人的資本とは?背景や情報開示、アクション案を解説(後編)
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前編では、人的資本という概念とその背景についてご紹介しました。企業がどのように人的資本を捉え、経営戦略や市場価値にどのように結びつけるかが今後ますます重要になる中で、後編では具体的にどのように人的資本の情報開示に取り組むべきかについて掘り下げます。
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前編目次
・人的資本とは?
・「人的資本」と「人的資源」の違い
・人的資本経営とは?
・人的資本の情報開示が重要とされる背景
‐企業の市場価値の構成要素が有形資産(モノ・カネ)から無形資産に移行
‐投資家による重要性の認知
‐情報開示に対するニーズの増加
・人的資本の開示に向けた指針となる「ISO30414」
・日本企業に求められる開示内容
後編目次
・人的資本開示の指針となる「ISO30414」
・日本企業に求められる開示内容
・人的資本開示に向けた3つのアクション案
・人的資本開示が先行している企業のアクション
・人的資本の開示は人事部門の変革のきっかけになる
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人的資本開示の指針となる「ISO30414」
2018年、人的資本開示の国際的なガイドラインとなるISO30414が制定されました。11領域と49項目にわたり、人的資本の情報開示の指針が示されています。
ISO30414に則った情報開示を行うことで、日本だけでなく世界のどの企業でも同じ指標で把握することが可能になります。ISO30414を活用することで、自社の人的資本の課題を見つけるヒントとなり、人的資本経営の取り組みへ繋げることが期待できるでしょう。
日本企業に求められる開示内容
さて、こうした中で日本企業にはどのような項目で人的資本の開示が求められることになるでしょうか。
前述の経済産業省「非財務情報の開示指針研究会」における人的資本に関する議論内容や、内閣官房「非財務情報可視化研究会」の取りまとめ内容から分析していきましょう。
ポイント1:可視化と実践の連動
ー 競争優位性を確保するためのビジネスモデルの明確化等戦略の構築
ー 戦略を実現するために求められる人材像の特定と提示
ー 人材を獲得・育成していくための人材戦略
ー 結果をモニタリングするための目標やKPI設定やベンチマーク情報
上記の要素を連携させながら実践し、可視化していくことが求められる。
ポイント2:「価値向上」「リスクマネジメント」の2軸による項目化
日本企業の特徴を加味して、人的資本への投資の質・量の向上と企業価値向上を連動させるための項目としては、下記の観点が求められる。
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まとめると、日本における企業の人的資本開示のラインは、すでに存在している健康経営指標(ホワイト500)や女性活躍推進指標(えるぼし、くるみん等)、コーポレートガバナンスコード等で表されている項目がベースとなるでしょう。
そのうえでスキルや資格取得、社内外の教育研修への投資といった、人材育成に関する投資と投資に対する効果を定量的に表す項目が重要視される見込みです。
取り上げられている項目は、いくつかはすでに開示することが一般化しており、その他の開示内容が決まり一定のルール化がなされれば、各企業はすぐ対処にむけて動くのではと思われます。
一方で義務化が進むことで項目の開示自体が自己目的化し、形骸化する可能性も秘めているのではないでしょうか。
人的資本開示に向けた3つのアクション案
最後に、各企業の人的資本開示の発展段階に合わせた、3つのアクション案を提示いたします。
これから本格的に取り組む企業のアクション
「守り」の項目開示 データ収集と開示サイクルの定着
まず、多様性や働き方等共通化した項目に関する情報を収集し、開示する体制を整えることがスタートです。
たとえば「女性活躍推進」や「男性育休」は、投資家だけでなく採用市場においても注目される指標となりつつあります。競合他社や労働市場における標準と比較し、課題となる点を分析し、改善するサイクルを定着させることを目的とします。
