ・ストラテジック・パートナーズやメンタルヘルス関連サービス企業でのマインドフルネス講師、法人研修開発に従事。
現職でも、大手メーカーなどに向けたレジリエンス/アサーション研修に多く登壇。
| 得意分野 | モチベーション・組織活性化、安全衛生・メンタルヘルス、コーチング・ファシリテーション、コミュニケーション、ロジカルシンキング・課題解決 |
|---|---|
| 対応エリア | 全国 |
| 所在地 | 千代田区 |
- 参考になった0
- 共感できる0
- 実践したい0
- 考えさせられる0
- 理解しやすい0
無料会員登録
記事のオススメには『日本の人事部』への会員登録が必要です。