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【必読】目標管理制度を「詰めの道具」にしないための処方箋

――見えない貢献を可視化し、組織に「挑戦」を取り戻す3つのステップ

 

【本稿でお伝えしたいこと】

1.目標管理制度がときに機能不全に陥る原因は、日本の職場構造と噛み合わない制度前提そのものにある

数値目標偏重は、「おみこし」型の協働関係や見えない貢献を前提とする日本の職場では不協和音を生みやすく、現場の疲弊と人事担当者の消耗を招きやすい。

 

2.解決の鍵は、評価を「詰めの道具」から「対話と成長を支える装置」へ転換する非対称な制度設計にある

数値と行動を組み合わせたハイブリッド評価、評価と育成の分離、挑戦目標の未達を減点しない設計により、心理的安全性を担保しつつ挑戦を促すことができる。

 

3.制度の成否を分けるのは設計の精緻さではなく、運用における対話の質である

評価面談の対話化、ピア・フィードバックの非対称運用(プラスは補正、マイナスは関係・役割再設計、重大違反は制度外対応)を通じて、評価は人を裁く仕組みではなく、組織を前に進める対話ツールとなる。

 

「目標管理制度は、もう限界なのではないか」

人事担当者の方から、こうした声を聞く機会が増えています。労働経済学やキャリアカウンセリング系の研究者からも、同様の指摘がなされています。数値目標を厳格に運用すれば現場は疲弊し、緩めれば「評価が甘い」と経営から問われる。制度の理想と現場の現実の間で、多くの人事担当者が静かに消耗しているのが実情です。

 

しかし問題は、あなたの運用が下手だからではありません。目標管理制度(Management By Objectives:MBO)が、日本の職場構造と噛み合わないまま漫然と使われてきたことに、構造的な原因があります。

 

本稿は、前回の拙稿「日本の職場は『おみこし』である――目標管理制度(MBO)が見落とす“見えない貢献”の価値」において提示した問題提起を、実務レベルで掘り下げる続編にあたります。前稿では制度が機能不全に陥る背景を構造的に整理しましたが、今回はそれを踏まえ、「では、現場で何から手をつければよいのか」に焦点を当てます。

 

前稿を未読の方のために一言で添えると、日本企業の強みは個人の数値以上に、周囲を支える「おみこし」的な協力関係にあります。しかし、欧米流の目標管理制度はそうした“見えない貢献”を評価しきれず、結果として現場に不協和音を生んでいるのが現状です。

 

しかしながら、運用において問題の多い目標管理制度も、日本の職場構造に即した調整を施すことで、「評価のための数値管理」から「成長を支える対話ツール」へと転換し得ます。本稿では、そのための三つの現実的な改善方向性と、具体的な実践手法を示します。

 

1.ハイブリッド評価――数値と行動の最適なバランス

なぜ「ハイブリッド」が必要なのか

 

数値目標に偏れば、短期成果の追求が過度になり、育成やチーム貢献といった「測りにくいが重要な行動」が切り捨てられます。一方で、行動評価のみに依存すると、評価者の主観や人間関係が評価を左右し、「成果を出しても評価されない」という不信を招きかねません。

 

この両極端を避けるためには、数値目標50〜60%、行動評価40〜50%を基本とし、職種特性に応じて調整するハイブリッド設計が有効です。

 

実践の鍵――行動評価の具体化

行動評価を機能させる最大のポイントは、抽象的な言葉を観察可能な行動に落とし込むことです。

 

悪い例

  • 「チームワークを大切にしている」
  • 「積極性がある」

 

良い例

  • 「進捗が遅れているメンバーに対し、自らリソース調整を申し出た」
  • 「会議で発言が少ないメンバーに対し、意見を出しやすいよう問いかけやフォローを行った」
  • 「月3回以上、他部署との調整会議を主導した」
  • 「新人の質問に対し、原則24時間以内に対応している」

 

このように具体化することで、評価の予測可能性が高まり、「後出し評価」による無効化を防げます。

 

