チームが主体的になる目標の作り方・活かし方
評価への納得感の不足は、目標の質の低さから始まる
企業研修の現場で、評価への不満を耳にしない日はありません。
- 「評価基準が曖昧だ」
- 「上司の主観で決まっている気がする」
- 「頑張っても報われない」
こうした声の根本には、実は目標管理制度そのものではなく、目標の質の低さという問題が潜んでいます。
そもそも目標は、評価のためにあるわけではありません。自律:セルフコントロールのためにあるという思想が、多くの企業で理解されていないのです。
その結果、目標設定、評価面談、そして、その道中の対話の質を高める努力なく、「制度さえ良ければいい」「社員の文句が出なければいい」という安直な考えのもとに闇に葬られてきました。
私はこの問題を解決するためには「目標マネジメント」が必要だと考えます。どうぞ、ごゆっくりお付き合いください。
管理ではなくマネジメント
目標マネジメントとは、制度をいじることではなく、目標の作り方そのものを深く考え、実践し、対話の中で磨き上げていくプロセスです。
また管理ではなく「マネジメント」という言葉を用いることにも鍵があります。
ドラッカーはマネジメントを「与えられた条件の中で、なんとか成果を生み出す人間の営み(なんとかする)」といった意味合いで捉え、環境の不確実性や人間の多様性を前提に「状況を整え、成果が出るように工夫し続けること」として語りました。
にもかかわらず、日本では「マネジメント=管理」と訳されたことで、「間違えないようにする」「決められた手順から外さないようにさせる」というニュアンスが強まり、「なんとかする創造的行為」よりも「ミスを出さない統制行為」として理解されてしまったのです。
つまり目標や評価の諸問題は、人事制度の良い/悪いが論点ではなく、制度を活用した日々のマネジメントにこそ光を当てて見直すべきです。それができれば、挑戦と納得感を生み出し、働く人の充実感は生み出せると考えています。
今回は、私が企業研修で実際に使っているステップを詳しくお伝えします。また、この考え方をプライベートでも活用できるよう、具体例を交えながら解説していきます。
ステップ1:理念 ー 主体性の出発点は「つながり」を言葉にすること
目標マネジメントの第一歩は、理念から始まります。
理念とは、理(客観:Objectives)と念(主観:Subjectives)を融合した軸のことです。
人は意味づけを求める生き物です。
私たちの行動の多くは、「いまこの瞬間をなんとなくこなす」ではなく、「昔から続いてきた物語の続き」として体験されます。
日本人が正月に初詣に行くのは、お願いすればラッキーになれるからではありません。
何百年も前から、人びとはその土地の氏神様に感謝と祈りを捧げることで「この地域で支え合って生きる」という物語を紡いできました。
同じ神社にお参りすることで、先祖やこの地域に暮らしてきた人との繋がりを感じる。そんな大きな物語の中に、自分も登場人物の一人として立っている。だからこそ、今年も清い心でこの地域や社会に貢献したい(主体)という感覚が強くなります。
出典
「【初詣】開運のカギは遠くの大社より近くの氏神様?」
レタスクラブ (2021年12月29日) 岩下宣子先生(現代礼法研究所主宰)監修
仕事でも同じで、会社やチームの物語の中で「自分はどんな役割のキャラなのか?」を自分なりに意味づけできると、「言われたからやる」から一歩進んで、「自分だからこそこう動きたい」と思えるようになります。それが主体性が上がる、という状態です。
したがって理念とは、自分と外を「つなげる」役割を果たします。
これまでの活動と会社の理念を重ねて「つながり」を言葉にすることが、目標を主体的に考える上での出発点なのです。
ステップ2:客観(Objectives) ー 方向づけがなければカオスになる
次に必要なのが、客観:Objectivesです。
なぜ客観が必要かと言えば、方向づけするためです。
少し想像してみてください。地域の高校生が集まっています。
野球部、柔道部、弓道部、写真部。この4者に「この60分で自分が思う最高の行動をしてください」と指示を出したら、どうなるでしょうか?
