第15回 有給休暇の付与と消滅
多くの会社の給与明細書には、その月の有給休暇の使用日数と残日数が記載されています。一般的な給与ソフトを利用していると、有給休暇の残日数はソフトが自動的に計算をしてくれるので、あまりチェックしないでそのまま記載している担当者の方もいるかもしれません。
しかし、万が一、給与ソフト上の残日数が正しい残日数と異なっていると、従業員が認識している日数と、実際の取得可能な日数が違うことになり、後々トラブルになる可能性があります。
これらのミスは、有給休暇の「付与」と時効による「消滅」が正しく反映されなかったことにより起きるケースがほとんどです。今回は、有給休暇の仕組みについて見ていきましょう。
<有給休暇は誰に与えるのか?>
有給休暇は、社員のリフレッシュを目的として、賃金を受け取りながら休むことができる制度です。これは、法律で社員に与えられた権利であり、会社は毎年、有給休暇を与えなくてはなりません。
では、どのような人に有給休暇を与えなければならないのでしょうか?
1)入社してから6ヵ月以上経過していること
2)全労働日の8割以上出勤していること
この2つをいずれも満たしている従業員に対しては、有給休暇を与えなければなりません。ここでいう「従業員」には、パートタイマーやアルバイトも含まれます。したがって、週の出勤日数が少なかったり、1日の勤務時間が短くても有給休暇は与える必要があります。
<有給休暇の付与日数>
有給休暇の付与される日数は、勤続年数と勤務日数に応じて決められています。
正社員やフルタイマーの場合、入社から6ヵ月勤務して全労働日の8割以上出勤していれば「10日」の有給休暇が与えられます。次に、そこから1年ごとに11日、12日と表の通りに与えられる日数が増えていきます。ただし、最初の6ヵ月と同じように、その年の出勤率が8割に足りなければ、翌年に限り有給休暇は付与されません。
また、フルタイマーでなくても、
1)週の所定労働日数が5日以上である、
2)週の所定労働時間が30時間以上である、
のどちらかを満たしている場合は、フルタイマーと同じ日数の有給休暇が与えられます。
【週5日以上の社員、または週30時間以上のアルバイトの有給休暇の付与日数】
勤続年数
6ヵ月
1年6ヵ月
2年6ヵ月
3年6ヵ月
4年6ヵ月
5年6ヵ月
6年6ヵ月以上
付与日数
10日
11日
12日
14日
16日
18日
20日
これに対して、週4日以下の勤務で、週の所定労働時間が30時間未満のアルバイトやパートタイマーに対しては、週の所定労働日数に応じた有給休暇が与えられます。
また、シフト制のように週で所定労働日数が決まっていないアルバイトやパートタイマーの場合は、年間の所定労働日数により付与日数を決定します。
【週4日以下のアルバイトの有給休暇の付与日数】
週の所定労働日数
1年の所定
労働日数
勤続
6ヵ月
1年6ヵ月
2年6ヵ月
3年6ヵ月
4年6ヵ月
5年6ヵ月
6年6ヵ月以上
4日
169日~216日
7日
8日
9日
10日
12日
13日
15日
3日
121日~168日
5日
6日
6日
8日
9日
10日
11日
2日
73日~120日
3日
4日
4日
5日
6日
6日
7日
1日
48日~72日
1日
2日
2日
2日
3日
3日
3日
<有給休暇を取得した時の賃金の支払方法>
有給休暇で休んだ場合は、「その日の賃金」が支払われます。その日の賃金の計算方法は、次の3つのいずれかで計算することになっています。
1)平均賃金、
2)通常労働した時間に支払われている賃金と同額、
3)健康保険法の標準報酬日額に相当する額
これらのどの方法で支払うかは、就業規則で定めておく必要があります。多くの会社では、2)通常労働した時間に支払われている賃金と同額にして、出勤しても有給休暇で休んでも賃金が変わらないようにしています。
この場合、パートタイマーやアルバイトのような時給制では、有給休暇を取得した日に労働することになっていた時間に相当する賃金が支払われることになります。
なお、3)健康保険法の標準報酬日額に相当する金額により計算する場合は、就業規則で定めるだけではなく、労働組合または従業員の過半数代表者との労使協定を締結する必要があります。
<有給休暇の時効>
有給休暇は従業員の権利ですが、従業員がその権利を行使しなければ有給休暇を取得することはできません。権利を行使しなかった有給休暇は、一定期間が経過すると時効により消滅します。
この有給休暇の時効は、付与された日から2年間です。したがって、2年6ヵ月後に新たに有給休暇が与えられると同時に、最初の6ヵ月後に与えられた有給休暇で使っていない日数はその権利が消滅します。
1年間に付与される有給休暇の最大日数は20日間ですから、有給休暇を全く使用しなかったとしても1人40日間までしか保有できない計算になります。
<最後に>
有給休暇は、従業員にとって大切な権利ですが、残日数を自分で把握している従業員は多くなく、ほとんどの場合、給与明細で記載されている「残日数」を信じているようです。
そのため、給与明細に記載されている「残日数」を見て、有給休暇を取得しようとしたのに、実際に取得できる日数が少なかったりすると大きなトラブルになり、従業員と会社の信頼関係が崩れるきっかけにもなります。
有給休暇の日数の管理は、毎月の積み重ねです。特に有給休暇の付与と消滅を行う月は、ミスのないように慎重に確認するようにしましょう。
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経営者の視点に立った論理的な手法に定評がある。
(有)アチーブコンサルティング代表取締役、(有)人事・労務チーフコンサル タント、社会保険労務士、中小企業福祉事業団幹事、日本経営システム学会会員。
川島孝一(カワシマコウイチ) 人事給与アウトソーシングS-PAYCIAL担当顧問
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