第77回 新型コロナによる社会保険標準報酬月額の特例改定
ここ最近、新型コロナウイルスの影響により、従業員の休業や自宅待機が相次ぎました。
これらの休業により報酬(給与)が下がってしまった場合に、標準報酬月額を通常の随時改定を行わずに改定することができる特例が認められることになりました。
今回は、標準報酬月額の特例改定についてみていきたいと思います。
<随時改定について>
特例改定の前に、通常の場合の標準報酬の改定(随時改定)についておさらいをしてみましょう。
毎年1回の定時決定により決定された標準報酬月額は、原則として1年間使用します。しかし、この間に給与額の大幅な変更があったときなどは、実態とかけ離れた保険料を負担することになってしまいます。そのため、実際の給与額と標準報酬月額が大幅に乖離しないように、一定の要件に該当した場合は、定時決定とは別に標準報酬月額を改定します。
この手続きを「随時改定」と呼び、その届出書を「月額変更届」と言います。一般的には、この業務自体のことを略して「月変(げっぺん)」と呼んでいます。
<随時改定を行うケース>
随時改定は、次の3項目のすべてに該当したときに行います。
1.固定的給与が変更になったこと。
2.変動月から連続3ヶ月間の支払基礎日数が17日以上であること。
3.この3ヶ月間の給与の平均額から計算した標準報酬月額と、これまでの標準報酬月額に2等級以上の差があること。
これらの項目すべてに該当した場合は、その翌月から標準報酬月額を改定します。
実際の給与計算業務では、報酬が変更になった給与が支払われた月から数えて、4ヶ月後(保険料を当月徴収している会社)あるいは5ヶ月後(保険料を翌月徴収している会社)に保険料が変更になります。
<特例改定について>
通常の随時改定では、上記の3つの条件が揃って初めて行うことができます。しかし、これでは、固定的賃金が下がったとしても、4ヶ月もしくは5ヶ月後に保険料が変更になるので、それまでは高い保険料を支払い続けなくてはなりません。
そこで、今回の新型コロナウイルスによる休業で報酬が下がった場合には、特例改定が認められることになりました。特例改定の対象要件は次の3点です。
1. 新型コロナウイルス感染症の影響による休業(時間単位を含む)があったことにより、令和2年4月から7月までの間に、報酬が著しく低下した月が生じた方
2.著しく報酬が低下した月に支払われた報酬の総額(1ヶ月分)が、これまでの標準報酬月額に比べて2等級以上下がった方
3. 本特例措置による改定内容に本人が書面により同意している方
特例改定の場合は、固定的賃金の変動がなくても改定が行われます。時給者や日給者で時給や日給の単価に変動がなかったとしても、勤務日数が減少したことにより給与が減少したケースも対象になります。
<特例改定の改定月と同意について>
特例改定の場合、報酬が下がった翌月から標準報酬月額を変更することができます。たとえば、4月に休業と届出を行った場合、4月の報酬の総額を基礎として5月分の標準報酬月額から低く改定されることになります。なお、特例改定の対象となる休業があった月が複数ある場合は、そのうちのどの月を改定対象とするかは任意に選ぶことができます。
また、通常の随時改定と違い、本人の同意が必須です。これは、標準報酬月額が下がるということは、傷病手当金や出産手当金、将来の年金額も下がってしまうことにつながるためです。したがって、対象となる被保険者本人への十分な説明が求められています。
同意書については、手続きの際に提出をする必要はありませんが、年金事務所の調査等で確認を求められることもありますので、届出日から2年間は保管するようにしてください。
<特例改定を行う際の注意点>
1.支払基礎日数について
通常の随時改定の場合は、変動月から連続3ヶ月間の支払基礎日数が17日以上である必要があります。一方で、特例改定の場合は、新型コロナウイルス感染症の影響で事業主から休業命令や自宅待機指示などによって休業となった日は、その日に報酬が支払われていなくても、給与計算の基礎日数として取り扱うことができます。それでも、報酬の支払基礎となった日数が17日未満となる場合は、特例改定の対象となりません。
2.休業が回復した場合の届出について
特例改定後に、固定的賃金が変動し、随時改定の対象となる場合には、随時改定の届出を行う必要があります。
また、7月もしくは8月に特例改定を行うと、定時決定が行われません。そのため、休業が回復した月から継続した3ヶ月間の平均報酬が2等級以上上昇した場合には、固定的賃金の変動の有無に関係なく、必ず随時改定を行う必要があります。
社会保険の標準報酬月額については、「随時改定に該当するのに手続きが漏れていた」「手続きはしたが、給与計算時に保険料を変更するのを忘れてしまった」といったケースが良く見受けられます。
それに加え、今回の特例改定によって、イレギュラー対応が求められます。給与計算や特例改定の手続きを行う際は十分な注意してください。
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経営者の視点に立った論理的な手法に定評がある。
(有)アチーブコンサルティング代表取締役、(有)人事・労務チーフコンサル タント、社会保険労務士、中小企業福祉事業団幹事、日本経営システム学会会員。
川島孝一(カワシマコウイチ) 人事給与アウトソーシングS-PAYCIAL担当顧問
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