おそらく、ピッチャーが巴投げされたところを矢が飛び交っている写真が完成します。つまりカオスです。
ただし、これは「自主性(自分が良いと思うことを行動すること)」の結果なのです。主体性(Subject)とは違います。
では主体的に活動するには何が必要か。
例えば
60分の制限時間内に、
地域の高校生が大縄跳びで最高記録を出し、
地域の人に感動をもたらそう
などと、客観的な方向が必要なのです。これを広い意味での目標(客観:objectives)と呼びます。
2-1. ゴールtarget:測定可能な指標
目標はさらに分解できます。まずゴールtargetは「大縄跳びで最高記録を出す」です。これは「感動をもたらす」という状態目標を測定する補助になっています。
2-2. 目的vision:貢献対象のストーリーを共有する
次に目的visionは、「地域の人に感動をもたらそう」が該当します。状態目標とも言えます。同時に、目的visionには具体的な貢献対象の情報が必要です。
この場合、「地域の人」という貢献対象ですが、メンバーが共通認識できるくらいの具体的な解像度が必要です。
加えて、貢献対象にもストーリーがあり、それが目的visionを作る上での重要な手掛かり情報となります。
例えば「地域の人」は最近、大雨による浸水で大変な思いをしたかもしれません。地域の住民皆で復旧作業が終わり、慰労を兼ねた屋外イベントの中で、
「この地域の結束力を記録に残すべく、大縄跳びで最高記録を出す」
という出し物だとしたら、最高記録かどうかに関わらず、見る人を感動させるでしょう。
やる側も、自分が所属している部活動が何かに関わらず、主体的に練習したり準備をするはずです。
つまり、客観objectivesには貢献対象のストーリー情報(お困りから理想へ)の共有が欠かせないのです。
ステップ3:主観(Subjectives) ー 一人ひとりの主観を尊重しなければ客観もない
共通の客観に向けて、一人ひとりの主観を発揮し合う必要があります。言い換えると、主観がなければ客観もないのです。
それなのに、働く中で一人ひとりの主観を尊重せず、耳を傾けない管理が多い。それが低生産性や静かな退職など、人と組織にまつわる昨今の諸問題を生み出しているように見えます。
主観subjectivesの中にも2つあります。役割missionと価値観valuesです。
3-1. 役割mission:「私が他者に送りたい価値はなんですか?」
ミッションの語源はmittere(送る)です。元々は中世キリスト教の礼拝の終盤で「(信者の皆さんが)神の言葉を届けなさい」という意味で使われたといいます。現代の企業活動においては「社会に送る価値」と解釈できます。
つまり、役割missionとは「私が(私たちが)他者に送りたい価値はなんですか?」と問い直すと理解しやすいのです。
その手掛かり情報は、自社や自分の中にあります。手当たり次第挑戦してきた幼少期、企業の黎明期の中で不思議と「ありがとう、さすがだね」と感謝された共通要素があるでしょう。
それが「価値を送った」象徴的なパーツであり、マクロで捉えるとどのような価値を送ることになるのか。つまり、他者からどんな役割を期待されているのかと考えると言葉が出やすくなります。
先ほどの地域の大縄跳びイベントを例にとれば、一人一人にミッションがあります。
足腰の使い方の指導で貢献する野球部員
スタミナの付け方で皆に貢献する柔道部員
その他リーダー役、モチベート役、広報役など、自分ならではの役割発揮は、挙げればキリがありません。
繰り返しですが、ゆえに「ありがとう、さすがだね」という過去の手掛かり情報を集めなければ、私はなんの役割なの?いる意味があるの?と虚無感により能力が発揮できなくなるのです。
3-2. 価値観values:判断のショートカットを可能にする
バリューの語源はvalere(ヴァレレ)で「力強い」という意味を持ちます。古代ローマから、物品やサービスが内在的な性質、つまり「力強さ」を評価するために用いられてきました。
ここで大事な点は、外発的に何かと比べて価値がある/ないを論じているわけではないということです。比較対象ではなく、絶対的に力強さを感じるかどうかです。
