第75回 住民税の特別徴収
従業員の給与から天引きしている住民税は、毎年6月から翌年5月までをひとつのサイクルとして決められています。
今回は、住民税の徴収についてみていきたいと思います。
<住民税の概要>
住民税は、従業員それぞれの毎年1月1日時点の住所地である市区町村に、前年の所得に応じて納める税金のことです。住民税の納付方法は、「普通徴収」と「特別徴収」の2種類があります。
普通徴収は、給与所得ではない個人事業主や、退職して次の就職先が決まっていない方などが、自分自身で住民税を納付することをいいます。一方、特別徴収は、会社が毎月の給与から天引きをして、個人の代わりに各市区町村に支払うことをいいます。
特別徴収でも普通徴収でも、年間の特別徴収税額は同額です。しかし、特別徴収が毎月給与から控除されるのに対し、普通徴収は年4回に分けて支払う仕組みになっています。そのため、普通徴収の方が1回当たりの金額が多くなり、納税の負担感が多く感じられるかもしれません。
今回は、特別徴収を中心に紹介をしていきます。
<住民税の特別徴収>
住民税の特別徴収では、毎月6月から翌年5月にかけて、前年の1月から12月までの所得によって計算された金額を、毎月の給与から天引きしていきます。毎年5月に決定通知書が各市区町村から送付されてきますので、それに従って給与から控除します。控除した金額は、翌月10日までに各市区町村へ納付します。
各月に控除する金額は、年間の住民税額が12分割されて通知されますが、100円未満の端数が6月に加算されて調整されます。通常の場合は、6月が端数分だけ多くなり、7月から翌年5月までが同額となります。
また、パートタイマーのように住民税額が少ない場合は、6月の1回で1年分を納付するケースもあります。市区町村から送られてくる決定通知書を良く見て、間違えないようにしましょう。
給与計算を行う上でミスが生じやすいのは、「年の途中で住民税額が変更になったとき」と「退職時の住民税の徴収」です。従業員が確定申告をしていたり、扶養家族数に誤りがあった場合などは、年の途中から住民税が変更になることがあります。
この場合も、市区町村から「住民税額の変更通知書」が送られてきますので、変更月に注意して反映させるようにしましょう。また、端数が出る場合は、「変更月」と「変更月の翌月以降」で金額が異なることもあるので注意してください。
<退職時の住民税の徴収方法>
従業員が退職するときは、その退職時期によって徴収する方法が変わってきます。12月までの退職と、1月以降の退職で手続きの方法が異なります。
1)6月1日から12月31日までに退職する場合
住民税の残額を一括して給与(または退職金)から控除することでその年の納付を完了させる「一括徴収」か、普通徴収に切り替えて個人で納付するかを退職する従業員本人が選択することができます。
一括徴収を行う場合は会社が決めるのではなく、退職する社員からの申出が必要です。したがって、特に申出がない場合は、最終給与まで1ヶ月分の金額を徴収して、残りの月の分を普通徴収に切り替えます。
なお、最終給与の金額が少ない場合は、その前月までの徴収でも構いません。
2)1月1日から5月31日までに退職する場合
本人からの申出がなくても、給与(退職金)から一括徴収をすることが原則です。ただし、勝手に控除をしてしまって日々の生活に支障が出てしまうとトラブルの原因となってしまいますので、会社は事前に本人に知らせておくことが重要です。
なお、最終給与の金額が少なく、一括徴収をすることが困難な場合は1ヶ月分だけ徴収し、普通徴収に切り替えることになります。
3)転職が決まっている場合
退職後すぐに再就職が決まっている場合は、退職時期にかかわらず、特別徴収を継続することができます。この場合は、1)の手順で1ヶ月だけ徴収し、「住民税の異動届出書」を転職先の会社を経由して市区町村へ提出します。
ただし、転職先が対応できないケースもあるようなので、良く確認してから手続きをすすめるようにしましょう。
<新しく社員が入社した場合>
入社した人がすでにその年の住民税の納付が終わっていれば手続きは不要ですが、納付する住民税がある場合は、特別徴収への変更依頼書を市区町村へ提出する必要があります。
すでに納期が過ぎている分は、切り替えができないので本人に納付してもらいます。納期限が未到達の分は、特別徴収へ切り替えすることが可能です。
市区町村の手続きが完了すると、住民税の決定通知書が送られてきますので、他の従業員と同様に給与から控除していきます。
<住民税の普通徴収>
会社の給与計算等を行っていると、従業員の方から「住民税を普通徴収にして欲しい」という要望を受けることがあります。以前は、特に理由がなくても特別徴収から普通徴収に切り替え手続を行うことは容易でしたが、数年前から住民税の特別徴収の義務化が強化されています。
住民税を普通徴収にすることが認められているのは、以下のA~Fに該当する場合に限られています。
A 事業所の総従業員数が2人以下
B 他の事業所で特別徴収
C 給与が少なく税額が引けない
D 給与の支払が不定期(例:給与の支払が毎月でない。)
E 事業専従者(個人事業主のみ対象)
F 退職者又は退職予定者(5月末日まで)(休職等により4月1日現在で給与の支払を受けていない方を含みます。)
実務で多いのは、休職や育児休業等のように給与の支給がない従業員です。給与の支給がなくても、社会保険料と住民税はそのまま控除されるので、給与の支給額がマイナスになります。
数ヶ月であれば復帰後に徴収することも可能かもしれませんが、まとまると大変な金額になることがあります。給与の支給額がマイナスになる場合は、こまめに従業員に返金してもらうようにしましょう。
また、住民税については、休職などで徴収できないときは普通徴収に切り替えることが可能です。場合によっては、普通徴収への切り替えも検討してみてください。
今回は、住民税についてみてきました。注意しなければいけないのは、住民税は市区町村によって実務的なルールが若干異なることです。今回紹介をした内容は、一般的なルールを記載しています。
実際に手続きをする際は、従業員の住所地の市区町村に確認をしてから行うようにしましょう。
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経営者の視点に立った論理的な手法に定評がある。
(有)アチーブコンサルティング代表取締役、(有)人事・労務チーフコンサル タント、社会保険労務士、中小企業福祉事業団幹事、日本経営システム学会会員。
川島孝一(カワシマコウイチ) 人事給与アウトソーシングS-PAYCIAL担当顧問
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