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【前編】1on1を変える心理学~アクティブ・リスニング~

 

本記事は前後編の前編となっております。
後編となる「【後編】
1on1を変える心理学~アクティブ・リスニング~」は、
以下のコラム一覧からお読みください。
https://jinjibu.jp/spcl/wcl-nagamine/cl/

 

0.本記事のまとめ

  • 1 on 1とは、単なる業務連絡ではなく、対話を通じて部下の「経験学習サイクル」を回し、深い内省と教訓の引き出し(概念化)を支援する学習機会です。
  • しかし、上下関係による心理的ハードルや、上司が「評価者の視点」や「アドバイスへの焦り」を持ってしまうことで、部下の本音や内省が妨げられることにあります。

  • その解決策として、相手を評価せず、背景にある感情や価値観まで「聴く(Listen)」姿勢を持つことで、対話の土壌となる心理的安全性を構築するアクティブ・リスニングが重要です。

  • アクティブ・リスニングには、「自己一致(誠実さ)」「無条件の肯定的関心(受容)」「共感的理解(寄り添い)」というロジャーズの三原則が求められます。

  • ※後編では、アクティブリスニングを実践するためのマインドフルネスの重要性や、実践のヒントをお伝えします。

 

1. 1 on 1とは何か?—対話と内省が生む成長の場

近年、多くの企業で導入が進んでいる「1on1ミーティング」。

これは、上司と部下が定期的に1対1で対話することによって、信頼関係を築き、成長を支援するための場です。
そのルーツは、Google、Meta(旧Facebook)などのシリコンバレーの先進企業における人材マネジメントの実践にあります。マネージャーとメンバーが週に1回または隔週で30分〜1時間程度の時間を設け、業務の進捗だけでなく、悩み、違和感、キャリアの希望なども含めた本音の対話を行うことで、メンバーのエンゲージメントと成長を支えてきました。
本質的には、1on1とは「対等な関係性のなかで、経験を言葉にし、振り返る時間」です。
上司と部下という上下の関係ではありながらも、その時間だけはできる限り評価から離れたフラットな対話の場として成立させることが理想とされています。

経験学習サイクルと1 on 1の関係

こうした1on1の意義を深く理解するうえで欠かせないのが、組織行動学者デイビッド・コルブによって提唱された 経験学習サイクル(Experiential Learning Cycle) の視点です。
このサイクルは、以下の4つのプロセスで構成されます。

  1. 経験(Concrete Experience)
    まず、実際の出来事や活動を体験する。

  2. 内省(Reflective Observation)
    次に、その経験について振り返り、「何が起きたのか」「自分はどう感じたのか」を多角的に観察する。

  3. 概念化(Abstract Conceptualization)
    その振り返りから得た気づきをもとに、自分なりの意味づけや教訓、仮説を立てる。

  4. 実践(Active Experimentation)
    導き出した学びをもとに、次の行動や試みに活かしていく。

この流れを繰り返すことで、私たちは日々の仕事や人間関係の中から気づきを得て、行動や考え方を更新していきます。
特に重要なのが、第2段階である「内省」のフェーズです。「今日のプレゼンはうまくいった」「なんとなく疲れた」といった感想を持つだけでは、学びにはつながりません。「なぜうまくいったのか?」「どの判断が功を奏したのか?」「別の選択肢はあり得たか?」といった問いを通じて、 経験を深く掘り下げ、意味づけていくプロセスがあってはじめて、知見が生まれます。


しかし、このような振り返りを一人で行うことには限界があります。あくまでも自分が思い出せる情報、自分の枠組みの中でしか整理できないからです。だからこそ、他者との対話を通して「新しい問い」を受け取ることが重要になります。その問いが、自分では見えていなかった感情や視点を引き出し、結果として経験をより多角的に捉え直すことを可能にします。
このプロセスを支えるために1on1が機能します。1on1は、上司が部下の話を聴くことで、部下自身が自分の経験を深く・広く振り返る機会を提供する場です。上司が「そのとき何を感じた?」「他に選択肢はあったと思う?」といった質問を投げかけることで、部下は、自分の中では見落としていた要素や、気づいていなかった感情、判断のクセなどに気づくことができます。
これは、経験学習サイクルにおける「内省」→「概念化」→「実践」の流れを、他者との対話を通じて回すことに他なりません。 つまり、1on1とは単なるコミュニケーションの時間ではなく、 部下の経験学習サイクルを意図的に支援する構造化された学習機会なのです。
しかしながら、1on1でよく聞かれる課題として、業務進捗の確認に閉じてしまったり、上司が問いかけても部下が本音で話をしない、といったことがあります。なぜそのようなことが起きるのでしょうか。

2. 「1 on 1」が機能しない原因

 

