第110回 現物給与の価額変更
社会保険料の算定において、報酬や賞与の全部または一部が通貨以外のもので支払われる場合(現物給与)の価額は、厚生労働大臣が定めることになっています。
2023年4月1日より、その現物給与の価額が改正されました。今回は、社会保険における現物給与の考え方について説明します。
<現物給与について>
従業員が会社から社宅を借りていたり、会社から食事の提供を受けている場合、従業員は、現物で給与を受け取っていると判断されます。社会保険の算定においては、受け取った現物を通貨に換算した上で、報酬に合算をして標準報酬月額を決定することになります。
現物で支給されるものが住宅や食費である場合は、「厚生労働大臣が定める現物給与の価額」(厚生労働省告示)に定められた額によって通貨に換算します。現物給与の価額表については、日本年金機構がホームページ上で公表していますので参照ください。
「厚生労働大臣が定める現物給与の価額」は、都道府県によって定められている価額が異なります。今回改正になるのは、栃木県、群馬県、兵庫県、京都府などの食事の価額です。東京都や千葉県、大阪府などの食事の価額と、全都道府県の住宅の価額については変更はありません。
ここで問題となるのが、定められている「厚生労働大臣が定める現物給与の価額」をどの地域で適用させるかという点です。具体例としては、東京に本社があり、札幌と大阪に支店があるケースなどです。
この場合は、現物給与の価額は本来、生活実態に即した価額になることが望ましいため、本社・支店等それぞれが所在する地域の価額により計算します。なお、派遣労働者の場合については、実際の勤務地(派遣先の事業所)ではなく、派遣元の事業所が所在する都道府県の価額で計算します。
また、勤務地と実際に居住する社宅が異なる場合もあります。事業所の所在地と社宅が同一の都道府県にない場合は、被保険者の人事、労務および給与の管理がなされている事業所が所在する地域の価額により算定します。
<住宅の現物給与価額の計算方法について>
同じ広さの社宅で東京と北海道での現物給与の価額を比べてみたいと思います。
東京では、1畳あたりの単価が2,830円となり、北海道では、1畳あたりの単価が1,110円となります。例えば、6畳の部屋だった場合では、
東 京:2,830円×6畳=16,980円
北海道:1,110円×6畳= 6,660円
となり、この金額を報酬月額に含めて計算します。
なお、従業員が家賃を負担している場合は、上記の金額から負担額を差し引いた金額が現物給与価額になります。
今回はわかりやすく6畳で計算をしてみましたが、実際の物件ではトイレ、台所、浴室等があります。注意しなければならないのは、広さを計算するにあたり、すべての部屋を含める必要はないという点です。
価額の計算にあたっては、居間、茶の間、寝室、客間、書斎、応接間、仏間、食事室など 居住用の部屋が対象となります。そのため、玄関、台所(炊事場)、トイレ、浴室、廊下、農家の土間などは含めません。
この対象となる場所を確認せずにすべての部屋の大きさで計算してしまうと、受け取ったとみなされる現物給与が高くなり、社会保険料の算定の元となる報酬が増えてしまいます。結果的に従業員の社会保険料が必要以上に高額になってしまうこともあり得ますので、注意しましょう。
<食事の現物給与価額の計算方法について>
食事の現物給与価額についても、「厚生労働大臣が定める現物給与の価額」(厚生労働省告示)に定められた額にもとづいて通貨に換算します。従業員が食事代を負担していない場合と負担している場合で計算方法が変わってきます。また、朝昼夕食のどれを提供しているかによっても、適用する価額が異なります。
今回は、3食とも提供している東京都の事業所を例にして計算をしていきます。
1)食事代の自己負担がない場合
自己負担がない場合は、1人1か月当たりの食事額を報酬に合算します。東京都の場合だと、23,100円となります。
2) 1か月の食事代として13,000円を従業員が負担をしている場合
東京都の現物給与価額は、23,100円です。23,100円に3分の2を乗じて算出された金額が、食事代として自己負担している金額よりも多いか少ないかで判定します。
3分の2以上を自己負担している場合は、現物による食事の供与はないものとして取り扱われます。
3分の2未満の自己負担をしている場合は、現物給与の価額から自己負担額を引いた価額が現物給与価額となります。
たとえば、東京都の場合で自己負担をしている金額が13,000円だとすると、
現物給与価額23,100円×2/3=15,400円
自己負担額は13,000円なので、負担している金額は3分の2未満
合算される報酬の額は、23,100円-13,000円=10,100円となります。
3) 1か月の食事代として20,000円を従業員が負担をしている場合
2)と同様の方法で計算を行います。
現物給与価額23,100円×2/3=15,400円
自己負担額は20,000円なので、負担している金額は3分の2以上
したがって、現物による食事の提供はないものとして取り扱うことになります。
今回は、現物給与の価額変更と計算方法について説明しました。現物給与の計算方法を誤ってしまうと、社会保険料額に影響が出ることがあります。
今回の改定のタイミングで再度、算定方法のチェックを行った方がよいでしょう。
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経営者の視点に立った論理的な手法に定評がある。
(有)アチーブコンサルティング代表取締役、(有)人事・労務チーフコンサル タント、社会保険労務士、中小企業福祉事業団幹事、日本経営システム学会会員。
川島孝一(カワシマコウイチ) 人事給与アウトソーシングS-PAYCIAL担当顧問
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所在地 | 港区 |