ということはバリューとは「何を大事だと感じるか」です。これが転じて行動基準や判断基準になっています。先述のミッションと絡めて考えると、他者に価値を送る上で、いつも大事にしたい判断の拠り所=バリューという解釈になります。
バリューがあると何が良いのかというと、判断のショートカットができるのです。変化が激しい中で、ありとあらゆる事態を想定した完璧なマニュアルや法整備があるはずがありません。その中でも一貫性のある判断をしなければ物事が進まない。そこでバリューが必要になるのです。
ということは、バリューを浸透するというのは、ただ単に言葉を暗誦するのではなく、過去に判断したことがバリューに則ってどのような影響をもたらしたのかを、因果関係つけて言葉にすることが重要です。
心がこもらない朝の暗唱に時間を費やすなら、バリューに則った振り返りをした方がはるかに対話品質は高まります。
地域の大縄跳びイベントを例にとれば、
「最後まで諦めずに挑戦しよう」
「失敗したら人を責めずに、次にどうするかを話し合おう」
「思ったことは話し合おう」
などというチーム共通のバリューが共有されていることです。
その前提には一人一人に何を大事にするかというバリューもあるはずです。
「思ったことは話し合うべきだ」
「後悔は残したくないものだ」
など、一人一人のバリューを手掛かりに、チームのバリューとのつながりを話し合うことが、チームの一員たらしめる(組織社会化)には欠かせません。
ステップ4:タスク実践(Key Result) ー 必達と種まきを分けて考える
主観を客観へ向かわせると、集中すべき物事が見えます。それらをタスクと呼びます。
例えば大縄跳びのイベントなら、メンバーを募集する、全員が集まるスケジュールを作る、練習方法を決める、練習のための備品を買う、練習会場を手配するなど、あげればキリがありません。
私がおすすめするのは、一度チームでのタスクを全て書き出して、フレームワークで整理し、誰がいつまでに何を実施するのかを分担することです。この対話自体は2時間ほどあれば終わります。
「2時間もかかるのか」と思うかもしれませんが、それをやらずにタスクが散乱し、やる人とやらない人の不公平感を愚痴り、リーダーが全ての抜け漏れを回収する激務に追われるという、数ヶ月にも及ぶ精神的疲労を考えれば、2時間の対話がどれほど魅力的であるのかは自明でしょう。
また、タスクにも2種類あります。これが目標マネジメントの本質とも言えます。必達タスクと種まきタスクです。
4-1. 必達タスク(目標達成率:100%) ー やって当然、できなきゃ炎上
例えば大縄跳びイベントなら、「いつまでに大縄跳びを購入する」「練習会場の公民館会議室を予約する」などです。これがないと始まりません。
しかし、こうした「やって当然」「できなきゃ炎上」というタスクをやり続けることは、「燃え尽き症候群」というリスクを孕みます。もちろん、そうした「やって当然」という要素に使命感を感じて仕事を楽しめる人もいますが、人によっては「作業をこなすだけ」と解釈してしまいます。
知的労働、無形資産を生み出す仕事に従事する人であれば、必達タスクだけで動機づけするのは困難です。
また、組織としても当たり前のことだけをやっていては、現状維持どころか衰退します。つまりストレッチな「種まき」が必要なのです。
4-2. 種まきタスク(目標達成率:70%) ー 将来に向けた工夫、実験、挑戦
種まきタスクは将来に向けた工夫、実験、挑戦のことです。例えば大縄跳びイベントの例では
地域のつながりをつくる活動が継続するよう、練習過程の動画を編集してSNSにアップする
などが良い種まきタスクです。直接的にはイベントの成否には関係しませんが、将来や後世のことを考えると重要な資産になります。
本来はこうした挑戦を後押しする目的で、鍵となる結果指標:キーリザルト(KR)が発明されました。有名なOKRです。
OKRはムーンショット(月に行くくらいの壮大な目標)であることが推奨されます。早い話が「ほらふき」でOKなのです。
したがって達成率は70%でも構わないし、やったことから何が活用できそうなのか、あとで必達目標に活用できれば良いのです。
