スマホやウェブから「給与の即日払い」を手軽に行えるサービス「Payme」が、急速に導入企業を増やしています。柔軟な働き方を推進していくために“給与の自由化”を目標に掲げ、2017年11月のリリースからわずか半年で約100社・1万5000人が利用するサービスへと急成長。運営主体の株式会社ペイミーへの出資も順調に集まっているといいます。その一方で、新しいサービスゆえのわかりにくさや、ペイデイローン(小口消費者金融)ではないか? という疑念などから、導入をためらう企業もあるようです。同社の創業者でもある代表取締役CEO・後藤社長に、サービス開発の背景や、具体的な仕組みと導入メリット、法制度との整合性など、人事が知りたい「本音の疑問」にじっくり答えていただきました。
「柔軟な給与支払い」が求められる時代へ
「給与の即日払い」サービスを始めようと思われたきっかけは何ですか。
いちばん大きいのは、世の中が「柔軟な給与支払い」の実現を求めていると感じたことです。近年は働き方改革の名の下に、多くの人々の働き方が変わってきています。しかし、給与支払いについては「月末締めの翌月払い」の仕組みが50年以上も変わっていません。このミスマッチの影響をもっとも大きく受けているのが10代、20代を中心とした若い世代です。現在、単身世帯の2人に1人が貯蓄ゼロ。しかも、急速に増えているというデータがあります。つまり、新しく仕事を始めて、すぐに給与を受け取れなければ困ってしまう人がたくさんいるわけです。ニュースにもなった、フリマサイトで現金が売買されるような事例の背景には、若い世代の資金需要が満たされてないという実状もあるのではないでしょうか。
そう考えるのは、私自身が学生時代のアルバイトでこの問題に直面したことがあるからです。4月から働き始めたのですが、最初は研修期間で本採用は5月から。そのため、最初の給料日は「6月25日」だと言われ、あぜんとしました。給与が入るまでの2ヶ月間をどう過ごせばいいのだろう、と。しかも、似たような経験をしている人が周りにたくさんいることに気づきました。たとえば、ゴールデンウィークに旅行へ行こうと4月からアルバイトを始めたのに、給料日が「5月25日」だったとか、正社員として働くことになったけれど、4月は研修期間ということで給与が日割りになり、もらえる金額がびっくりするほど少なかったとか。また、若い転職者も最初の給料日までをどう乗り切るかは切実な悩みかと思います。
こうした給与にまつわる問題の根幹にあるのは、「すでに働いた分の給与」が翌月末まで支払われないことです。給与の支払いがもっと自由になれば、若い人たちの資金需要はかなり解決できるのではないか。そう思ったのが給与即日払いサービス「Payme」を開発するきっかけになりました。
企業にも従業員にも使いやすいシステムを実現
具体的にはどのようなサービスなのでしょうか。
企業には「初期費用ゼロで導入できる福利厚生サービス」としてご利用いただいています。従業員データと勤怠データを「Payme」に登録していただくだけで給与即日払いが可能になります。
勤怠データに連動して、アプリ画面には「自分がすでに働いた分の70%」を上限として即日払いが可能な金額が表示されます。この金額の範囲であれば1000円単位でいつでも即日払いを申請できます。利用するのかしないのかはもちろん、利用金額も本人の意思で自由に決めることが可能です。利用申請があった場合、弊社がその金額を立て替えて、口座に即日振り込みます。ちなみに、上限を70%としているのは、企業側が控除する社会保険料などを見込んでバッファをとっているためです。
利用された場合、お支払いする金額から「利用手数料」を差し引いています。手数料は企業の信用度に応じて3~6%と多少の幅があります。「Payme」が利用されるボリュームゾーンの8000円で計算すると、6%として手数料は480円。銀行やコンビニのATMを利用するときに発生する「便利なサービスの対価」だとご理解いただければと考えています。
従業員から申請があって即日払いした分は月末で締め、利用状況明細を発行。各企業にまとめてご入金いただく、という流れです。企業側には手数料の負担はありません。
こうしたサービスは「Payme」が初めてなのでしょうか。また、同様のサービスがあるとすれば違いはどこなのでしょうか。
