AIに代替されない「育成フィードバック」の核心
細谷です。社内講師を育成するとき、最も効果のあるトレーニング法の1つに模擬講義があります。模擬講義は実際に受講者がいると想定して大体5分~20分間でおこなうものですが、登壇者の基本姿勢から「巻き込み方」、「思考の促し方」、「双方向の生み出し方」などをトータルにアセスメントし、講師としてのスキルアップに繋げるものです。
最近では、講義動画を録画して、講師の話しぶりや立ち居振る舞いなどをAIで分析する技術も出てきているようで、人の行動のアセスメントも徐々に自動化される時代になってきていると、やや他人事のようにも思ったりします。
私が講師養成において模擬講義の有効性を知ったのは、今から20年前に塾予備校の講師トレーナーとしてフィードバックする機会が増えたときからでした。当時の研修センターには常時100名ほどの研修生が在籍していて、私の他に4人の先輩トレーナーたちと連携しながら、研修生たちがなるべく早く一人前の講師として現場で活躍できるよう関わっていました。
その中で私は、先輩トレーナーたちの育成手法をそれらしく真似しながら研修生の模擬講義へのフィードバックでは、「視線が合っていて良いですね」や「講師らしくなってきましたね」などと褒めたりします。時に「発問が漠然としているから、もっと絞り込むといいですよ」や「その一本調子な話し方だと生徒が飽きてしまいますよ」といった改善点も入れながら研修生と向き合っていました。当時の私はこうした褒めと改善点を入れた研修生へのアドバイスが彼らの成長につながるのであれば、いくらでもアドバイスをしていこうと一生懸命だったのを覚えています。
ところが、数カ月がたった頃に、先輩が担当する研修生と私が担当する研修生とで彼らの成長度合いに少しずつ差が見えてきました。当時の私は「研修生個々の能力の差だろう」といった認識で、時には「研修生の努力不足だ」と決めつけるようにもなり、やがて私が担当する研修生の多くが研修期間内に現場に配属できないという事態に発展していきました。
このときは、さすがに自分にも原因があるのではと思うようになり、何人かの研修生に恥を忍んで逆フィードバックを求めてみました。すると、私の育成における研修生からの印象は「優しいトレーナー」でも「厳しいトレーナー」でもなく、彼らがなんとなく自覚している課題感に、なんとなくコメントをしてくれる「当たり障りのないトレーナー」だったということがわかりました。
一方で先輩トレーナーたちのコメントを徹底して観察していくと、そのフィードバックには必ず「その発問は何を考えさせようとしたのですか?」「早口になってしまう時ってどんな時ですか?」「この所作をあと10回練習すれば必ずできるようになりますよ」といった研修生がとった行動の「意図」と「背景」と「見通し」に触れていることがわかり、しかも双方向の対話によって個々に落とし込もうとしているのがとても衝撃的でした。
それとは対照的に当時の私のフィードバックは、目の前で展開される研修生の行動を「現象面」だけで言語化し、それに私自身の感想を乗せただけの陳腐で一方的な「安いアドバイス」だったと反省したものでした。
最近思うのは、人の成長には第三者からフィードバックが、良薬にもなり毒薬にもなると感じています。また一方で、かつての私のように、「薬にも毒にもならない」、「相手に何も変化を引き起こさない」、ある意味「罪な関わり方」で育成を停滞させる怖さを考えるようになりました。
冒頭に生成AIが人間のアセスメントをおこなう時代が来ていると書きましたが、仮にそのAIからのフィードバックが、映像に映るその人の行動の現象面だけをとらえ、それが薬にも毒にもならない「安いアドバイス」になっているとしたら、そこは「意図」「背景」「見通し」の観点から「人」が内面深くサポートする出番になってくるはずです。
そして、その相手の内面に入り込むフィードバックには、蓄積された情報をもとにしたAI的な伝達ではなく、経験に裏打ちされたトレーナーや育成担当者による「心理的洞察」が垣間見られると思っています。
人材育成の場面において、みなさんの組織では、「人にしかできない」どんなフィードバックが交わされているでしょうか。
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