2030年、AIが「伴走型コーチ」になる時代の人事の役割は?
新年ということで未来に思いを馳せ、2030年の人材育成を予測してみたいと思います。ちなみに、2026年ではなく2030年、つまり4年後です。長期的な人材育成トレンドを捉えるヒントにしていただけると幸いです。
●伴走型で指導してくれるAIコーチ
2030年、人材育成の中心はAIが担っています。それも、現在の使い方のように、「チャットでAIに聞いたら、それっぽく教えてくれる」という受動的な使い方ではありません。2030年のAIは、常に仕事のプロセスを見守り、必要な瞬間に介入する“伴走型コーチ”です。
たとえばお客様にメールを送る時。送信ボタンを押した瞬間、AIが内容をチェックし、こう助言します。
「この表現は誤解を生みやすいかもしれません。こちらの言い回しはいかがでしょう?」
会議が終われば議事内容を振り返り、
「もう少し他の参加者の意見を引き出せましたね。ファシリテーションの参考になる3分動画はこちらです」
と、学習素材まで提示してくれる。
このような世界観においては、既存の研修の多くはAIに置き換えられるでしょう。というのは、研修はどうしても「一般論」になってしまうから。汎用的に適用しうる仕事の原則を研修で学んだ後、「それを自分の業務にどう活かすか」はワンクッションあり、それが仕事の成果に繋がらない「壁」になってしまいます。
一方のAIコーチは、その場・その人・その文脈に即した最適解を教えてくれるので、人材育成の効率が圧倒的に高まります。
●AIでは実現できない「次代を切り拓く」人材育成
一方で、AIが万能というわけではありません。おそらく上述のAIコーチを読んで違和感を覚えた方も多いでしょう。「これって、人材育成ではなく、AIの言うがままに仕事をこなしているだけではないか?」、と。
このような人材育成におけるAIへの違和感は、実は今現在、2026年にも顕在化しています。それを端的に表したのが、米国の子供向け教育テクノロジーの先端、カーンアカデミーが提供するカーンミゴ (Khanmigo)。あえて最適解を教えず、問いを投げかけ、考えさせることに徹することで子供の考える力を高めようとのアプローチです。
この流れは、職場の人材育成にも確実に波及します。AIコーチによる“スキルの底上げ”が進む一方で、「考える力を鍛える人材育成」への需要は、むしろ強まるでしょう。
ただし、それは全社員向けの一律施策としては提供されません。対象は限定されます。すなわち、次代を担う幹部候補人材です。
すでに萌芽は見られます。コロナ禍が終わった頃を境にして、筆者は研修講師として幹部候補育成研修に携わる機会が飛躍的に増えました。そのクライアントの皆さまが口を揃えて言うのが、
「先が見えない次代を切り拓く人材が必要だ」
と。
社外を見れば、コロナ禍に限らず、AIをはじめとして、テクノロジーの進歩や地政学的なリスクは私たちの想定を超えています。一方社内に目を向けても、多様性の進展、価値観の変化、マネジメントの難易度上昇。このような中、「組織を取りまとめ、ビジネスを推進していくべき人材」を育成することが、会社の成長力を左右するとの理解が先端的な人事の間で広まっています。この領域は、前述のAIコーチによる底上げではとうてい応えられないことは自明です。
●メタバースによる越境学習プラットフォーム
この観点で幹部候補育成研修はどんどんと洗練されていくでしょう。そして、テクノロジーで注目すべきがメタバースです。……と聞くと、「メタバース?オワコンでしょ?」と思われるかもしれません。しかし、人材育成の観点から見ると可能性はむしろこれからです。
たとえば、「越境学習」。自社という組織の枠を超えて、社外の異なる立場の人々と真剣勝負で議論の刃を切り結ぶ。結果として新しい世界観と思考力を手に入れるというコンセプトは、幹部候補育成にマッチするものです。とはいえ、「社外と言っても、どこで?誰と?」など、運営の煩雑さから、現時点では大きな流れにはなっていません。
そこで、メタバース。場所の制約は消え、アバターによって会社名や肩書きも外れる。そして生成AIによる同時翻訳が実用化されれば、国境や言語の違いさえ意味を失います。世界中の人材と、対等な立場で思考をぶつけ合う。メタバースは、そんな次世代の学習プラットフォームになり得るのです。
●まとめ:未来を当てにいくのではなく、今を動かす
ここまで描いてきた2030年像は、あくまで一つの仮説です。別の未来を想像する方もいるでしょう。しかし重要なのは、「当たるかどうか」ではありません。
大切なのは、
未来を起点に今、何を仕込むか
です。
先が見えない時代だからこそ、人材育成のビジョンを言語化し、行動に移す。その一歩を踏み出せるかどうかが、これからの人事部門の価値を決めると筆者は考えます。
このコラムを書いたプロフェッショナル
木田 知廣
シンメトリー・ジャパン代表
ワトソンワイアットで人事制度の構築に携わり、その後ロンドン・ビジネススクールに留学し、グローバルリーダー育成の大家スマントラ・ゴシャールに師事(MBA取得)。2012年より米マサチューセッツ大学MBAの教鞭も執る
木田 知廣
シンメトリー・ジャパン代表
ワトソンワイアットで人事制度の構築に携わり、その後ロンドン・ビジネススクールに留学し、グローバルリーダー育成の大家スマントラ・ゴシャールに師事(MBA取得)。2012年より米マサチューセッツ大学MBAの教鞭も執る
ワトソンワイアットで人事制度の構築に携わり、その後ロンドン・ビジネススクールに留学し、グローバルリーダー育成の大家スマントラ・ゴシャールに師事(MBA取得)。2012年より米マサチューセッツ大学MBAの教鞭も執る
| 得意分野 | リーダーシップ、マネジメント、チームビルディング、コミュニケーション、ロジカルシンキング・課題解決 |
|---|---|
| 対応エリア | 全国 |
| 所在地 | 港区 |
このプロフェッショナルの関連情報
育成・研修 【社内MBAプログラム】次世代経営者輩出のためのリーダーシップ人材育成
元グロービス、米マサチューセッツ大学講師が責任監修した本格リスキリング
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