Case_3 復職してくるメンバーを安心して受け入れるには
当社の東北営業所の所長から「うつ病で休職中だったAさんが来月復職するが、どのような受け入れ態勢で迎えたらいいか」と本社の人事担当者である私に相談がきました。Aさんは40代男性、中途採用で、当社には10年勤務しています。今年1年半の休職後、復帰する予定です。実は、Aさんは以前にもうつ病で休職していたことがあり、そのときは半年後に復帰していますが、その後再び発病して、今回の休職となっています。
復帰先は元の職場です。1年半の間に異動や組織再編でメンバーの3分の2は入れ替わっていますが、3分の1くらいのメンバーはAさんのことを知っています。営業所としては、人員補充もなく、Aさんの業務を現在のメンバーで分担していたので、復職することは歓迎ですが、再発したという経緯もあり、受け入れに際してどう接したらいいかわからないという声があがっているといいます。所長としては万全の準備をして受け入れたいと、慎重になっている様子です。
いきなり営業回りをさせるわけにもいかないので、とりあえずは、内勤からスタートしてもらう予定です。ただ、営業所なので、朝は全員出社しますが、日中は大半が外出しており、直帰する者も多いため、日中営業所が全員不在になることがあります。それに、所長も他の営業所を兼務していて事務所にいる時間が少ないため、復帰後のAさんに目配り・サポートできる者がいない環境になってしまいます。それもあって、復職の具体的な内容はまだ決めかねているということでした。
正直、私ども本社人事としては、現場の細かい支援状況まではつかみかねるので、現場主導で考えてもらいたいところですが、気をつけたいポイントなどあれば教えて下さい。
■こころの声■
- もちろん人事もフォローするが、現場でも考えてほしい。丸投げは勘弁してほしいな。
- ギリギリの人員でやっている場合は、現場が下手なこと言って再休職を繰り返されたら困りますね。
【対応の考え方】
<受け入れ先のメンバーに心理教育を実施する>
うつ病と診断を受けて休職していたAさんを受け入れる現場と、その現場の課題をどうサポートするかという人事、それぞれにできることを考えてみます。まず、復職を受け入れるタイミングについてです。
「復職可」という診断書が出ると、そのまま復職させてしまうケースが時々見られますが、まずは、本当に復職が可能なのかを判断する必要があり、その最終判断をするのは、主治医ではなく会社です。主治医の立場からすると、患者さんから「普段の生活に問題を感じなくなりました。症状も治まっているので復職したいのですが」と訴えられると、「復職可」とする診断書を作成しましょう、ということになります。しかし、日常生活には支障ないところまで回復していても、それは業務ができることとイコールではありません。
したがって、主治医の意見は判断のための材料と考え、上司、人事担当者、産業保健スタッフ(産業医・産業保健師など)等が“復職判定委員会”を組織し、診断書と本人との面談結果などを考慮しながら、復職の可能性を検討するのが望ましいといえます。
<復職先の原則は元の職場。受け入れのための3つのポイント>
しばらく休職した後の復帰は精神的にも負担が大きく、勝手のわかっている仕事、気心の知れた同僚のいる職場に復帰させるのがよいと考えられます。また、休職者本人の了承を得られた場合に限られますが、受け入れる同僚もメンタル不調による休職であることを知っているほうが、受け入れの際に意識を統一しやすくなります。ただし、仕事の内容や職場の人間関係、ハラスメントが体調不良の大きな原因だった場合には、元の職場に復帰することがよいとは限りません。本人と相談して状況を十分に把握した上で復帰先を決めていきます。
この事例では、次の3つのポイントについて私たちが支援をしました。
まず、①本人への面談による現状アセスメントです。本人の心身の健康状態、服薬状況について、不安に思っていることなどをヒアリングし、必要に応じてアドバイスしました。
次に、②アセスメント結果を管理者、人事担当者と共有し、復職後の業務をプログラム化しました。復職プログラムの基本は、業務時間、業務内容、体調チェックです。この事例の復職先は営業所だったので、日中は全員が出払っている状況のため、事務業務からスタートすることとし、その具体的業務内容と、定期的な上司の面談の取り決めを行いました。職種や職場状況によっては、出・退社時に、復職者の事情を知る一定の人物へのあいさつをルール化することもあります。こうすると、日々の表情や声、態度から、異変に気づきやすくなるからです。
最後に、③復職先メンバーへの心理教育です。①の面談で職場に伝えてほしいこと、伝えてほしくないことをあらかじめヒアリングしておいて、メンバーに伝えます。その上で、メンバーに率直な疑問をたずね、どんな協力ができるかについて話し合いました。
以上のような復職者と現場の橋渡しをお手伝いすることで、無理の少ない復職が可能になりました。
文責:保健同人社EAPコンサルタント
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