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【前編】衝突を恐れないアサーティブなフィードバックとは

本記事は前後編の前編となっております。
後編となる「【後編】衝突を恐れないアサーティブなフィードバックとは」は、
こちらのコラム一覧からお読みください。

 

0.本記事のまとめ

 

  • フィードバックとは、「耳の痛いことを含めて、部下の現在の仕事の様子・状況をしっかりと伝え、彼らの成長を立て直すこと」であり、従業員のエンゲージメントやモチベーション、さらには離職率に大きな影響を与えると示されている。
  • しかし、多くのマネージャーはフィードバックの提供に強い抵抗を感じている。その原因として、主に 「受け手の心理的反発」 と 「伝え手の心理的バリア」 の2つが挙げられる。
  • そのような障壁を乗り越えるため、アサーション(「自分の意見を率直に伝えつつ、相手の意見や感情も尊重する」コミュニケーションスキル)が重要
  • ※後編では、アサーションをビジネスで活用するため、「何を、どのように、どのタイミングで伝えるのが最も効果的か?」までを考慮したコミュニケーションについて解説します。

 

1. なぜフィードバックが難しいのか?

 

フィードバックとは

 

フィードバックとは、単に評価や結果を通知するものではなく、「耳の痛いことを含めて、部下の現在の仕事の様子・状況をしっかりと伝え、彼らの成長を立て直すこと」と言われています 1)。
職場におけるフィードバックは、組織内のコミュニケーションの要であり、個人の成長とチームのパフォーマンス向上に欠かせない要素でもあります。特に、従業員のエンゲージメントやモチベーション、さらには離職率に大きな影響を与えることが数多くの研究で示されています 2)。

 

フィードバックのプロセス:5つのステップ

 

フィードバックを適切に行うには、まずはどのように行うのかのステップを知ることも非常に重要なことです。
中原 1) によると以下の観点を踏まえてフィードバックを行うことが重要であるとされています。

  • 事前準備:フィードバックをする前に情報収集を行う

  • 実践

    • 信頼感の確保:雑談等で相手からの信頼感を得る

    • 事実通知:鏡のように情報を通知する

    • 問題行動の腹落とし:対話を通して、現状と目標のギャップを明確にする

    • 振り返り支援:心の原因を突き止め、未来の行動計画をつくる

    • 期待通知:自己効力感を高める

  • 事後フォロー:事後にフォローアップする
     

 

相手が納得できるフィードバックのフレームワーク 3つ

 

相手が納得できるフィードバックを行うには、伝える側が適切なスキルを持っていることが重要です。しかし、フィードバックの経験が浅い場合には、効果的に伝えられないこともあるでしょう。
そこで、フレームワークを活用することで、論理的かつ納得感のあるフィードバックが可能になります。
ここでは、代表的な3つのフレームワーク(サンドイッチ型、KPT型、DESC法)を紹介します。

 

1. サンドイッチ型

サンドイッチ型フィードバックは、「良い点 → 改善点 → 良い点」の順番で伝える手法です。最初と最後にポジティブな内容を挟むことで、相手のモチベーションを維持しながら改善点を伝えられるのが特徴です。
この方法のメリットは、指摘を受ける側が前向きな気持ちを保ちやすいこと。しかし、最後にポジティブな言葉で締めくくるため、改善点の重要性が伝わりにくくなる可能性もあります。
例文

  • ポジティブ:「今回のプレゼン資料はデザインが見やすく、要点が整理されていて分かりやすかったですね。」

  • 改善点:「ただ、説明の際に少し専門用語が多かったので、聞き手に合わせた言葉選びを意識すると、より伝わりやすくなると思います。」

  • ポジティブ:「とはいえ、質問にも的確に答えられていたので、自信を持って話せていました。この調子で表現を工夫していけば、さらに説得力が増すでしょう!」

 

2. KPT型

KPT型は、振り返りを重視するフィードバック手法です。

  • Keep(継続すべきこと):良かった点

  • Problem(課題):改善すべき点

  • Try(挑戦すること):次に向けたアクション

例文

  • Keep(継続すべきこと):「ミーティング前に議題を共有することで、効率的に議論を進められました。」

  • Problem(課題):「しかし、一部のメンバーが発言しづらい雰囲気があり、意見が偏ってしまいました。」

  • Try(挑戦すること):「次回からは、全員に順番で意見を求める時間を設け、より多くの視点を取り入れましょう。」

 

