テレワークの盲点 よかれと思った支援が社員の負担を増やすとき

仕事と介護を両立している人の中には
「テレワークがあるから、なんとかなる」と思う方が少なくありません。
親の様子を見に行ったり、通院に付き添ったり──
意識せず「介護だと思っていない」ことに、時間を使っています。
これが進んでいくと
本来は“働きやすさ”を生むはずのテレワークが、
いつの間にか、“介護を頑張らざるを得ない環境に変わってしまうのです。
その結果、仕事のパフォーマンスが下がり、介護離職のリスクが静かに高まっていくこともあります。
■テレワークは「両立支援」か「両立負担の装置」か?
2025年4月施行の改正育児・介護休業法では、
「要介護状態の対象家族を介護する労働者がテレワークを選択できるようにすること」が、事業主の努力義務とされました。
テレワークは柔軟な働き方として歓迎される一方で、
介護を抱える社員にとっては“かえって負担を増やす結果”にもつながりかねません。
■なぜ「テレワーク」が負担になるのか?
仕事と介護の両立によって、ビジネスケアラーの仕事のパフォーマンスは平均で27.5%低下するという経済産業省の試算があります。
仕事と介護の両立が経営課題とされているのは、介護離職による損失はもちろん、それ以上に、 仕事と介護の両立困難による生産性の損失(86.2%)があります。
その額は9兆円にも及ぶと試算されているほどです。

今年(2025年)は、2,000万人以上(約3割)のビジネスパーソンが重たい介護の負担に苦しむ時代に突入するとされています。軽い介護まで含めると約5割です。
もし皆さまの会社で3割の従業員が生産性を27.5%低下させるとした場合、業績へのインパクトは相当なものになります。
「近くにいるし、自分でやった方が早い」
「親に頼まれてつい……」
テレワーク環境下では、「自分で何とかしよう」とする意識が強まりやすく、
本来は介護のプロに任せるべきことまで、社員本人が抱え込んでしまうリスクが高まるのです。
ある企業の人事担当者は「テレワークやフレックスタイム制など、柔軟な働き方を整えた結果、“隠れ介護”が表に出にくくなり、気づいたときには本人がかなりの負担を抱えていたことが分かった」と語っています。
柔軟な働き方は、適切に使えば大変有効なものである一方、「どのように働くか」が定まっていない場合、社員が自分で介護を頑張りすぎてしまう、という落とし穴があります。
実態把握のための調査や従業員アンケートを行った結果、それが分かった、という企業もあります。
■介護はできる限りプロに任せる~テレワークが“両立リスク”に変わる背景
介護との両立に限ったことではないかもしれませんが、テレワーク下では、セルフマネジメントに任されていることで、逆に、休まず、長時間労働になってしまう場合があります。
介護をしていると、病院や施設、介護事業者などから急に呼び出されることもあります。そうした時、柔軟な働き方ができる職場であれば、何かと助かります。
現に、介護との両立支援の制度として、時間単位で休暇をとれるようにする企業もあります。
しかしながら「親の通院付き添い」「買い物サポート」「日常の様子見」といった
“介護と認識されにくい行為”に多くの時間が割かれ、
本人も「介護しているつもりはない」まま、疲弊していくことも起こり得ます。
■企業がすべき「テレワークと両立支援」の見直し
企業として大切なのは、制度の提供だけでなく、社員自身が「どう介護と向き合うか」の基本的な知識を持ち、主体的に行動できるように促すことです。
(1)「介護はできる限りプロに任せる」原則 の周知
(2)介護保険制度で利用できるサービスに関する基礎知識の伝達
(3)保険外サービ スの実例と利用可能状況の確認
(4) 両立を相談できる窓口の設置や研修の実施
テレワーク導入と同時に、「隠れ介護」や「頑張りすぎリスク」が高まらないような設計と運用が不可欠です。
ビジネスケアラーは「介護については素人である」と認識し、特に身体介護(食事、風呂、トイレ)には、可能な限り手を出さず、介護保険では担いきれない場合は、家事代行サービスや 配食サービスなど保険外のサービスも利用しながら、身体介護の負担からは少しでも距離を置いてみること。
「両立体制を作る」工夫が必要となってきます。
■最後に:仕事と介護の両立支援は、“制度”ではなく“戦略”
介護を理由に仕事を諦めないために──
「仕事を軸に介護をマネジメントする」支援が必要です。
制度の導入だけでなく「どう運用するか」が鍵となってきます。
- 経営戦略・経営管理
- モチベーション・組織活性化
- キャリア開発
- リーダーシップ
- マネジメント
仕事と介護の両立支援「両立の専門家」/「ビジネスケアラー 」著者/経営者
30年以上母親の介護を行い、その間オランダと日本を行き来する遠距離介護も経験。
経営層から社員向けまで企業で多数セミナー、研修実施。ビジネスパーソンとしてのリアリティがあり、わかりやすく印象に残る研修で、満足度、理解度ともに90%超。
酒井 穣(サカイ ジョウ) 株式会社チェンジウェーブグループ 取締役・創業者

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