さらに重要なことは、種まきタスク(OKR)は人事評価と分けて考えることです。ここが日本企業にはなかなか理解し難い部分かもしれません。
種まき目標で得られた成果は70%の達成率でも加点要素として考慮し、できなかったからと言って減点したり、100%でないから加点しないということもしません。
なぜなら人事評価の本質は「貢献」であり、「有言実行」か「ほらふき」かではないのです。
有言実行であっても組織への貢献が低ければそれ相応の評価をすべきですが、残念ながら「無難な目標」を掲げた人ほど評価で得する仕組みが、日本企業からチャレンジ性を奪う根本腫瘍だと思います。
ステップ5:振り返り面談 ー 変化を話し合い、成果の実現に向けてなんとかする
日々の対話や振り返り面談については別の機会で述べていますが、重要なことは客観、主観、タスクは実践と同時に微妙に変化するということです。
その変化を話し合い、成果の実現に向けてなんとかすることがマネジメントであり、それをメンバー主体で話し合う場が1on1なのです。
目標マネジメントは、人が人として生きる本質を取り戻すツールだ
私自身、人材開発分野で講師業を志したのは、人やチームの活かし方に大きく悩んできたからです。
高校時代の部活では部長職をクビになり、大学時代のバンド活動では成果が出ないことに腹を立てたり、多くの関係者を傷つけるようなことも言ってしまいました。
もし高校時代にリーダーシップ、マネジメント、目標マネジメントについて正しく学んでいたら、青春時代はもっと華々しい思い出の数々になっただろうと思います。
それゆえ、難しいことをわかりやすく、誰でもチームワークの面白さを体感してほしいという思いがあります。
スマホ1つでなんでもできる時代だからこそ目標の対話を
今の時代はスマホ一つで起業ができ、生成AIによって驚くほど価値が生み出せるようになりました。
言い方を変えれば「他者が不要」になっています。
しかし、人が人として生きる本質は、縄文時代も今も変わらないように思います。
協力して困難を乗り越え、成果の果実を分け与え、共に喜ぶ。
DNAに刻まれたストーリーは、半導体チップがどれだけ微細化しようと無関係でしょう。
だとすれば、人が人と貢献しあう尊さはこれからも変わらないはずであり、生成AIの発展を理由に「コミュニケーションは必要ない」とするのは、あまりにも歴史を知らない無知で安直な考えなのではないでしょうか。
ゆえに、今後も人と人との摩擦に悩む中から新しい解釈を得て、新価値や幸福感を得るべく、この目標マネジメントを一つのツールとして活用してもらいたいのです。
最後までご覧いただきありがとうございました。
これを読んで、「自社も、きっと良い会社にできるはずだ」と信じる方、何かを変えたい方は弊社アンドアにお問い合わせください。
お力になります。
このコラムを書いたプロフェッショナル
堀井 悠
アンドア株式会社代表取締役
慶應大卒|企業内の対話の質向上に特化した研修講師、人材開発コンサルタントとして500案件以上の実績。スターバックス、リクルートなどを経歴。主体性を引き出す目標設定、評価面談手法で満足度98%をマーク。独自のデータ分析とメソッドで支援する。
堀井 悠
アンドア株式会社代表取締役
慶應大卒|企業内の対話の質向上に特化した研修講師、人材開発コンサルタントとして500案件以上の実績。スターバックス、リクルートなどを経歴。主体性を引き出す目標設定、評価面談手法で満足度98%をマーク。独自のデータ分析とメソッドで支援する。
慶應大卒|企業内の対話の質向上に特化した研修講師、人材開発コンサルタントとして500案件以上の実績。スターバックス、リクルートなどを経歴。主体性を引き出す目標設定、評価面談手法で満足度98%をマーク。独自のデータ分析とメソッドで支援する。
| 得意分野 | モチベーション・組織活性化、キャリア開発、マネジメント、コーチング・ファシリテーション、コミュニケーション |
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| 対応エリア | 全国 |
| 所在地 | 横浜市西区 |
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