ルーブリックによる評価基準の明示

行動評価は、4〜5段階のルーブリック(行動尺度)として可視化します。

評価点

チーム支援

知識共有

5

他部署の課題解決に主体的に関与し、成果を生んだ

社内勉強会を主催し、継続的に共有

3

依頼された協力を確実に実行

質問には丁寧に対応

1

他者支援の姿勢が乏しい

ナレッジ共有が見られない

 

重要なのは、この基準を期初に本人と合意することです。期末になって初めて「チームワークが足りなかった」と告げられるほど、納得感を損なうものはありません。

 

主観性を抑える――評価理由の文書化

行動評価の恣意性を抑えるため、評価理由は具体的エピソードとともに文書化します。

 

「Aさんは目標達成率85%だが、期中のシステム障害時に休日返上で他部署の復旧を支援し、顧客影響を最小化した。この点を行動評価として加味した」

 

評価の根拠を残すことで、人事部による妥当性確認が可能になり、評価者間のばらつきも抑制されます。

 

2.評価と育成の分離――挑戦を促す仕組み

「目標未達=低評価」が挑戦を殺す

 

従来の目標管理は、「目標設定→評価→報酬決定」が一直線につながっています。この構造下では、従業員は失敗を恐れ、安全な目標しか掲げなくなります。結果として、組織に必要な挑戦が回避されてしまうのです。

 

二階建て構造による目標設定

この問題への現実的な解は、目標を二階建て構造に分けることです。

 

一階(報酬決定用・必達目標)

  • 役割や職務定義に基づく期待水準
  • 市場価値・ジョブに紐づく

 

二階(育成・挑戦用目標)

  • OKRに近い考え方
  • 高い目標を掲げ、未達でも減点しない
  • 達成時のみ加点評価

 

この分離こそが、現場に「守り」ではなく「攻め」の姿勢を取り戻す鍵となります。

 

挑戦の結果をどう処遇に反映させるか

挑戦目標の扱いは各社の報酬哲学に委ねられますが、実務的には「減点なしの加点方式」を軸にします。

  • 賞与への反映: 必達目標の達成率をベースとし、挑戦目標の成果を「プラスアルファのインセンティブ」として加算する。
  • 昇進・昇格への反映: 数値結果そのものよりも、高い目標に挑む過程で見せた「行動特性(コンピテンシー)」を評価し、次世代リーダーとしての抜擢材料とする。

 

重要なのは、「失敗しても現在の給与を脅かさないが、成功すればリターンがある」という非対称な設計を明示し、心理的安全性を担保することです。

 

ソニーは2000年代後半、成果主義の弊害を踏まえ、これに近い改革を進めました。必達目標を報酬に、挑戦目標を育成に位置づけることで、安心して挑戦できる環境を整えたのです。

 

育成シートによる学びの可視化

評価と育成を分離しても、育成が形式化しては意味がありません。四半期ごとに、

  • 得られた学び
  • 次に活かす行動
  • 改善計画

 

を記録する育成シートを用い、「未達そのもの」ではなく「学びの言語化」を評価します。

 

成功条件――経営層からの明言

この仕組みを機能させる最大条件は、「挑戦的目標の未達を評価上の不利益として扱わない」と経営層が明言することです。ある製造業では、トップが全社集会でこれを宣言し、挑戦的目標に取り組んだ社員を表彰することで、心理的安全性を高めました。

 

3.段階的改善――今日から始められる運用の質向上

評価面談を「対話」に変える

評価面談を、結果通知の場から対話の場へと転換します。

評価者が、被評価者の話を傾聴することを基本スタンスとします。

 

改善後の面談

  • 時間:30分以上
  • 内容:
    • 数値成果の確認
    • 数値に表れない貢献の言語化
    • 困難や成長の振り返り
    • 次期への期待共有

 

質問例

  • 「この目標に取り組む中で工夫した点は?」
  • 「数値に出ていない貢献は?」
  • 「私が見落としている努力はありますか?」

 

中間面談による軌道修正

期初と期末だけでなく、四半期ごとに進捗確認を行います。日本電産(現ニデック株式会社)では、進捗遅延が外部要因による場合、目標修正を躊躇しません。「目標は達成するためのツール」という発想が徹底されています。