本来、1on1は、信頼を土台とした“対話”の場であるはずです。上司と部下が、業務の課題やキャリアの方向性、職場での違和感や心理的な状態まで、自由に語り合える。そんな「安心して言葉を交わせる時間」であることが理想です。しかし現実には、以下のような声が多く聞かれます。

  • 「部下がほとんど話さない」

  • 「雑談で終わってしまう」

  • 「どうせ評価者に話しても仕方ないと感じている」

1on1の意義が理解されていなかったり、場の空気に“安心感”が欠けていたりすると、その時間は本来の目的から離れ、単なる定例の面談として形骸化してしまいます。
こうしたことの背景には、1on1を取り巻く、次のような構造的な問題があります。

a.1on1導入の意図と現場の認識が異なる

制度として1on1が導入されても、「なぜやるのか」という目的が現場に伝わっていない場合があります。本来は信頼関係の構築や内省支援のための場であるにもかかわらず、「ただの定例面談」「やらされ感のある時間」として捉えられてしまうと、その意義が形骸化してしまいます。

b. 上下関係に伴う話しづらさ

日本の企業文化では、年功序列や上下関係がいまだに色濃く残っている傾向があります。その中で、部下が「上司に本音を話す」という行為には大きな心理的ハードルがあるのが現実です。

  • 「こんなことを話して評価が下がらないだろうか」

  • 「愚痴や不安を話して“甘い”と思われたくない」

  • 「空気を読んでおいた方が波風立たない」

こうした不安や緊張感は、自然と沈黙や曖昧な返答へとつながります。
部下が“安心して話せる場”と感じられなければ、1on1は機能しません。

c. 上司の “聴き方” に課題がある

上司側にも、「時間をとっているのに部下が話してくれない」という戸惑いがあります。しかし実際には、「聴いているつもり」でも、聴けていないケースが多く見られます。

  • 話の途中でアドバイスを急ぐ

  • 要点を整理しすぎて、相手の言葉を遮る

  • 無意識のうちに「評価する態度」がにじむ

以上のような構造的な課題によって、1on1が機能しないことがあります。このうち、b.とc.は上司と部下の間の対話の質に課題があります。

b.とc.が示す「話しづらさ」は、“対話の質”の課題

b.とc.の課題に共通するのは、単に制度や内容の問題ではなく、「対話の質」そのものが下がっているという点です。

すなわち、

  • 「この人は私の話を受け止めてくれるか?

  • 「話しても安全か?

  • 「本当に興味・関心を持ってくれているか?

といった心理的な問いに、部下が“イエス”と感じられない限り、対話は成立しないのです。この心理的安全性の欠如こそが、「話しづらさ」の最大の原因であり、それらを解消するために必要なのが、臨床心理の現場でも使われている「アクティブ・リスニング」です。

3. なぜ1 on 1でアクティブ・リスニングがその解決策になり得るのか?

 

私たちは「聴いているつもり」でいても、実際には「次に何を言うか」「どう返すか」「何をアドバイスするか」に頭を取られてしまいがちです。その結果、相手の気持ちや文脈を受け止めきれず、会話はすれ違い、信頼は育ちません。特に1on1の場面では、「効率よく話をまとめる」「指示を的確に出す」といった管理的な意識が優先されやすく、“じっくり聴く”という行為が後回しになってしまうことも少なくありません。
しかし、相手が「安心して話せる」と感じられない限り、何を話しても本音にはたどり着けません。信頼関係が築かれていない状態では、どんなアドバイスやフィードバックも、相手に届かないのです。

アクティブ・リスニングが提供する心理的土壌

アクティブ・リスニングは、端的に言うと「よく聴く」という聴き方であり、単なる“テクニック”ではなく、信頼を育むコミュニケーションの在り方です。それは次のような非言語的・関係的メッセージを相手に届ける行為でもあります。

  • 「私はあなたの話を本気で知りたいと思っている」

  • 「あなたの経験や感情に関心がある」

  • 「私はあなたを評価するためにではなく、理解するためにここにいる」

このような姿勢で接することで、部下は“話してもいい場”だと感じられるようになり、対話が成立し始めます。実際、心理学やマネジメント研究においても、アクティブ・リスニングの効果はさまざまな形で実証されています。

