「働いて、働いて……」が解き明かす、プレゼン上手の真髄とは
2025年の流行語大賞は、高市早苗首相の「「働いて働いて働いて働いて働いてまいります」に決まりました。
これ自体素晴らしいことですが、仮に受賞しなかったとしても、高市首相のプレゼン力は歴代首相の中でもトップクラスです。人事部門で働く人にこそ参考にしていただきたいその本質とは……
●プレゼン上手な高市首相
冒頭に紹介した「働いて働いて……」のように同じ言葉を繰り返し使う手法、プレゼンテーション用語では「サウンドバイト」と呼ばれ、聞き手に強い印象を与えるために使われます。有名な例で言えば、トランプ米大統領の「レッツ・メイク・アメリカ・グレート・アゲイン」と同じといえば、ピンときていただけるでしょう。
ただ、このサウンドバイトがなかったとしても、高市首相のプレゼンテーション力は群を抜いていると筆者は考えています。「一国のリーダーとして何をやりたいのか」が圧倒的にわかりやすく伝わってきます。 もちろん筆者は政治の専門ではないので、政策そのものが当を得ているかの判断は保留します。ただ、経済成長と物価高対策に力を入れるというのは明確。だからこそ異例とも言える大型の補正予算にも国民が過度にザワつかなかったのでしょう。
これは組織で言えば、まさに“リーダーのプレゼン”。
メンバーのベクトルをそろえる、方向性をズバッと示す力です。では、高市首相を参考に、ご自身のプレゼン力を上げるには……というときに気をつけていただきたい罠があります。それは、サウンドバイトのような「分かりやすいもの」に目を奪われてしまうこと。
●多くの人が勘違いするプレゼン成功法則
筆者はプレゼンテーション研修の講師を務めることも多く、その一環として個別指導も行っています。指導の際に真っ先に受講者に問いかけるのは、「ご自身のプレゼンのどこを改善したいと思いますか?」という質問。多くの場合返ってくるのは、
- 「あ~」とか「え~」の言葉が多くて…
- 言い間違えたり噛んじゃったりするんです
- スライドの色使いが下手で…
など。
気持ちはわかりますが、実はこのような“上っ面の悩み”を気にしている限り、プレゼンは永久に上達しません。それをわかりやすく解説するために、プレゼンテーションのダイヤモンドモデルを紹介しましょう。
● ダイヤモンドモデルで重要なのは?
これはプレゼンテーションの要素を分解したもので、全体でひし形をなしていることからダイヤモンドモデルと呼んでいます。
- 右上:声・表情・立ち振る舞い(狭義のプレゼン)
- 左上:スライド作成(ドキュメンテーション)
- 左下:構成(コンテンツ)
- 右下:伝え方の工夫(ファシリテーション)
から成るものです。
では、ここで質問。
プレゼンテーションにおいて重要なのは、ひし形の上半分でしょうか?下半でしょうか?
答えはもちろん、下半分。 考えてみれば当たり前ですが、人前で話して相手に納得してもらうためには、聞き手が誰で、どのような問題意識を持っているかの分析が必要です。そして、それを踏まえて、何をどういう順番でいうかの作り込みも重要なのは言うまでもないでしょう。
ところが。 世の中の多くの人は、この重要なポイントに触れることなく、目につきやすい上半分がプレゼンテーションの重点と思いこんでいるのです。それが端的に現れたのが、先程の「あ~、え~が多い」、「スライドの色使いが…」のような問題意識なのです。
●人事部門は社員の痛みと喜びを理解せよ
冒頭の高市首相のプレゼン力に戻りましょう。「働いて働いて……」などのサウンドバイトはダイヤモンドモデルの右上、狭義のプレゼンテーションに当たります。目につきやすく、結果として流行語大賞になったのですが、本当に重要なのは
聞き手(国民)の痛み・不安・本音を理解しようとする姿勢
です。サウンドバイトはその補助輪にすぎません。
翻って、人事部門の方のプレゼンテーション。前回のコラムで述べたとおり、戦略人事が求められ、
- ミッション・ビジョン
- 制度設計
- キャリアパス…
など、社員の前で話す機会は確実に増えています。 ただ、その際には、大前提として聞き手の問題意識に注意を払っていただくのが成功の秘訣と筆者は考えます。
- 今、社員が一番ストレスに感じていることは何か?
- 何を「本当は変えてほしい」と願っているのか?
- どんな働き方や成長を、心の底で望んでいるのか?
この“痛みと喜び”を把握しないまま説明を始めてしまうと、どれだけ資料が完璧でも伝わりません。
逆に言えば--
ここを掴んだ瞬間、人事のプレゼンは劇的に変わります。
ぜひ次回のプレゼンの際、試してみてください。
このコラムを書いたプロフェッショナル
木田 知廣
シンメトリー・ジャパン代表
ワトソンワイアットで人事制度の構築に携わり、その後ロンドン・ビジネススクールに留学し、グローバルリーダー育成の大家スマントラ・ゴシャールに師事(MBA取得)。2012年より米マサチューセッツ大学MBAの教鞭も執る
木田 知廣
シンメトリー・ジャパン代表
ワトソンワイアットで人事制度の構築に携わり、その後ロンドン・ビジネススクールに留学し、グローバルリーダー育成の大家スマントラ・ゴシャールに師事(MBA取得)。2012年より米マサチューセッツ大学MBAの教鞭も執る
ワトソンワイアットで人事制度の構築に携わり、その後ロンドン・ビジネススクールに留学し、グローバルリーダー育成の大家スマントラ・ゴシャールに師事(MBA取得)。2012年より米マサチューセッツ大学MBAの教鞭も執る
| 得意分野 | リーダーシップ、マネジメント、チームビルディング、コミュニケーション、ロジカルシンキング・課題解決 |
|---|---|
| 対応エリア | 全国 |
| 所在地 | 港区 |
このプロフェッショナルの関連情報
- お役立ちツール
- プレゼンテーション
間違いだらけのプレゼンテーション研修
育成・研修 プレゼンテーション研修
聞き手を動かすのが本物のプレゼンテーション
- 参考になった0
- 共感できる0
- 実践したい0
- 考えさせられる0
- 理解しやすい0
無料会員登録
記事のオススメには『日本の人事部』への会員登録が必要です。