戦略性のあるKPI・目標設定と社内との対話
次に開示内容に対して戦略性やストーリーを含めていきます。
女性管理職〇%、男性育休取得率〇%が実現されて企業の成長に関する何に繋がるのか、そもそも実現可能性があるのか等、企業の成長戦略や人材戦略との関係性が正しく理解できるKPIや目標設定を検討することが一例です。
また、従業員の心情や実態と乖離がない開示も求められます。人的資本の開示は社外だけではなく社内に向けたコミットであり、メッセージです。
軸を絞って項目を開示するとともに、制度や組織文化と連動させ、従業員が共感やメリットを感じ、腹落ちできる目標を立てることが必要です。あわせて、社内からの定期的なフィードバックやエンゲージメント調査を利用したモニタリングで、乖離の有無を確認するとよいでしょう。
人的資本開示が先行している企業のアクション
「攻めの指標」を開示して達成に向けた事業部門と連動
すでに人的資本の開示が定着している企業は、前述の「攻め」の指標を増やし、達成に向けた施策実施や改善点の見直しといったサイクルを回していくことが求められます。
主な開示ポイントとしては以下3点があげられます。
1.人的資本への投資と財務情報の連動についての分析。人的資本への投資や施策の結果が、企業の成長や業績にどのような相関を与えているか。ただし、人的資本への投資は必ずしも短期的に成果を生むとは限らないため、長期的な視点について説明が必要。
2.人的資本への投資(インプット)が最終的にどのようなアウトプット〜アウトカムを生み 出すしくみとなっているのか、何をもって測定するのか。
3.仕事や職務に必要なスキルや経験の定義や、充足にいたる教育、育成、配置に関する項目 化、および目標設定。
これまで定量化されることが少なかった領域であり、どのような項目を設定することが、企業にとっての成果を他社に説明することにつながるのか、考えることがスタートとなります。
また、実現に向けては人事部門と事業部門との協働が必須となります。
そのためには次の事項がポイントとなるでしょう。
・人事は自部門や経営層だけではなく、事業部門にとってのよきビジネスパートナーとなる
。事業部門に対して採用や育成、エンゲージメント等の人事課題を共に明確化し、解決にいたるまでの状況を定量化してモニタリングすることで、自社の人的資本の状態が可視化されて社内に共有される。
・人的資本への投資を人事マターにするのではなく、事業部門を巻き込み、自分事とするための制度設計。特にコアメンバーとなる現場部門長、管理職の評価に、人的資本のインプットおよび成果としてのアウトカムへの寄与度合いを組み込み、報酬、昇格等の軸にする。
人的資本の開示は人事部門の変革のきっかけになる
人的資本の情報開示がこれまでの人事トレンドと異なるのは、市場や企業価値と直接的に連動する、つまり経営そのものに直接的な影響を与える点です。
また、標準となる人事指標が存在することで、人事施策の妥当性や効果測定の判断材料として活用されることにも繋がります。人事にまつわるデータは、現業優先で個別最適化されて集計できないことや、現場部門の協力が得られず収集できないことがあります。
結果として、活用や分析、さらには定量的な効果測定に繋げられないことも多々あったのではないでしょうか。
出力する指標と必要なデータが明確であり、なおかつ社内だけではなく社外開示にも必要な経営情報として位置づけられれば、そこから逆算したデータの収集フローの確立やデータの管理方法を定義することが可能になります。
最終的には、「人材版伊藤レポート」でも触れられているように、これまで管理部門でありバックオフィスのコストセンターとして位置づけられることもあった人事部門が、そこから脱却し、企業価値を創造する主要な一翼を担うきっかけにもつながるのではないでしょうか。
- 経営戦略・経営管理
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WHI総研
大手企業の人事業務設計・運用に携わった経験と、約1200法人グループのユーザーから得られた事例・ノウハウを分析し、人事トピックに関する情報を発信。
伊藤 裕之(イトウ ヒロユキ) 株式会社Works Human Intelligence / WHI総研シニアマネージャー
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