グローバル人材育成はなぜ英語研修化し、失敗するのか?
多くの日本企業でグローバル人材育成を検討するものの、最終的には、日本語のグローバルリーダー育成コース +英語研修、または加えても異文化コミュニケーションスキル、という形で落ち着き、結果、「知識はある」が「英語では発揮 できない」になることが多い。
そこで、11月25日(金)に第139回グローバル人材育成研究会「グローバル人材育成はなぜ英語研修化し、失敗するのか? ~成功事例から考察する抑えるべきポイント~」を開催した。
グローバル人材育成の投資効果が出せず、苦労している場合、主に以下の3つの失敗に陥っていないだろうか?
1. 「要は英語でしょ?」から始まる失敗
英語力があればなんとかなる。
ただ、あまりにハードルが高いと誰もクリアできないので、最低でもTOEICで600にする。
それがいつの間にか、グローバル人材の要件とすり替わる。
そして多くの社員はTOEIC600点を超えた時点で「やっと自由になれる」、となりその後の学習はしなくなる、という本末転倒な 事態が発生。
2. グローバル人材の定義が曖昧
グローバル人材の定義に関して、社内コンセンサスがとれない状態が続き放置。
しかし、何もしない訳にはいかず、英語学習に関しては誰も異論を唱えず、結局、英語研修だけ実施することになる。
3. 知識インプット重視
冒頭の日本語での経営塾では、まずは知識、という形になることが多く、英語で実際にタフな交渉やマネジメントができるかは 不問とされる。
結果、知識は持っているが、英語で発揮できないケースが多い。
また、何よりも知識重視になっており、自分自身をグローバル化する、またはグローバルビジネスを自分たちが牽引する、 というマインドセットが出来ていないことが大きな障害になっている。
最近、ご相談の多い、以下の課題において共通することである。
・管理職クラスのグローバル人材化(プールの強化)
・PMI対応の人材育成(即戦力としてのグローバル人材)
・海外エグゼクティブプログラムの活動
・英語公用語化に向けた動き
今回のG研の第一部では、特別ゲストとして、第一生命保険株式会社 グループ経営本部 兼 人事部 部長 人財開発室 室長 原 由也 様をお招きしての対談を行った。
第一生命保険株式会社は、114年の歴史を持つが、本格的なグローバル展開は2006年から始まったばかりで、現在の中期経営 計画では、利益の30%を海外から、を目標として掲げており、社員のグローバル化も大きな課題となっているとのことだ。
原様は、キャノン株式会社において人事部門で18年間勤め、またそのうち11年間、イギリス、オランダ、ベトナムでの海外赴任も されている。
その原様が考えるグローバル化、グローバル人材育成の在り方について伺った。
ここではそのいくつかを挙げたい。
Q1.原様にとってのグローバル人材の定義とは?
グローバル人材=ダイバーシティマネジメントに長けた人材と考えている。
そして、結果としてグローバルベースで組織に成果をもたらすことが出来る人がグローバル人材と考えている。
Q2.メーカーと金融業界でグローバル化にどのような違いがあるか?
メーカー:
海外拠点作りにあたって日本本社のコピー。ロールアウトが軸。
金融:
M&Aなどインオーガニック戦略が軸となるため、買収先のそれぞれの会社の価値観、方針を尊重しながら成長することが必要。
全く違うものをリスペクトしながらの成長のやり方はそこに難しさがある。
自分たちが技術的にもサービス的にも優れており、それを海外に浸透させる、ではなく、自分たちのほうが優れている、独立性を主張してくる相手のマネジメントが必要。
そういった意味で、日本からの赴任者は、黒子であり、リエゾン的な役割が出来ないといけない。
そして、リエゾン的な役割は、マネジメントが出来ない人には出来ない。
Q3. そうしたグローバル人材は育成出来るのか?
グローバル人材の必要な要素を考えたときに、「語学力」という観点では一定レベルでは可能。
英語以外の要素としては、アサーティブネス、クリエイティビティなどが必要。
例えば、ベトナムオフィスでは、大卒、高卒、中卒、小卒のメンバーがいる。彼らにどう認めてもらうか?
Integrity(誠実さ)、立ち振る舞い、非言語的など、人間性も非常に重要と感じている。専門性と同じで、一方的に話す人は尊敬されない。
Q4.グローバル人材育成にあたり、どのような取り組みをされているのか?
海外拠点の交代要員(現在赴任している優秀な人材の後任)育成では、貴社でお世話になっている1泊2日×4回のセッションに事前・事後のアセスメント、そしてフォローアップセッションなど若手を中心に体系立ててやってきており、のべ86名を 輩出するという成果が出ている。
しかし、海外にポストが豊富にある訳ではないので、すぐに海外赴任ともいかない。
そこで、本社自体のグローバル化も必要であり、人事部としては、日本語が出来る外国人社員に続き、日本語がしゃべれない オーストラリア人を部員に迎えるなどして雰囲気を変えてきた。
また、御社での異業種交流のグローバル版にも参加し、イノベーションのトレンドについて異業種で英語でディスカッション しながら視野を広げることをしている。
Q5. グローバル人材育成にあたりどのような課題があると感じていますか?
若手社員のプーリングはやりやすく、成果が出てきていると感じている。
しかし、メーカーほど海外拠点でのポストがある訳ではないので、本社のグローバル化も必要。
そこで先に挙げた、人事部に外国人社員を配置するなどしているが、組織文化の醸成は難しい。
これから金融業界は買収・合併、Fintechなどの変化が大きく、ここ2年半で一気に加速している。
その変化対応に向けた人材育成をしていかなければいけない。
原様との対談は非常に示唆に富むものであり、その後参加者からの質問も相次いだ。
私自身、250社以上のグローバル人材、自立型人材育成コンサルティングに携わる中感じるのは、グローバル人材育成の フェーズがまた一つ大きな転換点を迎えているのではないか、ということだ。
これまで若手・中堅を中心にグローバル人材育成の投資がされる傾向にあったが、マネジメント層への投資に関してのご相談がかなり増えてきている。
その背景の一つには、ここ数年、日本企業による海外企業の大型M&Aが相次ぎ、そこから2~3年経過し、いわゆる「ハネムーン 時期」が過ぎ、双方が乗り越えるべき壁としてマネージャー層のグローバル化なしにはどうにも回らなくなってきているのではないかと考えている。
このテーマについては2017年のG研においても事例発表出来るのではないかと思う。
第2部の河原崎圭市講師による「なぜ、あの人は英語が上手くなくても魅力的な話が出来るのか?
~TEDトークのエッセンスから学ぶ相手に印象を残す3つの法則~」については後日掲載させていただく。
- 経営戦略・経営管理
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- コミュニケーション
「グローバル&自立型人材育成」をミッションとし、プログラムの企画・開発・コーディネートを手掛け、講師としても活躍!
海外のトップビジネススクール(HBS・LBS・IMD等)、国内外のトップトレーナー(HRDコンサルタント、コミュニケーション・異文化・語学スペシャリスト等)との協働で、400社以上の企業向け人材育成に携わっている。
福田 聡子(フクダ サトコ) グローバル・エデュケーションアンドトレーニング・コンサルタンツ株式会社 代表取締役社長
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