アクティブ・リスニングの効果を裏付ける研究

  • Krasman(2014)1)
    「上司に話を聴いてもらっている」と感じた部下は、エンゲージメントが高く、ストレスは低下し、離職率も低くなる。

  • 厚生労働省「働き方・意識に関する調査」(2022)2)
    上司との信頼関係が強いほど、仕事の満足度や心理的ウェルビーイングが高まる。

  • Wegerら(2014)3)
    アクティブ・リスニングを受けた人は、自己開示の深さ・感情の共有量が有意に高まり、対話後の心理的満足度も高い。

  • Hill & Lineback(2011)4)
    マネージャーがアクティブ・リスニングを実践することで、部下からの信頼度・自己効力感ともに上昇。

  • Gallup社(2017)5)
    「自分の話に関心を持ってくれる上司がいる」社員は、そうでない社員に比べてエンゲージメントが3.2倍高く、定着率も向上。

とはいえ、「よく聴く」ということは、思っている以上に難しいものです。多くの人が「聴いているつもり」になっていても、実際には“自分の見方”を基準に、相手の話を判断・解釈してしまいがちです。一体、アクティブ・リスニングにはどのような姿勢やスキルが含まれており、どうすれば実践できるようになるのでしょうか。ここからはまず、アクティブ・リスニングの基本的な考え方を押さえたうえで、その土台となる「聴く」と「聞く」の違いについて確認していきましょう。

 

4. アクティブ・リスニングとは?

 

アクティブ・リスニング(積極的傾聴)とは、相手の話にただ耳を傾けるだけでなく、その背景にある感情や価値観、言葉にされていない思いにまで注意を向けながら、評価せずに受け止めようとするコミュニケーションの姿勢です。


この考え方は、もともと臨床心理学・カウンセリングの分野で発展してきました。カール・ロジャーズによって提唱された「来談者中心療法(Person-Centered Therapy)」の中で、 アクティブ・リスニングは「傾聴」という言葉を用い、中心的な技法として位置づけられています。
ロジャーズは、人が自らの力で変化し、成長していくためには、 安心して自分の気持ちや考えを言葉にできる“心理的に安全な関係”が不可欠だと考えました。そのためには、援助者が「相手の話を批判せず、押しつけず、ただ誠実に理解しようとする姿勢」で接することが必要になります。このようなロジャーズの重要とする態度には、まさにアクティブ・リスニングの技法が欠かせませんでした。つまり、アクティブ・リスニングは、“相手の語りを支える”ことで、その人自身の内面の整理や変化を促す技法として、心理療法の現場で重要な役割を果たしてきたのです。


このような実践的・効果的な関わりの力が、近年ではビジネスシーンや組織開発の文脈でも強く注目されるようになってきました。組織が複雑化し、多様な人材が協働するようになった今、上司と部下、あるいはチームメンバー間での「対話の質」が、成果やエンゲージメントを大きく左右します。特に、上述した通り、1on1ミーティングのような“信頼を育てる場”においては、相手の語りをまずは評価せずに受け止めるアクティブ・リスニングの姿勢こそが、 心理的安全性を支え、経験学習を促進する鍵となるのです。
このように、アクティブ・リスニングは単なる会話のテクニックではなく、組織の信頼関係や学びの土壌を育む「対話の土台」として広がりを見せています。では、そのアクティブ・リスニングを理解し、実践していくためには、どのような視点が必要なのでしょうか。
まず入り口として押さえておきたいのが、日常的に私たちが使っている「聞く(hear)」と「聴く(listen)」の違いです。

  • 「聞く」:自分の位置からその言葉を受け取り、「そうなんだ、大変だね」「私もそういうときあるよ」「でも私はあまり疲れない方かな」と、自分の経験や意見を挟んで応じる。無意識のうちに“自分がどう思うか”を軸にして会話を進めてしまう。
     

  • 「聴く」:相手と同じ位置に立ち、「あなたはそう感じているんですね」「最近、何が特に負担になっているのですか?」と問いかける。相手の視点に立ち、評価や比較ではなく、“その人の見ている世界”に共に目を向けようとする姿勢がにじむ。

    このように、アクティブ・リスニングとは、「私はどう思うか」ではなく、「あなたはどう感じているのか」に焦点をあて、相手の内面を尊重しながら関わる態度です。
    このように、「聴く」とは相手の立場や感情に寄り添い、評価や自己解釈をいったん脇に置いて、相手の世界に誠実に関心を向けることです。では、そのような聴き方を実現するには、私たちはどんな“姿勢”で相手に向き合えばよいのでしょうか。ここからは、アクティブ・リスニングの根幹を支える「スタンス」について、心理学者カール・ロジャーズの理論をもとに見ていきましょう。

 

5. アクティブ・リスニングに必要なスタンスを知る—ロジャーズの三原則から学ぶ「信頼される聴き手」の姿勢

 

アクティブ・リスニングは技術だけでは成り立ちません。その根底には、「人としてどんな姿勢で相手に向き合うのか」が問われています。
カール・ロジャーズ(Carl R. Rogers)は、良質な人間関係のために必要な“3つの態度”を提唱しました。彼の臨床経験と心理学的研究から導き出されたこれらの原則は、ビジネスや教育、医療の現場でも深く活用されています。

