「脱・努力信仰」強みを活かし組織成果を最大化する人材戦略
多くの組織において、従業員もマネジメント層も無意識に囚われている固定観念があります。それは「苦手を克服し、歯を食いしばって頑張らなければ成果は出ない」という思い込み(努力バイアス)です。
人事のプロフェッショナルとして、この思い込みがどのように従業員のエンゲージメントを下げ、組織全体の生産性を停滞させているかを再考する必要があります。
1. 「違う自分」になろうとするコスト
「頑張らないと成果が出ない」というマインドセットが強い組織では、従業員は無意識に「自分の自然な資質(強み)」を封印し、「理想とされる別の誰か」になろうと過剰適応します。
これは、組織にとって以下の損失を生みます。
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疲弊とバーンアウト:本来の気質に逆らう行動は、通常の何倍もの精神的エネルギーを消費します。
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平均化への後退:弱点の克服に時間を費やすことで、本来持っている卓越した才能を磨く時間が失われます。
クリフトンストレングス®(ストレングスファインダー®)の観点では、資質とは「無意識に繰り返される思考・感情・行動のパターン」です。組織として「無意識レベルで苦もなくできること」に資源を集中させることこそが、最もROI(投資対効果)の高い人材戦略となります。
2. 具体的なケーススタディ:営業職Aさんの場合
強みを封印して疲弊していた社員が、アプローチを変えて成果を出した事例を紹介します。
【背景】 中堅社員のAさんは、「親密性」という資質を上位に持っています。これは、特定の人と深く信頼関係を築くことを得意とする資質です。
【課題:誤った「頑張り」】 しかし、部署の方針や「優秀な営業=社交的で顔が広い」という固定観念により、Aさんは異業種交流会への参加や、新規開拓のための飛び込み営業を「頑張って」続けていました。 Aさんにとって、広く浅い関係構築は心理的負荷が極めて高く、帰宅後はぐったりと疲れ果てる日々。成果も上がらず、自信を喪失していました。
【転換:強みへのフォーカス】 人事と上司との面談を通じ、Aさんは「社交的なハンター型」を目指すのをやめました。代わりに、自身の強みである「親密性」を活かせるスタイルへ業務の比重を移しました。
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新規獲得数ではなく、既存顧客との「関係の深耕」に注力する。
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多数の顧客を追うのではなく、キーマンとの1対1の対話を重視する。
【結果】 無理な「社交」を手放したことで、Aさんのストレスは激減しました。その結果、担当する重要顧客からの信頼が飛躍的に高まり、大型のリピート受注や紹介案件が増加。「困ったときに一番に相談できるパートナー」として、社内でもトップクラスの顧客維持率(LTV)を達成しました。
3. 人事・マネジメント層がすべきアクション
従業員が「自分とは違う誰か」になろうとして苦しんでいる兆候が見られた際、人事は以下のようなアプローチを推奨できます。
【1. 評価基準の多様化】 「成果へのルートは一つではない」ことを伝えます。例えば、営業なら「広げる力」だけでなく「深める力」も等しく評価される仕組みや文化を作ります。
【2. 1on1での問いかけの変更】 「今の課題は何か(どこを直すべきか)」という問いだけでなく、「自然体で成果が出せているのはどんな時か」「無理をしていないか」を問いかけます。
【3. 役割分担の再定義(ジョブ・クラフティング)】 「努力不足」と断罪する前に、その業務が本人の資質(無意識のパターン)と合致しているかを見極めます。配置転換やタスクの交換により、個々人が「頑張らなくても成果が出る領域」に集中できる環境を整えます。
結論
「強みを活かす」とは、単なる精神論ではなく、組織の生産性を最大化するための実務的な戦略です。
人事担当者の皆様には、従業員が抱える「違う自分になろうとする無駄な努力」を解除し、本来の持ち味を活かして成果を出せるよう、意識変革をリードしていただくことを提案します。
まずは、面談や研修の場で「完璧を目指すのではなく、自分の勝ちパターン(強み)を見つける」ことの重要性を伝えてみてはいかがでしょうか。
このコラムを書いたプロフェッショナル
知識茂雄
ガイアモーレ株式会社提携講師(株式会社ハート・ラボ・ジャパン)
前職では半導体製造技術者として勤務しながらコーチングやアサーション研修の社内講師も務める。独立後、ストレングスファインダーを活用したチームビルディングやリーダーシップ研修を中心に提供。ストレングスファインダーのプロファイリングに定評がある。
知識茂雄
ガイアモーレ株式会社提携講師(株式会社ハート・ラボ・ジャパン)
前職では半導体製造技術者として勤務しながらコーチングやアサーション研修の社内講師も務める。独立後、ストレングスファインダーを活用したチームビルディングやリーダーシップ研修を中心に提供。ストレングスファインダーのプロファイリングに定評がある。
前職では半導体製造技術者として勤務しながらコーチングやアサーション研修の社内講師も務める。独立後、ストレングスファインダーを活用したチームビルディングやリーダーシップ研修を中心に提供。ストレングスファインダーのプロファイリングに定評がある。
| 得意分野 | キャリア開発、リーダーシップ、コーチング・ファシリテーション、チームビルディング、コミュニケーション |
|---|---|
| 対応エリア | 全国 |
| 所在地 | 熊本市 |
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