第84回 在宅勤務手当の非課税計算
新型コロナウィルスの感染拡大を防止するために、在宅勤務等を導入した会社が以前よりも格段に増加しました。その際に、労使間で問題になるのが、電気料金や通信費の負担をどのように清算をしていくかという点です。
これまで課税扱いとされていた在宅勤務手当に対する非課税扱いにできる範囲が国税庁より示されました。
今回は、在宅勤務手当や通信費等に対しての所得税の考え方について、みていきたいと思います。
1.在宅勤務手当に対しての所得税の課税について
在宅勤務等を行う場合に、在宅勤務手当を支給するケースが多くあります。在宅勤務手当は、在宅勤務に通常必要な費用として使用しなかった場合でも、その手当を会社に返還する必要がなければ、課税対象となります。
例えば、会社が従業員に対して毎月5,000 円を定額で支払い、通信費等の費用がそれに満たなくても返還する必要がない場合については、これまで通り所得税が課税されます。一方で、在宅勤務に必要な費用について、その費用の実費相当額を精算する方法により、会社が従業員に対して支給する一定の金銭については、従業員に対する給与として課税する必要はありません。
在宅勤務に通常必要な費用を精算する方法については、国税庁が2021年1月に公表した「在宅勤務に係る費用負担等に関するFAQ」で示されましたので、課税・非課税の判断をする前に一度目を通した方が良いでしょう。
2.在宅勤務における費用の清算方法について
在宅勤務を行うことによって生じた費用の清算方法は、2通りあります。
1)会社が従業員に対して、在宅勤務に通常必要な費用として金銭を仮払いした後、従業員が家事部分を含めて負担した通信費や電気料金について、業務のために使用した部分を合理的に計算し、その計算した金額を企業に報告してその精算をする方法
この場合、仮払金額が業務に使用した部分の金額を超過した場合、その超過部分を会社に返還する必要があります。
2)従業員が家事部分を含めて負担した通信費や電気料金について、業務のために使用した部分を合理的に計算し、その計算した金額を企業に報告してその精算をする方法
3.業務使用部分の計算方法について
非課税として処理するためには、会社は業務使用部分を合理的に計算しなければなりません。通信費と電気料金、それぞれの計算方法についてみていきたいと思います。
合理的な計算式により算出した金額を従業員に対して支給する場合は、課税対象とはなりません。算出した金額を超えて支給した場合は、給与計算時に合理的な計算金額を超えた額(仮払いの超過額を返還しない場合を含む。)に対して所得税を課税する必要があります。
1)スマートフォンの基本使用料やインターネット接続料の計算方法
業務のために使用した基本使用料や通信料等=従業員が負担した1か月の基本使用料や通信料等×その従業員の1か月の在宅勤務日数×1/2
【例】従業員が9月に在宅勤務を 20 日間行い、1か月に基本使用料や通信料1万円を負担した場合の業務のために使用した部分の計算方法
( 10,000 円×20 日(在宅勤務日数)/30日(9月の日数))×1/2= 3,334円
*最終円未満切り上げ
2)電気料金に係る業務使用部分の計算方法
電気料金や基本料金についての計算方法については、業務のために使用した床面積と自宅の床面積で按分計算を行う必要があります。計算式は以下のようになります。
業務のために使用した基本料金や電気使用料=(従業員が負担した1か月の基本料金や電気使用料×業務のために使用した部屋の床面積/自宅の床面積×その従業員の1か月の在宅勤務日数/当該月の日数)×1/2
上記計算式の1/2については、1日の内、睡眠時間を除いた時間のすべてにおいて均等に基本使用料や通信料が生じていると仮定し、国税庁が次のとおり算出しています。
1日:24 時間
平均睡眠時間:8時間
法定労働時間:8時間
→1日の内、睡眠時間を除いた時間に占める労働時間の割合:
労働時間8時間÷(1日24時間-睡眠時間8時間)=1/2
業務使用部分の計算方法は、かならずしも上の1)と2)の計算式で行わなければならないというわけはありません。この計算式によらず、より精緻な方法で業務のために使用した料金を算出し、その金額を企業が従業員に支給している場合についても、従業員に対する給与として課税する必要はありません。
例えば、スマートフォンなどの通話料は利用明細等で業務部分を確認することが可能なので、それにより特定した金額の全額を支給しても、そのすべてが業務使用分として非課税となります。
在宅勤務時に生じた費用の負担について、会社と従業員の間でトラブルになるというケースがみられるようになりました。あらかじめルールを明確にしておくのはもちろんのこと、正しい計算を行って無用なトラブルに発展しないように注意しましょう。
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経営者の視点に立った論理的な手法に定評がある。
(有)アチーブコンサルティング代表取締役、(有)人事・労務チーフコンサル タント、社会保険労務士、中小企業福祉事業団幹事、日本経営システム学会会員。
川島孝一(カワシマコウイチ) 人事給与アウトソーシングS-PAYCIAL担当顧問
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