3. DESC法

このDESC法は、フィードバックに限ったものではなく、どちらかというと今回テーマとなっているアサーションのフレームワークとして、最も知られているものです。これは、相手を尊重しながら、具体的かつ建設的にフィードバックを伝えることもできる手法です。

  • D(Describe):具体的な状況を描写す

  • E(Express):自分の感情や考えを伝える

  • S(Specify):望ましい行動を提案する

  • C(Consequences):その行動の影響を伝える

例文

  • D(Describe):「会議中、途中で発言を遮っていたね」

  • E(Express):「そのせいで、他の意見が少しだけ出しにくくなっていたように感じたよ」

  • S(Specify):「次回は、最後まで話を聞いてみてもらうのはどうかな?」

  • C(Consequences):「そうすると、みんなが意見を出しやすくなると思うんだ」

 

フィードバックの役割

 

これらのスキルを用いた職場におけるフィードバックは、単にパフォーマンス改善のためのツールではありません。適切に機能すれば、個人の成長を促進し、心理的安全性を高め、組織文化を形成する要素となります。しかし、フィードバックが適切に機能しないと、逆にチームの信頼関係を損ない、成長機会を奪い、場合によっては離職の原因となることさえあります。
実際、ある調査によると、従業員の92%が「建設的なフィードバックがパフォーマンス向上につながる」と認識している一方で、多くのマネージャーはフィードバックの提供に強い抵抗を感じていることが明らかになっています 3)。

 

フィードバックがうまくいかない理由

 

現実にはフィードバックを適切に行うことは簡単ではありません。その理由として、主に 「受け手の心理的反発」 と 「伝え手の心理的バリア」 の2つが挙げられます。

 

1. 受け手の心理的反発 – 「自己評価を守りたい」

人はフィードバックを受けると、自分を否定されたように感じ、防衛的になることがあります(Ellis, 1994)4)。これは、「自己評価の維持」や「自己効力感の低下」を防ぐための自然な心理的メカニズムです。

  • フィードバックが適切でも、受け手が防御的になると受け入れられない

    • 「このままだと成果が出にくいよ」と伝えられると、「自分はダメなのかもしれない」と過度にネガティブに受け取る

    • 批判されたと感じると、感情的な反発が生まれ、成長の機会を逃してしまう

  • フィードバックをする側も「伝えても意味がない」と感じ、躊躇するようになる

    • 何度伝えても響かない、反発されるという経験が重なると、フィードバックを避けるようになる

 

2. 伝え手の心理的バリア – 「和を乱したくない」

フィードバックを伝える側も、無意識のうちに心理的な抵抗を感じやすいものです。特に 日本の組織文化 では、「和を乱さないこと」 が重視されるため、次のような不安が生じやすくなります。

  • 「相手を傷つけるのでは?」という不安

  • 「関係が悪化するかもしれない」という恐れ

  • 「対立を避けたい」という意識

その結果、本来必要なフィードバックであっても、言いにくさから避けてしまう という傾向があります。特に、厳しいフィードバックを避けるあまり、曖昧な表現になったり、後回しにされたりすることが少なくありません。

これらの課題を克服するには、単に「正しいフィードバックのフレームワーク」を学ぶだけでは不十分です。
重要なのは、相手が受け取りやすく、かつ伝える側も無理なく実践できる方法を身につけること。そのために有効なのが、「アサーション(assertion)」 という心理学的スキルです。
アサーションを活用することで、

  •  相手を尊重しつつ、率直に伝える

  •  心理的な反発を抑え、建設的な対話を生む

  •  「伝える側の不安」も軽減される

このように、フィードバックの「内容」だけでなく、「伝え方」を工夫することで、より効果的なコミュニケーションが実現できます。

 

2. アサーションとは?——心理学的定義と根拠

 

アサーションの基本概念

 

アサーション(assertion) とは、「自分の意見を率直に伝えつつ、相手の意見や感情も尊重する」コミュニケーションスキルです。この概念は、1970年代に心理学者マヌエル・J・スミス(Manuel J. Smith) によって体系化され、自己主張のスタイルとして広く研究されてきました。特に、彼の著書 When I Say No, I Feel Guilty(1975年)を通じて、アサーション・トレーニングの実践法が広まり、一般にも広く知られるようになりました。
アサーションの特徴を理解するために、コミュニケーションの四象限をここでご紹介します。

