「誤答を扱う」ことを恐れない
細谷です。先日、人材開発担当者の方たちを対象に、「講師養成の視点で考えるリーダーシップ10の要点」というテーマでエンゲージメントを高める集団形成と成果を出すリーダーの関わり方についてお話ししました。10の要点には私たちの業界における学ばせ上手な講師が集団授業を運営する上でのポイントが詰まっていて、特にその中の「誤答を扱う」という項目がみなさんに刺さった印象でしたのでこの場を借りて共有します。
ここで言う「誤答を扱う」というのは、授業で言えば生徒が演習問題を解いたあと、解説の際に講師が特定の生徒の解答(考え)を使って授業を進行させる場面のことをいいます。このとき講師は生徒が問題を解いている間に「どの生徒の解答を扱うか」という点とその後の展開を想定するわけですが、多くの講師は「正答の答案」をもとにその後の解説を組み立てようとします。理由は簡単で、そのほうが無難に進むからです。
では、なぜ学ばせ上手な講師はわざわざ手間のかかる誤答を扱った展開を図るのでしょうか。
それは講師が誤答を正答以上に集団全体を考えさせる有用な教材と認識しているためです。もちろん正答を拾い、そこに解説を加えれば無難に進行するのですが、答え合わせのように単調になりやすく学習効果という観点からあまりよい方法とは言えません。一方で学ばせ上手な講師は敢えて正解ではない答案を使って展開するため、集団全体がその答案の思考プロセスを追体験でき、自分の思考との違いを認識できます。そして講師は自ら解説することなくファシリテーターとなり、他の生徒の発言を活かしながら全体で考えさせようとします。この一連の展開を私たちは「誤答を扱う」と言っています。
このとき大切なのは講師は生徒の誤答を扱う以上、その生徒に恥をかかせることなく集団全体の学びに繋げる技術が求められます。講師の中にはそもそも抑えつけるような指導で誤答を言わせない輩や、講師自らが得意気に解説する者もいるのですが、学ばせ上手の講師というのは生徒から拾った誤答をファシリテーターの立場で正答へのプロセスを生徒から引き出すことに長けています。こうすることでその誤答が単なる間違いの答案処理ではなく、生徒全員で解決するための良質な教材として提示されます。
先日の私の話の中ではこの「誤答を扱う」ということが職場に置き換えたときに何を意味するのかをみなさんに考えていただきました。
仮に誤答をミスや失敗と捉えたときに、リーダーは部下やメンバーに正解指導で終わらせることなく、恥をかかせることもなく、チーム全体の学びとなるような場を作ろうとしているだろうか。
更にそれを許容できるリーダーの度量とチームメンバーから「ポジティブな誤答」が上がる心理的安全な環境を醸成しているだろうか。
リーダーが誤答を前にしたとき、「誤答を扱うこと」を恐れるのか、それとも組織の成長のチャンスとしてとらえるのかでチームメンバーの挑戦意識も変わってくると感じています。
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