給与前払いサービスは以前からあります。ただ、本部に申請してから振り込まれるので手間や時間がかかったり、支払いのための原資を企業側が事前に払い込んでおかなくてはならなかったりと、あまり使い勝手の良いものではない印象があります。
そこで「Payme」は、企業・従業員の双方が非常に使いやすい、シンプルなサービスをめざして開発しました。最大のメリットは、即日払いの可能金額の確認と申請が従業員のスマホアプリやWebサイトからできてしまうことです。忙しい現場の業務負担を一切増やすことなく、いつでもどこでも即日払いのサービスを利用できます。
しかも利用者は、上司の顔色や周囲の目を気にすることなく、自分の判断だけで利用できるので気を使わなくて済みます。その一方で、雇用側は従業員の利用状況を管理画面から確認できるので、あまりに利用が多ければ何か問題が発生しているのではないかと気を配ることもできます。
求人応募数が3倍以上に。定着率も向上
「給与の即日払い」を導入すると、どのようなメリットがあるのでしょうか。
まずはっきりと効果があるのは「求人応募数の増加」です。どの業界でも、求職者が重視する項目のトップ3には「給与の日払いや週払い」が入っています。それくらい働き始めていつ最初の給与がもらえるのかは大きな関心事になっているのです。そのため、ほぼ同条件の求人で比較すると「給与の即日払い」があるのとないのとでは、3倍以上も応募者数に差が出るという調査データもあります。しかもこれがコールセンターや飲食業界になると、5倍以上の差が出ることもあります。人手不足が大きな問題になっている現在、導入のための初期費用ゼロでそれだけの効果を出せるサービスは他にあまりないのではないでしょうか。
もう一つは「定着率の向上」です。実はコールセンターや飲食といった業界では、退職がもっとも多いのは最初の月と言われます。しかし、「給与の即日払い」があると初月から小さな成功体験を積み重ねることができ、しかも自分が働いたお金を手にすることで「もう少し頑張ってみようかな」と働くモチベーションを保つことができるわけです。弊社で働き始めから10ヵ月間のデータをとったところ、その傾向がたしかに確認できました。
また「Payme」の場合、即日払い自体は利用しなくても、スマホを見ると自分がその月にどれだけ稼いだかが金額で表示されます。日々増えていくその数字を見ることも、続けていくモチベーションになるようです。
では、逆にデメリットのようなものはありますか。
「Payme」は使いやすさ、特に現場の負担を増やさないことを意識して開発したサービスなので、デメリットはほとんどないと思っています。従来型の即日払いサービスから「Payme」に乗り換えられた企業からは、「現場の手間が減った」という声をよくいただきます。5000人規模のチェーン店の場合、毎月600人程度は採用します。日払い希望が多い場合、申請書の作成や現金管理などの対応がかなり大変です。「Payme」を導入することで、そういった業務がほとんどなくなって本来の仕事に集中できる時間が増えた、とご好評をいただくことが多いですね。
現在は約100社、1万5000人以上にご利用いただいています。業界としては、飲食、人材派遣、コールセンターといった人手不足が深刻な業界のほか、動画配信サイトにインフルエンサーを送り込むようなニューエコノミー系企業でも導入事例が出てきています。
あまりにも手軽に利用できて従業員さんがお金を使いすぎてしまう、といった声はないですか。
「Payme」の利用率は現状10~30%程度。従業員が10人いれば、1~3人が使うイメージです。30%の場合の内訳は、約20%が働き始めで最初の給料日までの資金が必要な人、残りの約10%が冠婚葬祭などで突発的に資金が必要になった人など。学生のアルバイトも含めると、飲み会や旅行といったよりカジュアルなニーズもあるようですが、それでも、本当に必要なときにだけ利用されていることがわかります。
中高年層の方々からすると、若い人にお金がないのは自己管理ができてないからだと思うかもしれませんが、今の時代、この層は「お金がないのが当たり前」です。仕事を見つけることはできたけれど、給料日はかなり先……。そういった若い世代の悩みを少しでも解消することが「Payme」のめざすところです。
貸金業法、利息制限法には抵触しないのか?