 

 

1. 自己一致(Congruence)=誠実さ

自己一致とは、「自分の内面と外面が一致している状態」です。つまり、自分が今どんな状態にあるのかを否定せず、無理に取り繕わず、相手に対して誠実に、自然体で関わろうとする姿勢を指します。これは「そのまま感情を出せばいい」という意味ではありません。
たとえば、イライラや戸惑いをそのまま態度に表すことは、ビジネスの現場では適切ではない場合もあります。しかし、自分の内面に気づきつつ、相手に丁寧に対応しようとする“内と外の整合性”を保つことは可能です。
※ 自己一致に反する例

  • 話の内容がわからないまま、「わかります、わかります」と同調してしまう。

  • そうではないと思いつつ、「そうですね」と返してしまう

同調せずに、わからないときは「少し確認させてください。ここはこういう意味で合ってますか?」と、丁寧に問い直すことが、内と外の整合性を保つということになります。
自己一致を体現している人は、「表面的に取り繕うのではなく、相手に向き合っている」という印象を与え、結果として相手に「ここでは本音を出しても大丈夫かもしれない」という安心感を生み出します。信頼される聴き手には、この“偽らなさ=誠実さ”が欠かせません。

2. 無条件の肯定的関心(Unconditional Positive Regard)=受容・尊重

これは、相手の存在そのものを価値あるものとして認め、評価やラベルづけをせずに接する態度です。たとえば、業績の振るわない部下が悩みを語るとき、「そりゃ、ちゃんとやってないからでしょ」という内心の判断がにじみ出ると、相手はすぐに察知します。
「結果ではなく、その人自身に敬意を払う」——これが無条件の肯定的関心です。
※ 無条件の肯定的関心に反する例:

  • 相手の考えをよくよく聴きもせずに「それは違うよ」と否定から入る

  • 苦手意識のある相手の話を、最初から表面的にしか聞かない

  • 結論ありきで都合のよい情報ばかりを集める(確証バイアス)

「この人は、どうであっても私の話を聴いてくれる」 その実感こそが、深い自己開示を呼び込みます。なお、評価者が部下を評価する際には、もちろん評価という行為が必要になります。ただ、それはありのままの部下を理解した上で行うことであり、まずは、ありのままを理解するという意味で、「無条件の肯定的関心」をもつ必要があります。

3. 共感的理解(Empathic Understanding)=寄り添い

共感的理解とは、相手の気持ちを“自分のもの”として感じるのではなく、相手の立場からその世界を理解しようとする姿勢です。
共感とは同情ではありません。「あなたはこう感じているのですね」と、感情に寄り添い、言葉にすることで「理解してもらえた」と相手が感じられるのです。
※ 共感的理解に反する例:

  • 「それ、うちの部署でも同じ。私も大変だったよ」と話題を自分にすり替える

  • 「忙しいのはみんな同じだよね」と相手のしんどさを一般化してしまう

このように、アクティブ・リスニングを支える三つのスタンス——自己一致・無条件の肯定的関心・共感的理解——は、いずれも「相手を理解しようとする姿勢」に根ざしています。
しかしながら、こうしたスタンスを実際の対話の中で持ち続けることは、決して容易ではありません。どんなに大切だと頭で理解していても、人間関係の中で私たちは、気づかぬうちに“聴く”から“聞く”へと戻ってしまう瞬間を経験します。

 

後編では、アクティブリスニングを実践するためのマインドフルネスの重要性や、実践のヒントをお伝えします。
後編となる「【後編】1on1を変える心理学~アクティブ・リスニング~」は、
以下のコラム一覧からお読みください。
https://jinjibu.jp/spcl/wcl-nagamine/cl/

 

このコラムを書いたプロフェッショナル

長峰 悠介

長峰 悠介
株式会社働きごこち研究所 代表取締役

日本電気株式会社を経て、株式会社プレセナ・ストラテジック・パートナーズやメンタルヘルス関連サービス企業でのマインドフルネス講師、法人研修開発に従事。
現職でも、大手メーカーなどに向けたレジリエンス/アサーション研修に多く登壇。

日本電気株式会社を経て、株式会社プレセナ・ストラテジック・パートナーズやメンタルヘルス関連サービス企業でのマインドフルネス講師、法人研修開発に従事。
現職でも、大手メーカーなどに向けたレジリエンス/アサーション研修に多く登壇。

得意分野 モチベーション・組織活性化、安全衛生・メンタルヘルス、コーチング・ファシリテーション、コミュニケーション、ロジカルシンキング・課題解決
対応エリア 全国
所在地 千代田区
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