第89回 社宅家賃や社員旅行の積立金
給与から、社宅家賃や親睦会費、社員旅行の積立金などを控除している会社も多いと思います。これらの費用を給与から控除する場合は、労使協定を締結する必要があります。
これまでも労働基準法で定められていたルールですが、労使協定を締結しておらず、労働基準監督署の調査で発覚するケースも少なくないようです。
今回は、給与から費用を控除する際のルールについてみていきたいと思います。
<賃金支払いの5原則>
給与から費用を控除する際のルールは、労働基準法第24条で定められています。条文については、以下を参照ください。
1.賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。ただし、法令もしくは労働協約に別段の定めがある場合又は厚生労働省令で定める賃金について確実な支払いの方法で厚生労働省令で定めるものによる場合においては、通貨以外のもので支払い、また、法令に別段の定めがある場合又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときにはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては賃金の一部を控除して支払うことができる。
2.賃金は、毎月一回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない。ただし、臨時に支払われる賃金、賞与その他これに準ずるもので厚生労働省令で定める賃金についてはこの限りでない。
上記の条文をまとめると、いわゆる「賃金支払いの5原則」と呼ばれる以下の5つに集約されます。
1.通貨支払の原則 「賃金は通貨で支払わなければならない」
2.直接払いの原則 「賃金は直接労働者本人に支払わなければならない」
3.全額払いの原則 「賃金は支払うべき額の全額を支払わなければならない」
4.毎月払いの原則 「賃金は毎月少なくとも1回以上支払わなければならない」
5.一定期日払いの原則「賃金は一定期日に支払わなければならない」
給与から、社宅家賃などの費用を控除する場合は、この中の全額払いの原則に従う必要があります。
<賃金の全額払いの原則>
賃金は、その一部を控除したり、分割したりすることなく、その全額を支払うことになっています。賃金から控除できるのは、法律で定められた、健康保険料、介護保険料、厚生年金保険料、雇用保険料、所得税、住民税のみです。なぜ、このようなルールになっているかというと、会社が給与からさまざまな名目で自由に費用を控除できてしまうと、従業員の足止め策(簡単に辞めさせない)として利用されてしまう可能性があるからです。
ただし、公益上の必要があるものや物品購入代金などについては、この定めの例外とすることで手続きの簡素化につながるほか、実情にも合うことから、労使の自主的な協定がある場合には一部控除することが認められています。
この労使協定には、次の項目を盛り込みます。なお、この労使協定については、労働基準監督署への届出は不要です。
1.控除を行う賃金支払い日
2.控除対象となる具体的項目
3.協定の有効期間
書式については、東京労働局のHPからダウンロードすることが可能です。具体的事項を記入したサンプルを作成しましたので、万が一、給与から法律で認められた社会保険料など以外の費用を控除しているにもかかわらず、労使協定を締結していない場合は、サンプルを参考に作成し、すみやかに協定するようにしてください。
株式会社〇〇〇〇と従業員代表△△△△は労働基準法第24条第1項但書に基づき賃金控除に関し、下記のとおり協定する。
記
1.会社は、毎月〇日、賃金支払いの際に次に掲げるものを控除して支払うことができる。
(1) 社宅家賃
(2) 旅費積立金
(3) 〇〇〇〇
(4) 〇〇〇〇
(5) 〇〇〇〇
2.この協定は、令和〇年〇月〇日から有効とする。
3.この協定は、何れかの当事者が〇日前に文書による破棄の通告をしない限り効力を有するものとする。
年 月 日
使用者職氏名 印
従業員代表 印
給与計算ソフト等によって、本来控除すべき費用を控除していなかった等の計算間違いは起こりにくくなっています。
しかし、給与計算業務と労働基準法は密接に関連しています。いくら計算が正しくても、労基法違反の状態になっていると、労働基準監督署から是正勧告を受ける可能性もあります。給与から社宅家賃等の費用を控除している場合は、労使協定を締結しているか、さらには控除している内容が協定の項目に則しているか、再度確認してみましょう。
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経営者の視点に立った論理的な手法に定評がある。
(有)アチーブコンサルティング代表取締役、(有)人事・労務チーフコンサル タント、社会保険労務士、中小企業福祉事業団幹事、日本経営システム学会会員。
川島孝一(カワシマコウイチ) 人事給与アウトソーシングS-PAYCIAL担当顧問
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