仕事と介護の両立支援:情報発信~体験談を共有する際の注意点~
2024年に経済産業省が公表した「仕事と介護の両立支援に関する経営者向けガイドライン」では全企業が取り組むべき事項のステップ1として「経営層のコミットメント」が、ステップ3として「情報発信」、研修の実施等が挙げられています。
今回はその取り組みのひとつとして、経営層のコミットメントを示し、全社で「仕事と介護の両立を支援する」という風土を醸成するための一歩となる「イベント開催」について考えたいと思います。
■「仕事と介護の両立支援」に関するセミナーやイベントの意義とは
まず、全社イベントは、企業の姿勢を示す場としての活用が可能です。
経営層から直接メッセージを発信していただく場にもできます。
また、ビジネスケアラー当事者の体験談は、なかなか実態が見えにくい課題についてヒントを得たい、という、従業員の要望に応えるものでもあります。
しかしながら、大変個別性の高い「介護」について伝える際に、注意しておきたいポイントがあります。
■「仕事と介護の両立」は36000通り以上ある
一人の体験談が全員に当てはまるわけではない
ビジネスケアラーの経験談は、似たような環境、体験をしている人にとっては共感を得やすく、重要な意味を持ちます。当事者が語る内容は、聞き手にとって良質な追体験となりえます。具体性を持った当事者の経験談を聞くことで「仕事と介護の両立」に関心を持ってもらう、という効果もあります。
ただ、注意すべきは、話す場のセッティングです。
双方向に話をするというコミュニティの場ではいいかもしれませんが、1人の人の体験談が、一方通行で語られるイベントやセミナーでは、リスクがあります。
特に、体験談が、介護のように個別性の高い内容である場合はなおさらといえます。
チェンジウェーブグループの相談窓口の実績から、介護のステージ、親の状態(認知症の有無/身体介護の必要性/疾患の種類)、親子の住まいの距離や役割、元々の関係性、と、ご自身のキャリア・介護の方針と、初期条件のみで計算しただけでも、36000通り以上のパターンが予測されます。
体験談が複数の人から語られると、単に「親の入院といっても様々なケースがあり、負担を下げてくれるサービスにも、様々なものがあること」が伝わりますが、ただ1人の人の体験談である場合、その方の話から「入院」の全体像を把握することができない可能性もあることは注意しなくてはなりません。
そもそも、忌避感のある、身近に思いたくないテーマに触れるということになることが想像されますので、介護について準備をしておきたい方、これからリテラシーを習得していただきたい方向けには、一つのロールモデル「だけ」を示すことは避けた方がいいと思われます。
もし、介護は大変だということばかりが強く受けとめられてしまうと、不安を加速させることになってしまうかもしれません。
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■仕事と介護の両立経験者に体験談を話してもらうときの注意点
それでは、実際に両立の経験者に話をしてもらう際、何に気をつければ良いでしょうか?
経営層や、人事・DEI部門、仕事と介護の両立推進の担当者の皆様が伝えたいことは、「介護が始まっても、自分の希望するキャリアを歩めるようなリテラシーを持つ」ということでしょう。
具体的には、地域包括支援センターに相談しつつ、サービス担当者会議で具体的に困っていることの解決を求め、介護保険外の民間サービスを組み合わせたり、介護疲れを回避するための休息(レスパイト)サービスを利用しつつ、安定した介護体制を作り上げる必要があるというリテラシーです。
つまり、「両立をする」という文脈で、当事者の方に経験談として語って欲しいことは、「介護が始まっても、キャリアを諦めないという姿勢」ではないでしょうか?
経験談の中身は、介護については、個別性が高く、全ての人に当てはまるわけでないことをしっかりと伝えた上で、仕事と介護の両立を追求している同僚の姿勢に学んでもらいたいということを、参加者に理解してもらう必要があるでしょう。
可能であれば、複数人に当事者としての経験を語っていただき、そうした経験談を踏まえて、それぞれの経験の最大公約数となるところを自らのリテラシーとして考え、抽出していただく場という目的のイベントとするのが良いかもしれません。
■”ロールモデル”ではなく、”ロールストーリー”
前述の通り、ビジネスケアラーの家庭や職場の環境や条件はそれぞれ異なるため、自分と全く同じ環境のロールモデルを見つけることは困難かもしれません。
しかし、さまざまな人の体験やエピソードを物語、「ロールストーリー」と捉えれば、ビジネスケアラーが抱える課題や解決するための道筋やプロセスが見えてくるのでは?
企業の「仕事と介護の両立支援」推進担当者によるコンソーシアム、Excellent Care Company Clubではこのように考え、「ロールストーリー」から多くの学びを得ています。
企業において「仕事と介護の両立」についてはまだまだ実態が見えにくい、という声を多くいただきますが
従業員の方々の興味・関心を高め、経営層からのメッセージを発信する場として、また、リテラシーの向上につながる場として、継続的な研修やイベント・全社セミナー等の開催を効果的にご活用いただければと思います。
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仕事と介護の両立支援「両立の専門家」/「ビジネスケアラー 」著者/経営者
30年以上母親の介護を行い、その間オランダと日本を行き来する遠距離介護も経験。
経営層から社員向けまで企業で多数セミナー、研修実施。ビジネスパーソンとしてのリアリティがあり、わかりやすく印象に残る研修で、満足度、理解度ともに90%超。
酒井 穣(サカイ ジョウ) 株式会社チェンジウェーブグループ 取締役・創業者
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