 

 

  1. 相手を否定・自分を否定(非主張的・無関心なスタイル)
    このタイプでは、自己主張をせず、相手の意見や行動にも関与しません。例えば、「勝手にやられると責任が取れないけれど、指摘するのは面倒だから放っておこう」といった態度が当てはまります。一見、対立を避けているように見えますが、長期的には問題が放置され、関係性の悪化や業務の停滞を招く可能性があります。
     

  2. 相手を否定・自分を尊重(攻撃的なスタイル)
    このタイプでは、自分の意見や立場を強く主張するものの、相手の気持ちや状況には配慮しません。例えば、「相談もせずに勝手にやるのをやめてもらえますか?」や「勝手にやられると困るのはこっちなんですけど」といった言葉がこれに当たります。このスタイルでは、短期的には自分の要求を通せるかもしれませんが、相手との関係性が悪化し、信頼を損なうリスクが高まります。
     

  3. 相手を尊重・自分を否定(受け身的なスタイル)
    このタイプでは、相手を尊重するあまり、自分の意見や立場を犠牲にしてしまいます。例えば、「(こちらは困るけれど)そちらの事情もあると思うので承知しました」や「(正直難しいけど)こちらもなるべく協力します」といった発言がこれに該当します。相手との関係を重視するあまり、自分の負担が増えたり、不満が蓄積したりする可能性があります。
     

  4. 相手を尊重・自分を尊重(アサーティブなスタイル)
    このタイプこそがアサーションの理想的な形です。相手の意見や事情を尊重しながらも、自分の意見を率直に伝えることで、双方が納得できる解決策を模索します。例えば、「そちらの事情はよくわかりましたが、事前にご相談いただけるとこちらも動きやすいです」や「ご相談しにくい理由があれば遠慮なく教えてください。なるべくご相談に乗れるよう考えたいです」といった伝え方が挙げられます。このスタイルでは、相手との信頼関係を築きながら、建設的なコミュニケーションを行うことができます。
     

アサーションは、単なる「柔らかい伝え方」ではなく、相手と自分の双方にとって最適なコミュニケーションを行うためのスキルです。この四象限を理解することで、自分のコミュニケーションスタイルがどこに当てはまるのかを意識し、より良いフィードバックを実現するための第一歩を踏み出すことができるのです。

 

アサーション理論の心理学的背景

 

アサーションは、認知行動療法(CBT)の創始者であるアルバート・エリス(Albert Ellis)の理論と深く結びついています。エリスは、人の行動や感情が「認知(思考)」によって形成されるとし、非合理的な思考が対人関係の障害になると主張しました。
例えば、「フィードバックをすると相手が嫌がるかもしれない」という非合理的な思い込みが、フィードバックの機会を失わせる原因になり得ます。アサーションは、このような心理的なバリアを克服し、相手との関係を損なうことなく率直に伝えるための手法として有効なのです。

このように、いかに相手に伝えるか、うまくフィードバックするかということをここまではお伝えしてきました。
しかし、現実には言わない方が良いと空気を読んで言い止まるべき場面があったり、あえて強く伝えなければならない状況がビジネス場面ではよくあるのではないでしょうか。

 

後編では、アサーションをビジネスで活用するため、「何を、どのように、どのタイミングで伝えるのが最も効果的か?」までを考慮したコミュニケーションについて解説します。

後編となる「【後編】衝突を恐れないアサーティブなフィードバックとは」は、
こちらのコラム一覧からお読みください。

このコラムを書いたプロフェッショナル

長峰 悠介

長峰 悠介
株式会社働きごこち研究所 代表取締役

日本電気株式会社を経て、株式会社プレセナ・ストラテジック・パートナーズやメンタルヘルス関連サービス企業でのマインドフルネス講師、法人研修開発に従事。
現職でも、大手メーカーなどに向けたレジリエンス/アサーション研修に多く登壇。

日本電気株式会社を経て、株式会社プレセナ・ストラテジック・パートナーズやメンタルヘルス関連サービス企業でのマインドフルネス講師、法人研修開発に従事。
現職でも、大手メーカーなどに向けたレジリエンス/アサーション研修に多く登壇。

得意分野 モチベーション・組織活性化、安全衛生・メンタルヘルス、コーチング・ファシリテーション、コミュニケーション、ロジカルシンキング・課題解決
対応エリア 全国
所在地 千代田区

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