手数料3~6%というお話でしたが、これを年利に換算すると利息制限法の上限(20%)を超えてしまいます。貸金業法などとの関係はどうなっているのでしょうか。
すでに自分のものであるお金を自分の意思で引き出すという意味では、「Payme」は銀行のATMに近いという認識です。サービスを使う対価として手数料をいただいておりますので。また、「Payme」のサービスはお金を貸しているわけではありません。すでに働いて給与債権として発生しているものを立て替えて先払いしているだけです。まだ働いてない分までお支払いすることはありませんので、いわゆる「前借り」でもありません。従って、貸金業には該当しないと考えています。この点はサービスを立ち上げる前に厚生労働省や金融庁に相談し、労働基準法や貸金業法にも抵触しないことを十分に確認しています。
手数料が金利ではないことはよくわかりましたが、それでも従業員さんの負担になることを心配される声はありませんか。
「Payme」の利用でもっとも多いのが、一回に8000円。いずれにしてもほとんどが小口です。それに対してATMと同程度の数百円の手数料をいただこうとすると、どうしても3~6%になってしまうのです。
ただ、導入企業数がもっと増え、「Payme」を中心とした経済圏が十分に形成されてきたら、すべての手数料をゼロにし、完全にフリーミアム化することも構想しています。その上で関わる方々にメリットがある「おつり貯金」のようなフィンテックサービスや、成功報酬制でのアルバイト紹介といったHRテックサービスを新規事業として立ち上げ、そこを新たなキャッシュポイントにしていきたいと考えています。
現在、銀行や投資ファンド、ベンチャーキャピタルなど、こうした将来の事業計画も含めて「Payme」に出資してくださる機関投資家が集まってきています。このまま資金調達が順調に進めば、2019年度中をめどに「給与の即日払い」サービスに関する手数料をゼロにしていけると考えています。それが実現すればさらに使いやすいサービスとなり、弊社のビジネスプラットホームとしてもより強化になり、拡大が期待できます。
「Payme」導入までのよくある質問や相談とは?
導入に際して審査のようなものがあれば教えてください。
導入前に2週間程度の審査期間をいただいています。通過率は97%。もちろん、個人商店などにも導入が可能です。詐欺集団のような反社会的な団体や極端に資金繰りが悪化している場合のみ、チェックしている状況です。
企業からの問い合わせで多い質問、相談にはどのようなものがありますか。
実務的なことでは「勤怠連携」をどうすればいいのかといったご相談をよくいただきます。各者の業務状況にあわせて、「CSV連携」「バッチ処理」「API連携」の三つから、もっともご負担なくスムーズな方法を選べるようになっています。
紙ベースで勤怠管理をしている、あるいは月末にまとめて入力処理をしているといった場合には、弊社と提携している勤怠サービスをご紹介しています。また、一日単位が難しい場合は、週単位にして「週払い」で対応することも可能なので、お気軽にご相談いただければと思います。
また、大切な勤怠情報を扱うシステムは、AWAS(アマゾン)とグーグルのサービスで運用しており、技術的にはきわめてセキュアなものになっています。銀行ともAPI連携しており、システム面の堅牢性も十分です。人為的なエラーに関しても、プライバシーマーク取得の審査に合格しており、十分な品質を担保しています。
今後「Payme」をどのような企業に活用してもらいたいとお考えでしょうか。
冒頭にもお話ししましたが、働き方が大きく変化している今、“柔軟な給与支払い”は欠かせないものになっていくと思います。この変化の波を敏感に捉えて、大きく舵を切っていける企業の方々と一緒に新しい未来を築いていければと考えています。
「資金の偏りによる機会損失のない世界を創造する」をミッションに、給与即日払いサービス「Payme」を提供。日払いや週払いを実現することで20代を中心とした若い世代の急な資金ニーズに応えるとともに、労働力が不足する企業の採用応募数・定着率の向上にひと役買うサービスとして支持を集めています。その導入実績は、2017年11月の正式版リリースより半年で100社を突破。現在もその数字を伸ばしています。