 

ピア・フィードバックの活用

同僚からの感謝や支援履歴を参考情報として活用し、上司が見えていない貢献を補足します。ただし最終評価に直結させず、あくまで判断材料に留めることが重要です。

 

ピア・フィードバックの取り扱い原則――プラスとマイナスの非対称設計

同僚から寄せられる情報は、評価の精度を高めるための補助材料となり得ますが、その取り扱いには明確な原則が必要です。

 

まず、プラスの情報については、上司の視野からこぼれ落ちがちな貢献――周囲への支援や協働行動など――を補正するための参考情報として活用します。ただし、これらを最終評価に直接結びつけるのではなく、評価判断を立体化する材料にとどめます。

 

一方で、マイナスの情報は、評価点を下げるための材料としてではなく、評価面談における対話や育成、関係調整の起点として扱うべきです。マイナス情報の役割は「減点」ではなく、関係性や役割分担を見直すための材料にあります。

 

その際、当該情報は必ず事実確認と文脈整理を行ったうえで取り扱います。感情的評価や個人的関係性に基づく指摘は、評価判断からは意識的に切り離さなければなりません。

 

ただし、コンプライアンス違反、安全を脅かす行為、ハラスメントなど、組織として看過できない事案については例外です。これらはピア・フィードバックの枠内で処理するのではなく、別途定められた規程や手続きに基づき、評価制度の外側で適切に対応されるべき事項です。

 

このように、
・プラスの情報は「見えない貢献の補正」として
・マイナスの情報は「関係と役割の再設計の材料」として
・重大な違反行為は「評価制度の外側で扱う例外」として

 

非対称に設計することが、被評価者(従業員)の心理的安全性と制度の持続性を両立させます。

 

導入ロードマップ

1.評価基準の明文化(1〜2か月)
2.評価者トレーニング(2〜3か月)
3.中間面談導入(3〜4か月)
4.評価・育成分離の試行(4〜6か月)
5.指標見直しサイクル確立(6〜12か月)

 

おわりに――対話の質が制度の質を超える

私はこれまで、制度設計、現場運用、そして評価が人の内面や働く意味に与える影響という三つの層を行き来しながら、人事制度を見てきました。その立場から確信しているのは、目標管理制度の失敗は、担当者の力量ではなく、制度に過剰な期待を寄せてきた私たちの思考様式にあるということです。

 

制度を整えれば人は動く、という発想そのものを問い直さない限り、現場の疲弊は繰り返されます。発想や文化、価値観も異なる欧米の制度を漫然と移植しても、それを育て、根付かせ、実や花を咲かせる土壌に乏しいのは当然です。

 

目標管理制度は本来、組織目標と個人の成長をつなぐ「対話のツール」であるべきです。制度を精緻に作り込むこと以上に、現場で交わされる言葉のひとつひとつに、人事としての「願い」を込めてみてください。

 

制度が人を動かすのではなく、制度を通じたあなたの働きかけが、人を、そして組織を動かすのです。 明日の1on1での問いかけを変える――そこから、現場の納得感は確実に変わり始めます。

 

あなたの職場の目標管理制度は、評価のための仕組みでしょうか。

それとも、成長を支える対話の場になっているでしょうか。

 

 

 

 

このコラムを書いたプロフェッショナル

及川 勝洋

及川 勝洋
一般社団法人地域連携プラットフォーム シニアリサーチャー

制度や理論を現場で機能させることを一貫して追究。学術研究と実務の知見を架橋し、人材育成・キャリア形成を横断的に探究。人事施策を実装可能な形に翻訳し、個人の納得感と組織の持続的成長を支える伴走者。

制度や理論を現場で機能させることを一貫して追究。学術研究と実務の知見を架橋し、人材育成・キャリア形成を横断的に探究。人事施策を実装可能な形に翻訳し、個人の納得感と組織の持続的成長を支える伴走者。

得意分野 法改正対策・助成金、労務・賃金、キャリア開発、資格取得、法務・品質管理・ISO
対応エリア 全国
所在地 志木市
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